第65話
あれから数日が経った。
その期間俺は部屋から出ることはなく誰とも会わない日が続いた。
食事も『飽食の胃袋』があるので困らないから別に不自由なく暮らしていく。
「作戦決行は…明日か」
もうすぐそこまで俺の命日になるだろう日が近づいていく。
その恐怖は最初こそ俺を蝕んでいったが今ではもう何も感じなくなっている。
これが『無情』のスキルの副作用とでもいうのだろうか?
『無情』の効果は何事にも動じなくなるというもの、それは顔に出なくなるだけだと詳細に書かれていたのに…前まであった恐怖という感情は日が経つごとに薄れて消えた。
今はただただこんなことを勝手に決めたアイツらが憎い。
ふとあることを思いつき周りにある気配を調べる。
この部屋の外、城の中、そして外。
全てを調べそして一つの結論が口から溢れた。
「…逃げても無駄か」
どうやら参謀の奴は相当俺のことを警戒しているらしいな。
部屋の外には騎士が2人、城の出入り口に5人、この部屋の上の部屋に暗殺者らしき者が10人、外には騎士が30人の全員が俺のいる部屋を凝視しながら待機している。
全くこんな寒い中ご苦労さんなことで…。
そんなに逃げるか心配なのだろうか?
「考えても無駄か」
俺はそう結論づけベットに寝転び目を閉じた。
それから数分も経てば意識がぼやけ何も考えられなくなり意識を手放した。
ガタンガタンと腹に響くような音が鳴り響く。
前からは馬の『ブルルルゥ』という声が聞こえてくる。
そして吹雪の風が背筋を撫でるように流れて俺の身体を一段と冷やす。
さてここで問題です。
俺はどこにいるでしょうか?
「答えは…鳥籠の中です」
俺は誰にも聞こえないような小さい声で呟く。
そうして長いため息を吐き出す。
鳥籠。
鳥を捕まえて飼育、保護するために入れ物なのだが何故か俺はその中に入っていた。
これを見た『ドラゴニア』や騎士団の人達は流石にひどいのではないかと参謀に抗議しに行ったが帰ってきた言葉は「攻撃が当たらないようにするための処置」だと一点張り。
全く持って馬鹿らしい話だ。
今回討伐対象になっている奴の攻撃方法は魔法使いを氷に変えるという摩訶不思議な方法で物理攻撃ではない。
それなのに攻撃が当たらないようにするための処置だと?
…こんなのは俺が逃げないようにするための置物にすぎない。
「にしてもこれはひどくないだろうか?」
普通の馬車というものは人や物が落ちないように、雨に濡れないようにドーム状に布が被されてあったりするのだがこの馬車にはそれがない。
つまり荷台と御者用の座る場所と馬の手綱をつなぐ縄、そして俺が入れられている鳥籠…いや牢屋ぐらいしかこの馬車にはない。
雪は身体中に着くし雪を払わなければ座る場所に雪が積もる。
こんな待遇を受けるなんて…俺は罪人か?
そんな考えが巡り一層参謀への怨みが増え続ける。
この戦いが終わったら真っ先にアイツを潰そう。
何がなんでもだ。
なんなら報酬を受け取るのを拒否してアイツを殺す権利をもらいたいぐらいだ。
考え思考していくうちに時間は進みそうして俺達は港町へとたどり着いた。
町は凍りつき人の氷像と凍死したであろう人や動物、凍りバラバラになった人であろう身体の一部やら色々落ちている。
それを騎士達は拾い土の中に埋めていく。
こんな時でもなんで俺はこんな檻の中にいるのだろうか…。
そしてなんで俺はこんな状況を見て何も思わないのだろうか?
そんな死人への供養などが終わり俺達は討伐対象のいる場所へ向かう。
どうやら斥候の者によるとここから3キロほど離れたところにいるらしい。
移動速度は遅いようでそこまで離れていない。
それを聞き騎士団の隊長は素早く陣形を整えて指令を出していく。
俺の仕事は少し離れたところで敵の様子を伺いチャンスと思ったら捨て身で魔術を放つというもの。
せっかくだしどデカいのをぶち込もうと思っている。
…騎士団と移動中…
「なぁお前さん…夢はあるか?」
敵がいる場所が見え檻を少し離れたところに置かれ設置された時檻を運んでくれた騎士の1人がそう尋ねてきた。
俺は少し悩み考える。
夢、前世での夢は億万長者とかいうよくわからない適当な夢を目指していたが今の俺の夢はなんだろうか?
俺がそう悩んでいると話してきた騎士は少し気まずそうな顔をして「や、やっぱいいや。今の言葉は忘れてくれ」といって俺のそばから離れていった。
「夢、かぁ…」
何が夢なのだろうか…将来なりたいこともないし金にも困っていない。
なんなら冒険者をしているだけで相当金は溜まっていくしこれといったやりたいこともない。
夢を作るのが夢だとか一瞬馬鹿らしいことが思い浮かんだがこれはただの言い訳に過ぎないだろう。
「無難に家族を作ること、かな?」
新築の家を買い家族と一緒にのんびり平和に過ごす。
子供がいて俺と一緒にいつまでもいてくれる人がいて…そうだペットも欲しいな。
あの頃は仕事で忙しかったからペットを飼っている暇もなかったからなあ。
そんな夢物語を思い浮かべていると勇ましき魂からの叫びが木霊する。
どうやら戦いが始まったらしい。
気を引き締め直しいつでも魔術を撃てる体勢を作る。
そして次の瞬間だった。
その光景に目を疑い目をこすり目を凝らした。
視界が、目に映る全てが…世界が真っ白に染まった。
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