第39話

「ふぅ、これで壁の補強と魔法陣は完成かな?」


時はあれから1時間ほど経っているが幸いなことにまだ伏兵の姿は見えない。

俺はそのうちに壊れた箇所の壁を土の魔術で操作して直したり至る所に魔法陣を設置していた。

魔法陣の種類は合計10個。

タイミングが良ければ伏兵を一網打尽にすることさえ可能な魔法陣を作ったがこれを作る際に多くのMPを消費してしまった。


「出来るだけ長期戦にはならないで欲しいかな」


今のMPを考えると全力で戦うと数分程度しか戦えない。

面倒だがこれは俺への罰だと思って行動しよう。


「…少しぐらい騎士を残していってもよかったのに」


ついそんな言葉をついてしまう。

最悪というべきか、まぁ8割の確率でここは突破されるだろう。

このMPの残量で戦争なんかできるわけないからな。

残りの2割は伏兵が少なかった場合だ。

少なかったら強い魔術を撃ち込めばどうにかして勝てるんじゃないだろうか。


「さて、そろそろお出ましかなぁ?」


地平線の彼方に人が見えてくる。

黒色の鎧で身を包んだそれは着々とこちらへと進んでいる。

その中にはあの時戦った黒騎士と同じ大剣を持つ者や槍を天に突き刺すように持つ者、宝石が埋め込んでいる杖を持つ騎士がいた。

数は数え切れない。


「はぁぁぁ…」


ついため息が出てしまう。

あの時戦った黒色の鎧を着た騎士は他の騎士を統率していたことからわかる。

黒色の騎士はそこら辺の騎士とは違う精鋭なのだろう。

ということはあれか?

あっちで戦っている奴は精鋭じゃない方と戦っているのか?

んでこっちは一軍をまとめる精鋭騎士と戦わなくちゃならない。

んで俺が死んだら国は終了と…。


「はぁ?それなんて糞ゲーだよ?」


絶対にノーマルモードではないよなぁ?

エキスパートモードとかだろこれ?

しかも絶対短期戦にならないだろうし…。

あぁこれ死んだわ。

絶対死んだ。


「…やるだけやってみるか」


こちらは1人相手は100人以上。

勝てるわけないがやるしかないだろう。


「魔法陣起動…魔砲発射!」


5つの魔法陣から薄紫色の軌跡が発射される。

この壁に描かれた5つの魔法陣は周辺の魔力を集める収集の魔印という魔法陣も複合しているため使っても時間が経てば常に魔砲を発射するというまさに設置型の魔術となっている。

ただし俺にも当たるから行動が制限される。

だが相手もそれは一緒だ。

うまく活用さえすればとても活躍するだろう。

まぁ俺はあまり活用できそうではないが。


今の不意打ちの魔砲で倒せたのは前列が少し崩れた感じかな?

後の列にいる奴らは少しの余波ぐらいだろう。

つまり相手はあまり効いていない。

全く今ので倒されてくれたら苦労することはなかったんだが。


ふとチラッと後ろを振り向く。

壁に描いた5つの魔砲の魔法陣はまだチャージ中、他の5つは1つが収集の魔印。

これは俺がMPを回復する携帯用だ。

まぁ魔砲の方にも魔印を使っているから効率的に最悪だろうけど。

他の4つは全部地雷、魔法陣に乗った瞬間爆発する仕様だ。

時間的に凝った物は作れなかったから最小限の威力しか出ないようになってはいるが少しぐらい役には立つだろう。


「あいつらまだこちらに歩いてきてるな」


全く持って余裕なのだろう。

魔砲のあの威力を受けても平気だとは全く持ってめんどくさい。

これからは後のことなんて考えずに火属性とかも使っていこうか。

生きるか死ぬかの世界だからな。

火属性を使えば少しぐらいの抵抗にはなるだろう。


ローブの中からナイフを取り出す。

そして身体強化を全身にかけながら頭の中で魔法陣を構築する。

シンボルは火…。

威力を上げ、素早さを上げるための魔法陣も複合させる。


「身体強化完了…魔法陣の構築及びストックも完了」


そう呟き一息つき前を向く。

黒色の騎士はどんどんこちらへの距離を縮める。

あちらさんの魔法を撃たれたら俺は…いやこの壁は壊れてしまうだろう。

俺のマナバリアで守っていると言っても威力が高ければ簡単に壊されてしまうだろうし。

あちらがこちらに近づくとこれ以上に不利になる。


「こっちから手を打つしかないか」


遠距離からの攻撃を行なっていてもあちらは防いでくるだろう。

ということはこちらから出て陣形を崩していくしかないか?


「ナイフは効かなそうだな…隙間からなら刺せるか?」


いや近づきすぎるのも考えものだ。

近づきすぎたら剣を離して叩いた方が速いし鉄で殴られたら俺が死んでしまう。

いやまぁ叩かれたぐらいで死ぬわけないが気絶はするだろう。

んでその間に殺されるのがオチか。


「いやそんなこと考えてちゃキリがないな」


とりあえずやるだけやる。

それだけを考えてやろうかな。


「では、行くとしますか!」


俺は足に力を入れ全身を前に傾ける。

気分は特攻隊だ。

まさに今から死にに行くようなものだからな。

そうした考えが頭の中を駆け巡り立ちすくんでしまいそうになるが足を前に向け走り出した。

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