第41話

あちらからの提案はこうだ。

あまりにも俺側が勝ち目のない戦いだから1対1での戦闘をしようとのことだ。

まぁ俺からすればとてもありがたいことだがそれでいいのだろうかと俺は考えてしまう。

この国にはもう騎士がいない、いるのは戦うことが出来ない住民のみだ。


俺が負けたらどうなるのだろうか。

ここ最近の住民が話していた噂を聞く限りではこの国の王は何日か前にどこかの国への訪問を行なっているらしいし他の国では祭りを行っているとの噂があり若いものはそちらへの参加を行っている。

そのためこの国に残っているのは年老いた老人ぐらいしかいない。

そう考えるとこの戦争はよく考えられていると思う。

国の王がいなくちょうど国に人がいないことを狙っての行動を行っている。


…いやそんなことどうでもいいか。

あちらの提案は俺にとって一番ありがたい提案なのだから受けないということは無い。


「わかった1対1での戦闘を行おうか」


そうして俺は黒甲冑の騎士との1対1での戦闘を申し込んだ。

そこから出てきたのは黒甲冑の騎士の中でも異様なオーラを放つ騎士が一番後ろから出てきた。

持っている武器は大剣。

埋め込まれた宝石からは禍々しいモヤのようなものを放っており周りからは「隊長」と呼ばれている。


まったく野次がうるさい。

「ぶっ殺せ」だの「力を見せ付けてくだせぇ」だのと野次が飛んでくる。

隊長と呼ばれている奴にいたっては「マジでこいつと戦うのか?」とかいう風に首を傾げており明らかにこちらを見下している。


まぁそりゃそうだろう。

俺はコイツに勝てる気がまったくしない。

微塵も勝てる気がしないというのはこのことだろう。

服の下では冷や汗と鳥肌が立ちなんだか知らないが悪寒がする。

本能的に戦ってはいけないそういう風に思えてくる。

逃げてしまいたい、痛いのは嫌だ、だが逃げれない。


「それじゃあやろうか?」


まさに死の宣告というべき言葉が騎士から発される。

処刑台に登った犯罪者にでもなったかのような感覚。

今更逃げることはできない。

逃げても追いつかれるだけだしいっそのこと自害をしたほうが楽に終わることができるのではないだろうか。


頭を振って思考を飛ばせる。

考えなくちゃいけないことは今騎士をどうするかだ。

俺はナイフを構える。

今の状況は周りには獄炎舞による火の玉が3個と自分を守る守護結界、そして身体能力を限界以上に引き上げることができる限界突破。

これで勝てる相手だとは思わないがやるだけやるそれしかない。


「それでは開始!」


野次馬の中からの一声が辺りに響くと同時にすぐさま魔法陣を展開する。

俺は手を前へかざして展開する。


「魔法陣展開、竜喰」


先手必勝で火力の高い技を放つ。

もちろん省いているがブーストなどを複合しているため通常以上の威力だ。

にしても騎士を竜喰で地中に呑み込んだのはいいがどうせすぐに出てきてしまうだろう。

その前になんとかして潰す算段をつけなくては。


「シンボルは雷…魔法陣展開、サンダーウェアからの土のシンボル…魔法陣展開!アースジャベリン!」


土でできたアースジャベリンにサンダーウェアを纏わせる。

それを出てきた騎士に向かって思いっきり投げる!

そうして投げ飛ばした槍は騎士へと当たり…『ガンッ』そんな音をたててアースジャベリンが砕け散る。


「まぁわかってたけどね」


相手の甲冑にかけられている魔導の付与なんて最初からわかっていたから予想範囲内だ。

といってもまさかこんなに魔に対しての防御力を持っているとは思わなかったが。

なら物理ならどうだろうか?


俺は足に力を入れ構える。

俺の物理戦は素人に毛が生えたようなものだからこれで倒せるなんて思わないが隙を見て急所を狙えば勝てるだろう。

急がば回れつまり落ち着くことが大事だ。


前身を前にして足を踏み込み前進する。

俺の物理戦での攻撃手段は主に3つだ。

1つ目、我流の技を撃つこと。

2つ目、ナイフで斬りつけること。

3つ目、蹴ること。

まぁこれぐらいしかない。

今の俺の身長はクソがつくほど低い。

そのため手で攻撃しようとするとまず当たらない。

逆に足での攻撃は幾分かマシでリーチが蹴った方が少し長いぐらいだからこちらで攻撃した方が速い。

なお、俺はボクシングなどのジョブをすると力がうまく入らなくなるのであまり積極的に物理戦は行いたくない派だ。


そうして俺は足を前に出して蹴りつける。

…わかってはいたがダメージは無い。

というか相手は鉄を身に纏っているんだから当たり前のことだ。

それでも蹴り続ける。

騎士も大剣で防いでくるがこちらの方が素早いからかたまに甲冑への攻撃が入っていく。


時間にして1分大剣を避けては前進して蹴り体験で防がれたまに甲冑へと攻撃を入れていきようやく騎士が後ろへとよろけた。

この時を待ち侘びた。

今の相手の攻撃のスピードだったらまだ身体強化をかけた俺なら避けれるが騎士がこれ以上のスピードでこられたら反応ができなくなってしまう。

そしてMPももう尽きそうだ。


ここで一発で決めなくちゃもう後がない。

これでトドメだ。


「我流戦闘術壹ノ術」


ナイフを握りしめ距離を詰める。

狙うは心臓、目標は目の前にある。

出来るだけ身体を前に伸ばして仕留めるため力を込め絶対に当たる、絶対に貫くことができる確信を持つ。

この最後になるだろう一撃に賭ける。


「『緋槍』」

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