第66話
視界の映るすべての景色が真っ白に埋め尽くされた。
そして聞こえてくる叫び声。
人と馬の断末魔があたりに響き渡る。
戦場は一瞬にして変えられ敵にとっての狩場となった。
目の前を見ても後ろを見ても白しか映らない。
俺は頭で考えるよりも先に身体が動き出す。
檻の柵の間からどうにか抜け出せないかと出来るだけ身体を小さくしたりして動く。
だがこの檻は特別性なので俺が通れるような隙間はなく…そして俺は諦めた。
ここの檻には出入り口というものがない。
入るには火の魔法が付与された道具を使いこじ開けるしか方法がない。
俺がここに入れられた時も道具を使い檻の柵の一部を火で曲げ俺を入れてもう一度直したぐらいだ。
…まぁどっちみち俺がここから出ることはできないというわけだ。
「う、うぅ」
にしても寒い。
さっきよりもさらに寒さは強くなり風も強風と言えるほどの風速になっている。
こんな時に獄炎舞でも使えればどんなに楽だっただろうか。
だがそんなことしたら今もなお遠くで青白く光るアイツに気付かれてしまう。
にしても何故アイツは魔法を使う奴を狙うのだろうか?
どんな攻撃でこちらを凍らせてくるのだろうか…。
そうこう俺が考えていると気持ちも段々と落ち着きを取り戻していき俺は頭でちゃんと考えるほどにまで落ち着いていった。
そうして俺は待ち続ける。
ただただこの寒い中地に体育座りをしながら必死に寒さに耐え続ける。
俺は耐えて、耐えて、耐え続けようやく空に一つの狼煙が上がる。
その光景を見て歓喜した。
狼煙が上がれば俺が魔術を敵に撃ってもいいという合図である。
その合図が出されたということはあちらで戦っている奴らもこれから撤退を始め魔術の範囲内からは敵以外いなくなるという魔術を放つには絶好の機会が訪れる。
小さく笑い雪を払い立ち上がる。
そして自分の手を見る。
「ハハハこりゃひでぇな」
俺の手は水膨れみたいなやつが所々にできており指先は黒ずんできている。
視界もグワングワンとぼやけ立ちくらみのような症状がするしすごく眠くなってきている。
それなのに俺は痛みや吐き気は何故か感じず笑えてくる。
「まぁそんなことどうでもいいかとりあえず…魔法陣展開『アダプータ』」
自分を対象にして魔法陣を素早く描き付与していく。
このアダプータという名の魔術は適応という魔術でありここに来る前に覚えておいた一つの魔術である。
これにより暑さや寒さといった温度変化に対しての耐性と身体に耐えられる温度を大幅に上昇させるというものだ。
人間という体はプラマイ50℃ぐらいまでしか耐えられないからな。
「さて下準備は終わった。ここから俺による反撃を行おうじゃないか」
MPを黒くなった指にもう一度込め火のシンボルを中心に描きそこから円を描き魔術式という名の独特な文字を描きそれにただの丸に円を描き魔術式を描き無属性魔術とした魔法陣を結合させる。
それを素早く空中に創りだし量産していく。
MPの消費量なんて気にしない。
そして全ての魔法陣を一つに結合させそれを囲むように円を描き大きな魔法陣に変える。
それをぶつけるため撃つ対象を見る。
対象はどうやらものすごい速さでこちらにきているようで光を発しながらこちらに近づいてくる。
そして俺は驚愕の事実を知ることとなった。
青白い光が横にずれたかと思うとそこには青白い光が残っている。
それがさらに横にずれさらに増えてまるで分身、分裂しているかのようにも見える。
絶望は絶望を招いた。
どうやら敵は一体だと思っていたのは俺達の間違いだったようだ。
だがもう逃げる事はできない。
やるかないのだ。
それしか生き残る道は残っていない。
いやもしかしたら凍っても溶ければ生きているかもしれないがそんなの超が着くほどの低確率だろう。
手に、足に、身体に力を込めて絶望に対峙する。
そして魔法陣にMPを込めいつでも発射できる準備をする。
タイミングが大事だ。
アイツらの攻撃方法が近づいて凍らせてくるのかそれとも遠くから凍らせてくるのかわからないが俺は近づいて凍らせてくるということに賭ける。
そして近づくという事は俺めがけて襲いかかって来るという事だから全ての対象が魔術の範囲内に収まった時に魔術を発動させる。
それしか全てを倒す方法はない。
今はただ待つ。
1ミリでもずれたら魔術による攻撃の威力は大幅に減る。
だからこそ今は冷静になって集中するのみ。
俺はそう心に決め息を深く吐き身体全身に酸素を取り込むため空気を吸う。
「いまッ!魔法陣展開!『ミニマム・ヘル』!」
発動すると共に魔法陣が赤くなり炎を噴き出す。
そしてそれは数秒経つと赤や黄、青と色々な色の炎がまるで矢のように高速で飛ばされていき地面に落ちる。
落ちた炎は黒色に染まりそして黒色の柱となり火花を散らし火が広がる。
そうして広がった炎は雪を軽々しく燃やし尽くし一面真っ白だった大地は真っ黒な大地に変えていく。
「ぐぅッ…熱い」
先程の温度を調節する魔術をかけていても熱いと感じる熱風が身体を包み込む。
檻の中の雪は完全に溶け水になりお湯となり熱湯になり蒸発していく。
そして鉄でできた檻の床は鉄板のようになり俺をまるで料理するかのように時間が経つごとに熱されていく。
「だ、だがこれで流石にアイツらも倒れただろう…ッ!?」
そう言って俺は敵がいる方向を見る。
それを見てまたもや驚愕した。
何せアイツらがまだ生きていたからだ。
大きな芋虫…いや蛆虫の身体は黒炎の上を這いながらこちらにゆっくりと移動してくる。
どうやら身体から溢れ出している黒色の体液のようなもののおかげで炎の熱が伝わっていないのだろう。
俺はすぐさま切り替え冷静に対処するべき対象を見る。
これからどうするべきかどうやったら倒せるかを模索する。
あの頃の失敗は繰り返してはいけない。
焦って行動してはいけない。
まだMPは余裕を持って余らせている。
あの時のような速さをアイツはもう持ち合わせていない。
だからこそ確実に殺す。
まだ生きて帰れる可能性が残っている。
だからそれを失わないように俺は必死になって喰らいつくしかないのだ。
*今回使った魔術一覧*
アダプータ:対象の温度や状態異常に対しての耐性を大幅に上昇させる。ただしあくまでも耐性を上げるだけ。
ミニマム・ヘル:直訳で小さな地獄を意味する。魔法陣から火を噴出させ着弾した時に火柱をあげさらに被害を拡大させていく。炎の威力はゆうに800万℃を超える。範囲指定により広がる範囲を決めることが可能。発動するだけで地形を壊すため滅多なことでない限り使う事はないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます