第64話

調理場からメイドさんに抱えられ移動し俺はとある会議室に招かれていた。

入るとそこは議論が飛び交う場所でさっきよりもさらに場違い感がある場所だ。

そこで行われている議題はこの『寒さの原因の討伐』というものだった。

机の一つ一つにその詳細が書かれておりそれをどうするかを議論しているらしい。


「や、やぁ。おはようレナ」


俺がメイドと一緒に自分の指定された席に座ると隣の席のについていたアルキアンが俺に話しかけてきた。

その言葉に俺はアルキアンにしか聞こえないように注意をしながら「おはよう」と挨拶を言いそこから今何をしているのかを聞くことにした。


「うーん。まぁ寒さの原因となっている魔物の討伐部隊をどうするかを今決めているんだよ。騎士団の団長さんはやる気みたいだけど財務大臣が出費を惜しんでいるみたいでね…」


それを聞いて俺は納得した。

この雪の中大軍で移動するには高騰している食料及び人件費などが必要になる。

しかも騎士団で足りないなら冒険者ギルドも頼らなくてはならない事態となりさらに依頼料もそこに重なる。

さらに最近冒険者ギルドに依頼してあのナメクジとの戦争も行ったからな。

もうこれ以上の出費を出したくは無いのだろう。


「ねぇ…俺達ここにいらなくないか?」


ここは大人が会議する場だ。

しかもそういう話は俺達、子供が聞く話では無いと思うし…。

正直言ってそんなことどうでもいいとさえ思ってしまうしな。


「ま、まぁまぁ一応聞いておいて損はないと思うし…ね?」


俺は少し不機嫌になりながら机の上に置いてある詳細の書かれた紙を見る。

それには次のようなことが書かれてあった。


魔物名:不明

指定個体名:氷食虫グレイシャー

危険度:不明

容姿:体表は真っ白であり非常に巨大な蛆虫のような容姿を持ち二つの目のようなものを持ちそこから常に黒色の液体が滴っている。

発見場所:港町シーボリア

特筆:魔法を放つ者を氷に変えてその氷を集めそれに自らの身を乗せ移動する。また自ら青白い光を淡く出しており近づくほど寒さが増していっている模様。このことから対象が今回の吹雪を出しているのではないかと想定される。


なるほどねぇ。

見た感じマジで害悪そのものだ。

しかも魔法を放つ者を氷に変えるっていうことは魔法を使うことは必然的に避けられるし近づくほど寒さが増すから近づいて攻撃することもあまりできなくなる。

まぁ寒さを我慢して特攻なんて馬鹿げているしそんなことしても討伐の望みは薄い。

しかもだ寒さにより他の雪系の魔物や魔獣も近くにいるだろうからそれにも気を張らなくてはならないし…。


「ところでこの港町シーボリアってどこだろう?」


そう俺が呟くと隣に座っているアルキアンがこちらを向き話してくる。


「港町シーボリアはこの王国の北にある海に面した町だよ。…まぁこの紙を見る限りその町はもうなさそうだけどね」


そう言いアルキアンは少し表情が暗くなった。

その表情に俺は気まずくなりもう一度紙の方へ目を移すのだった。


そこから数刻の時間が経ち会議は終了した。

決まったことといえばこの国が誇る騎士団と冒険者の精鋭が出動し倒すということとなった。

冒険者の精鋭部隊の中には見知った名前である『ドラゴニア』もあり俺は少し驚いた。


会議が終わり解散となり俺はアルキアンと別れた。

どうやらアルキアンは伯爵と話があるらしく会議が終わるとすぐにこの会議室から出て行ってしまった。

俺ももうこの部屋には用事がないので離れようとしている時だった。

俺はこの会議を取り仕切っていた重鎮の中心である参謀に呼び止められた。


「そこの…確かレナといったか。こっちへ来い」


そう言われ俺は驚きながらも足を参謀の方向へ向け歩き出す。

その顔は鋭い威光を放つ眼をしており何故か剣を携えている。

俺はその姿に身をすくめながら参謀の前へ近づき片膝をつき顔を下へ向ける。


「冒険者レナよ…貴様は今回の作戦に参加してはくれないだろうか?」


突然参謀の人は俺にそう告げる。

その言葉に周りは騒然になり重鎮達は混乱する。


「鎮まれりたまえ」


その言葉に重鎮達は無理矢理口を閉じて参謀へ耳を傾ける。


「冒険者レナ…先の戦いにおいて単独で敵の本拠地へ乗り込み多大なる功績を収めた者。お前の魔法の才能に頼みをしたい。最高火力の攻撃を彼奴に撃ってはくれんか?」


その言葉の真意は「犠牲になってくれ」というものに他ならない。

周りの空気は冷め切ったものとなった。

そうして俺は決意…いや覚悟を決め口を開く。


「了解いたしました」


その言葉を参謀に言い参謀はこの場から離れていく。

俺の頭の中ではいくつもの疑問が浮かび上がっていく。

「なんで俺なのだろうか?」「俺よりも魔法が上手い奴はいるだろう」「なんならこの国の宮廷魔法使いを使えばいいじゃないだろうか」

そんな言葉が頭の中を駆け巡る。

そうしてこの短い時間でたどり着いたひとつの結末は、「誰でもいいから、人件費が少なく犠牲になっても困らない奴を特攻させよう」というなんとも最悪な考えにまとまった。


断りたかったが断れない。

何せ参謀は貴族であり俺が断ったら手に持っていた剣で首を切り落とそうとしていただろうし俺は孤児で後ろ盾という後ろ盾が何もないため問題を起こしたらまずい状況になってしまう。

つまりは処刑もあり得るという考えになってしまう。


まぁ普通に考えてそうだよな。

金がない、だから冒険者も頼りたくない。

だが少しランクが低い奴なら低価格で雇えるのではないだろうか?

敵は魔法を放つ奴を狙う。

こいつが高威力の魔法で攻撃をしてそれで死ななくてもこいつが殺されて自分たちは報酬を出すことはなくなるからこちらに利がある。

しかもその攻撃に漁夫の利で攻撃して倒せれば万々歳。


そんな考えしか出てこず俺の目の前は真っ暗になっていく。

周りでは重鎮が「かわいそうだ」だの「若いのに」やらこちらを気遣う声が聞こえてくる。


「だったら代わってくれよ…」


俺は誰にも聞こえないような声でそう呟き立ち上がる。

そしてその場を後にした。

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