第62話

馬車を捨て地を歩く。

空からは降り注ぐ風と雪が混じり合い俺達の体温をゆっくりと下げていく。

歩き出してから何時間経ったのだろうか?

いや実際は何分ぐらいしか経っていないのだろうが何しろ時間がわかるものが何もないから今が朝なのか昼なのかもわからない。


…気配操作に反応ありか。

魔物か魔獣かはわからないが囲まれていることから察すると魔獣の類いだろう。


「アルキアン!敵だ!討つぞ!」


「わかった!」


そう俺が言ったことに反応してアルキアンはすぐさま腰につけている剣を抜き詠唱を始める。

どうやらアルキアンは魔法剣士のようだ。

っとそんなこと今はいいか。

こちらも攻撃する準備をしないといけない。


「魔法陣展開!獄炎舞!」


魔法陣から12個の炎の玉が宙を舞いながら俺の周りを旋回する。

そしてそれを出来るだけ薄平たくしてからアルキアンに当たらないように敵に放つ。


「ちッ!12個中8個命中か」


だがこれで雪が溶けたことで魔獣の姿があらわになったな。

敵はDランクの魔獣の『スノーウルフ』か。

冬に現れる魔獣で団体行動が得意であり俊敏性に長けている魔獣だ。

最も危険な点でいうのなら攻撃を行う際に牙に氷が纏い鋭くなるという点ぐらいだろうか。

あとウルフ…つまり狼系の魔獣の団体行動が危険だ。


そんなことを考えていると後ろから近づいてくる気配を感じて一歩後ろにジャンプする。

その直後スノーウルフが狙いを定めたように飛びかかってきたので蹴りを入れる。


あまりここで体力を使う行動はしたくはない。

ここで体力を使い切ってしまったらここから動くことができずに凍死してしまう恐れがある。

それに魔力だって有限だ。

ポーションがあるから少しの無茶は許されるだろうが油断はできない。


ふとアルキアンの方を向くと剣を振りスノーウルフを三匹同時に攻撃しているのが見えた。

そしてスノーウルフと距離をとった後手を前にかざす。


「赤き炎よ!我の敵を燃やせ!『フレイム』!」


そう言うとアルキアンのかざした手の中心部からまるで火炎放射器のような炎が噴き出しスノーウルフ二匹を燃やす。

そうして燃えたスノーウルフは地を這いずり回り力無く崩れ落ちていく。


…やっぱり炎は怖いね。

死ぬ時はやはり楽に死にたいと思うな。

俺が一度ああいう死に方をしたからこんな感情が生まれるのだろうか?


「ふぅ…魔法陣展開!エアーカッター!」


だからここで殺さないかと言われればそれはノーと答える。

生きるためだしょうがない。

そんな考えで今まで生きてきたのだからこれからもその考えは変わらない。

やはりこいつらには死んでもらうことにしよう。

たとえそれが無惨な死に方でも。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


近づいてくるスノーウルフの顔面を蹴り上げ掌底を喰らわせる。

時に魔法陣で攻撃。

時に近づく敵を手や脚を使いこなして骨を折る。


「ふぅこれでラストぉぉぉぉッ!」


そう言いアルキアンが剣を振り下げて首を切断する。

…ようやく終わった。

俺は周りを見渡す。


「うわぁグロいなぁ」


周りを見るとアルキアンが切った首や脚が転がっていたり焼死体がいる。

そして俺の周りにはエアーカッターやらで切り裂いたせいで体が真っ二つになったスノーウルフの死体にそこから出た血液などが散乱している。


「にしてもかなりの数いたなぁ」


目で見るだけで二十匹はゆうに越している。

はぁぁぁ本当に疲れた。

気配操作で最初見た以上に出てきたわ。

多分戦っている間に仲間を呼ばれたのだろうな。


俺がそんな風に考えていると前からアルキアンが近づいてくる。

その顔は少し疲れているように見える。


「さぁ行こうか…このままじゃいつまで経っても村や町につかないよ」


そうして俺達はまた歩き出した。

歩いている最中にもスノーウルフの襲撃は続きもう今までで六十匹以上は討伐している。

運が良かったことといえばフロストワイバーンにはまだ遭遇していないということだろうか?

前は不意打ちで倒せたから良かったけど直接の戦闘になるとしたら苦戦することとなるだろう。

今はとにかく歩かなければことが進まない。


「レ、レナ!あれ王国の城壁じゃないか!?」


突然そう言われて俺は前を向く。

そこには見慣れた旗がなびく石作りの門が見えている。

俺達は互いに顔を見てうなづきそこへ走り出した。

ようやくこの地獄のような寒さが続く旅も終わりを告げると考えたら俺達の足はまるで羽が生えたかのように軽くなったのだった。


そうして門のそばに辿り着き俺達は門番をしている人に門を開けてくれるよう願った。

そしてどうやらアルキアンの知り合いの門番だったらしく顔パスで門を開けてくれた。

あの門番の人には感謝しかないな。


門番の人は俺達を王城へ連れて行くためにあんな寒い中外にいたと説明された。

どうやらあの時返した御者の人が執事に話して手配したらしい。


そうして俺達は連れられた王城で…レイアン伯爵に叱られていた。

どうやらめちゃくちゃ心配されたらしくアルキアンと共に俺も怒られた。

内容としては危ないことをしたことについてを問い詰められることとなった。


だが疲れ切ってしまっていた俺の身体はこの説教を全て聞くことはできなくなってしまっていたらしく俺は途中から意識を手放してしまっていた。

そうしてふと目が覚めた。

横にはアルキアンがいて目を閉じている。


「…ふぁぁぁぁ。眠い…寝よ」


俺は何も考えたくなかったためそのまま何もせずに目を閉じた。

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