第61話
今俺はアルキアンに連れられて馬車に乗り込んでいた。
どうやらアルキアンの父であり領主であるレイアン伯爵と『ドラゴニア』の皆さんは王国に行っているらしいのでこの依頼はこいつ独断で俺に依頼を出してきたらしい。
「ふぅそろそろいいか…さてレナ。君はこの寒さはおかしいとは思わないかな?」
そう言われて俺は首を傾げる。
ここ最近の冬はたしかに寒いとは思ってはいるがそこまでおかしいとは思っていない。
「…むぅ。君は気づいてないかもしれないけどねこれは異常な寒さなんだよ?」
そう言ってアルキアンは喋り出した。
どうやらこの土地は冬でも暖かいことで有名で雪だって降らないらしい。
普通だったらフロストワイバーンや雪主なんて魔獣や魔物は近づきすらしないらしいのだが今年は異例の事態となっていてこういう魔物がたくさん出現している。
「それでこの寒さの原因を父上が探すために王国に向かったのだがなかなか帰ってこないんだ。だから迎えに行こうと思って君に依頼をしたんだ」
「だが『ドラゴニア』の皆さんも行ったんだろ?大丈夫じゃないか?」
そういうとアルキアンは首を振る。
聞くところによるとこの土地の外はこれ以上の寒さになっており水も食料も全てが凍りついているらしい。
畑も凍り食べる物さえ無い所もあるらしい。
だから迎えに行くと共に村や町に食料の提供を行うといったことをしたいらしい。
「はッ聖人かよお前さん」
反吐が出るような聖人の発言に俺は悪いと思いながら嘲笑うかのようにアルキアンは言う。
だがアルキアンは優しげな顔をしながらこちらを向きながら発言する。
「そういう君も僕から見たら聖人みたいだけどね。何せ困っている人を見つけたらすぐ助けてくれると街で有名だし」
俺は何も言い返せなくなってしまった。
たしかに俺はあの街で困っている人を見つけたら助けてきた。
まぁ子供と高齢者だけだが。
少し俺とアルキアンは睨み合った後にアルキアンはもう一度口を開く。
「さて…依頼を受けてくれたんだ。手伝ってくれるよね?友人?」
「…おう」
俺はその言葉に折れた。
面倒だが前金ももらってしまったし友人からのお願いだ。
無碍にはできない。
そうして俺達の王国への移動が始まった。
近くの村から遠くの村や町にまで行き俺は魔術で火を出して温めてあげて感謝される日々を暮らすこととなった。
アルキアンは魔道具の空間魔法が付与された袋を使い食料品などを住民に分け与える。
こうして俺達の日々は過ぎていった。
こうした日々が続いて数日が経ちようやく俺達は王国を目指して馬車を走り出そうとした時だった。
「ねぇレナ。今日はやけに雪が強くなってきてないかい?」
「そうだな今日は一段と寒いしそれに前がよく見えなくなるほど雪が降っている」
後ろを向いても前を向いても真っ白。
ホワイトアウトという言葉が一番似合う現象に俺達は今悩んでいた。
太陽も見えないし影も見えない。
そのせいで王国のある方向もよくわからないし完全に迷子になってしまっていた。
「…馬ももうこれ以上雪に積まれると動けないか…ねぇレナ提案があるんだけどさ」
アルキアンの提案はこうだ。
これ以上は馬が動かなくなっちゃうから御者さんだけは助けようとのことだ。
流石に御者さんはその提案に反対はしたが貴族としての命令、そして奴隷紋の命令により従わなくしかなくなりまるで操り人形のように体が動いて馬に乗る。
まぁこれ以上は俺達に付き合ってくれた御者に失礼はできないしな。
そう思い俺はその提案を飲んだ。
馬は操り人形のようになってしまった御者を乗せ走り出す。
御者は必ず助けに行きますと涙を流していたが期待するだけ無駄なのだろう。
俺はその光景を見ながらこの後のことを考える。
俺達に残されたのは馬車の乗る部分のみ。
「ふふふ君もこれで聖人だよ…さぁてこれからどうしようかな?」
アルキアンは困ったように言う。
全くこれからどうするべきだろうか。
俺達は悩みながらその場で立ち尽くすことしかできなかった。
それから一日経過した。
昨日よりも少し吹雪が強くなりますます目の前が見えなくなっていく。
馬車も雪かきをしていないから少し埋まってしまいドアを開けることができなくなってしまっていてここから出る方法は窓から出るしか無いと言う状況になってしまった。
この状況が続いたらまずいことになってしまう。
ならば俺達はここから行動しなくてはならないのだろう。
ここからの選択一つ一つが俺たちの命運となる。
「ねぇレナ…その大丈夫かい?」
アルキアンに心配されるがすぐ俺は「大丈夫」と声をかける。
そうして俺達はここからどうするか今まで通り相談をし続ける。
その結果、これ以上王国を目指すことはできなさそうだから歩いてどこかの町か村まで歩くということとなった。
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