第42話

「『緋槍』」


腕が緋色の粒子に包まれ電撃が赤く赫く。

『崩撃』が周囲を一撃で壊すことに特化している攻撃だとすればこの『緋槍』は一箇所だけを貫くために特化した攻撃だ。

その一撃は『崩撃』より強力な一撃を生み出す。

欠点を挙げるのならば近づかなければ当たらない点と周りへの衝撃とかもないから1対1での戦闘にしか使えないという点だろうか。


そうして粒子に包まれた俺の腕はナイフまで包み込み淡い緋色が槍の形に変わっていく。

終わらせるそれだけを考え心臓の部分目掛けて槍の形となったナイフを突き刺す。

淡い光は強く煌めき目の前を強い閃光で満たしていく。

鉄を打ち砕いて装甲を破壊し肉を裂き骨、心臓を貫き腕が貫通した。


ついに倒した。

MPと体力がギリギリだったがどうにか倒しきることができた。

自然と笑みが漏れてくる。

ようやくこれで俺は国に貢献できた。

戦争へ行った人の1人になった。

国も守ることができた。

色々な感情が溢れてくる。


「がッ!?はァ…ぐゥ…」


喜んだその時だった。

心臓を貫いたはずの騎士の腕が動いて首を絞めてきた。


どうして?

ちゃんと心臓は潰したはずだし動かないことは確認した。

見落としなんてなかったはずだ。

人間だったらもう動かないはずだし…どうしてだ?

どこで間違ったんだ?


「まさか…人間じゃない?」


「ご名答だ。無様な愚者」


あぁそうだこの世界は普通ではないんだ。

ここは異世界、元いた世界の常識なんでここでは通じない。


そんな風に考えている間にも首を絞める力は強くなっていく。

意識がだんだん薄れていく。

なんだっけか酸素がなくなるから思考ができなくなっていくんだっけ?

なんでこんなこと考えてんだろ?

考えがまとまらない。

今何をするべきか、今何が起きているのかもわからなくなってきた。

この周りから聞こえる笑い声は誰が発しているものなんだろう?


…ただただ息が吸えなくて苦しい。

最初は動かせていた足も手ももう動いているのかもわからない。

今俺はどんな顔をしているのだろうか?

苦しんだ顔、笑っている顔、怒っている顔、驚いている顔、それとも無表情なのだろうか?

もう何もわからない。

こうして何故俺が死を恐れていないのかもわからない。

一度死んでいるから死を軽視してしまっているからだろうか?

それともこの身体が自分のものじゃないからだろうか?

スキルで回復ができるから油断しているからか?


首の骨がゴキッという音を立てる。

ゆっくりゆっくりと軋み圧力により潰れて砕けていく。

骨にヒビが入る感覚を、血管が潰れ血が溜まっていく感覚を理解する。


ふと視線を前に向けた。

騎士ではなく継ぎ接ぎの怪物。

膨張した腕は鎧からはみ出しておりそこから見える皮膚は緑色やら赤色やら色々混ざった色だ。

甲冑が頭と融合しているのだろうか?

甲冑の口の部分に狼のような牙を持っている。


通りでおかしいと思ったわけだ。

何せ貫いたところから血が出てなかったからな。

明らかに普通の生物ではない。

まるで作られた物のような感じがする。


そんな考えをしている時、首からゴリュという音が聞こえ視界が暗転した。

…脊髄が死んだか。

そろそろ死ぬのだろうか?

恐怖というものを一切感じない。

どこか俺は壊れてしまったのだろうか?

いつからこんなに変わってしまったんだろうか。

戦闘を行っている時、モンスターを倒した時、人を殺した時、本を読んだ時、それともこの世界に来た時?

意識が沈む。

今どこを向いているのかなんてわからない。


何も見えないし何も聞こえないだがこれだけは感じる。

それは空腹。

お腹が減った。

何か物を食べたい。

なんでもいい腹を満たせれるならナンデモいい。






「ヨし、よおぅやクカ」


腕の膨張した1体の甲冑姿の怪物が呟く。

するとその声を聞き周りにいた甲冑の怪物達が近寄り声をかけてくる。


「隊長…チヨとなめすぎジゃなかったスカ?」


「アぁ?まぁソウカもなァだがコイつは強カッタぜ?博士に渡しタら喜びソぅだ」


隊長と呼ばれるものがそう言うと周りも納得して頷く。

そして隊長は少し大きい麻の袋の中に持っている首がへし折れた物を入れ込み担ぐ。


「さて、ソろそロお前らいくゾ?俺らノ目的は一つこの国ニある神の血『イコル』をモち帰ルコトのみダ」


「へへへ、俺、人、殺シタイよ。隊長!」


「ダメだ…これ以上待たセルと博士に怒ラれる」


そう言い聞かせて周りを落ち着かせ隊長の指揮で王国への侵攻を始める。

周りから気づかれることなく潜入し衛兵も騎士もいない国を闊歩し疑われることなく奪い去る。

国は気づかず愚かな選択をし何も考えず兵を外へと出した。

それが敗因となりこの王国にとって最も重要な血を幾分かを奪われた。

このことを知る物はこの国にはいない。

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