第44話

…とても懐かしい夢を見た。

家族が死んでいってしまった夢。

何気ない一言で何もかもが崩れる原因となってしまった。

「都市に行ってみたい」…その一言で全てが変わった。

今となってはもう取り返しのつかないことだ。


だが…そういえばこの記憶はどちらの物だったっけ?

俺の記憶だったかそれとも私の記憶だったかもうわからなくなってしまったよ。

それとも…。


俺は私であり私は俺である。

まぁだからなんだって言う話だがな。


そういえばここはどこだろうか?

何故か目の前はぼやけてあまりはっきりと周辺が見えない。

まぁ外じゃないことはわかるが。

それに身動きもとれない。

拘束されているというわけではないが頭の中で動いてはいけないという言葉が浮かんできて動こうとするとその言葉が俺を動けなくする。


「…(声も出ないのか)」


口も動かそうとすると動けなくなる。

というより物理的に動かせなくなっている。

これじゃまるで罪人みたいだ。

発言の自由も無く身体の自由も無い。


そんな風にここからどうするべきか頭を使って悩んでいると目の前の方に動きを感じた。

ぼやけてはっきりとは見えないがあれは…なんだ?

白くて…いや黒い?

なんというか白黒の物体が何かのパネルを操作している。


この世界はよくわからないな。

明らかにあのパネルはこの時代にあるような物では無いしかといって現代にあるような物でも無い。

近未来という言葉が一番似合う物を白黒が操作している。


…そんなことより本当にここはどこだ?

だんだん目が慣れてきたのかしっかりと見えるようになってきたが目で見れる範囲にあるのはカプセルのような物がずらりと並んでいる。

…これ俺もあーゆう風に入っているのか。

んで、それを操作しているのがあの白黒…というより形的にナメクジか。

なんで魔物があんなの操作しているんだ?


そんなこんなして時が約10分ぐらい過ぎた。

相変わらず俺は身動きがとれない。

そんな風に考えていると突然前のカプセルのカバーが剥がれ俺は一緒に入っていた水のようなものと一緒に外へと放り出される。


「…(へぶっ!)」


つい反射的に声に出そうとしてしまうが声にはならない。

すると俺の前までカプセルの中から見えていたナメクジのような奴が歩いてきた。

身体は白いが背中は黒い金属の針のような物がついており針の1本1本が触手のように蠢いている。

そして俺の前まで来たナメクジは喋り出した。


「ふむ、起きたか?完成体No.0よ」


「…(何言ってんだこいつ?)」


ナメクジは鋭い牙を見せながら少し得意そうに笑っている。

そのまま俺は何も言わずその場に倒れ込んでいるとナメクジは意気揚々に話し始める。


「ふふふ、お前は我らが主神様の加護を受けた素材を使った最高傑作…これまではワタシが自らゾンビを作ることでしか良い作品はできなかったが初めてだ!初めてゾンビにしないでこのような最高な作品を誕生させることができた!やはり主神様は偉大だ…」


ナメクジは背中から生えてる金属の針を上にあげ喜んでいるように見えた。

何しろ俺は地面に倒れたまんまだからな。

そしてそのままナメクジは続けて独り言となった言葉を発する。


「すでに完成体、君の成果は出ているよ。君の細胞を使いワタシの試作体達はさらなる進化を迎えた!ようやく試作体の域を超えたんだ…まぁそのせいかワタシの私兵の数が減ってしまったが、君がその分やればいいんだ。それで解決することだ」


そう言い俺に向かってナメクジは「立て」と命令し立ち上がらせる。

なんとも不思議な感覚だ。

自分の意思で立っていないのに何故か身体は立ち上がっていてそれを認識することができない感覚。

不気味であり鳥肌が立つ光景だがそれすら身体は反応すらしない。

そのままナメクジに命令され鏡の前に立たされる。


外見は変わっていない。

低身長で肋骨が浮き出ておりなんともいえない肉付き。

筋肉という物がまるで無いような身体で皮膚が少し青白く見えまるで生きていないようだ。

そして腰まで伸びた髪は白く、瞳は少し赤い。

なんともまぁ不健康そのもの。

というかよくこれで生きているなとも言えるような身体だ。


「…(特に変わっているところは無いな)」


「ふむ…ワタシは出来るだけ人間の姿のままになるようにしたが大成功だな。能力を改造したせいであまり良いパーツを身体にくっつけることができなかった点もあるが…」


そんな風にナメクジは少し考えるように三つの目を下げて悩むような仕草をする。

小声で「やはり身体に他種の部品を付けたほうが…いやこれで完成だ」そんなことを言って俺をまた命令して廊下を歩きとある部屋へと導いた。

そこの部屋には中心にポツンと石が置かれている部屋だった。


「完成体No.0よ。コレの石は『神瞳石』と呼ばれる我々の主神様から預かりし物、コレを使えば自分の才能、能力を見ることができる。だがワタシにはどうにも使えないらしいから完成体よ。お前が自分で見て自分の戦闘能力を確認しろ。これは命令だ」


そう言いナメクジは俺を窓一つも無い石しか置かれていない部屋に置いてドアを器用にしめた。

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