第29話

「さて、帰るか」


空は夕焼け色に染まり日が傾き道を暗くしていく。

店仕舞いも始まり周りに見えるのは宿屋や酒場の電気の光ならぬ魔石の光が灯っている。

ちなみに魔石は普通は光ったりはしない。

しかし魔導士が光の印や魔法陣を刻むことにより魔石を加工し光ることができる。

魔導士という存在は魔法使いや魔術士とは違い人の生活に役立つ物を作る職人だ。

この魔導士がいるいないだけでその街の生活水準がグッと上がる。

それぐらい魔導士は役に立つ職業なのだ。


俺も一応は本を読んで魔導士の技を使うことはできるが本職には敵わないだろう。

器用のステータスは高いがそれを使いこなす技術がない。

いつかは俺も魔導士の仕事をしてみたいものだ。

稼げそうだしな。


まぁ魔法使いの方はぁ。

別に魔術士の方が俺は使いやすいし別に学ばなくてもいいかな。

なんというか魔法使いは才能がないとそもそも発動しないしわざわざ厨二的言葉を口にしなきゃいけないというのが気に入らない。

詠唱破棄の技術を使えれば魔術士より強い職業になるんだが。

それを習得するまでがきついからなぁ。

しかもさっきも考えたが才能のある属性しか詠唱破棄出来ないからなぁ。


「と、到着」


真っ白な4階建ての宿に着いた。

どこからどう見ても小さいホテルだ。

そういえばこの宿の名前は『ハウス=ホワイト』というらしい。

どこぞの合衆国にある大統領の家のような名前だと思うが気にしたら負けだ。


中に入り宿の店員に鍵をもらい自分の泊まる部屋へと移動する。

どうやら俺が泊まるのは最上階である4階の部屋らしい。

オレ、タカイノ、キライ。

…大人しく行こうか。


…幼女移動中…


「ヒィィィィ高い…高いよぉぉぉ」


窓から見える光景は綺麗だ。

しかしこの場所は高い高すぎる。

俺は高いのが嫌いだ軽い高所恐怖症なのだ。

伯爵から泊めさせてもらっているから仕方がなくここにいるが本来ならば普通に引っ越しているところだ。

つーか窓が大きすぎるんだよ!

廊下も壁がほぼガラスになっている。

あぁ怖い。


そういえば窓からこちらが見えないか不安だと思うがここは異世界だ。

そこは魔導士が見えなくなるよう工夫した構造になっている。

なんとなくそんな魔力を感じるのだ。


「ここに泊まれる期間が確か1ヶ月ほどだったっけ?それまで我慢するかぁ」


…さてこれからの時間は何をしようか?

何もすることがなくなってしまった。

お腹は何故か減っていない。

いや、食えるには食えるがお腹は空いていないから食べなくてもいいだろう。

そう何度もあの地獄のような廊下を歩きたくない。

というか部屋から出たくない。


「魔術の研究でもしようかな?」


魔術の研究といってもここで魔術をぶっ放すというわけではない。

紙に魔法陣を描きそこからMPの消費量や攻撃範囲を計算したりするだけだ。


ちなみに紙とペンは宿に行く間にあった文道具が売っている屋台で買った。

そのおかげで今日の稼ぎがほとんど吹っ飛んだ。

この世界では紙がなかなかに高いというわけではない。

むしろ安いくらいだ。

なんせ銅貨1枚で1枚買えるぐらいだからだ。

逆にペンは高かった。

銀貨2枚ってどういうことだよ。

ちなみに紙は小銀貨1枚分買った。

これで俺が今持っている金は、金貨が1枚、銀貨9枚、小さい銀貨が7枚、銅貨が6枚だな。


「さてとそろそろ研究を開始しますかねぇ…」


まず何からしようかな?

新しい魔術の研究といっても既存の魔術を改造するかそれとも合成魔術を研究するか…。

いやここはいっそ前にやった『降雹雷花』みたいに自分だけのオリジナルを作る研究でもしようか。


そうだなぁベースは…ファイアーボールにしてみるか。

それをああしてこうして…。

こうすればああなるから…。

できた!

次は…。


…幼女研究中…


俺は研究を続け太陽が7回出ては沈んでいき月も7回出ては沈んでいった。

そして8回目の太陽が登り俺は研究を終了した。

なお、研究だけをしていたわけではない。

ちゃんとギルドに行って薬草採取の依頼をこなしてきた。

何せ紙が1時間で数十枚も消えていくからね。

採取している時も食事している時も魔術のことを考え続けた結果だ。


ちなみに金はかなり溜まった。

金貨が1枚と銀貨が16枚になった。

そういえばこの世界の金は10の位になると一つ繰り上がる方式だ。

なので結論で言えば金貨は2枚、銀貨が6枚ということだ。

合計今持っているのは金貨が4枚、銀貨5枚、小さい銀貨が7枚、銅貨が6枚というわけになるな。


「そしてこれが研究の成果だ」


今俺の手に持っている11枚の紙。

これは研究の中で成功した作品だ。

いくつもの研究の中で最も良かった作品。

アレンジにアレンジを重ねて出来上がった最高の作品。

これを俺は深夜テンションで作り上げた。


まぁ使われることは一部を除いてあまりないだろう。

消費MPはかなりでかいから一発撃つだけで後は動けないなんてことになる魔術とかあるし。

危険すぎる魔術とかあるし。

はぁ研究はしたが使い所が難しい魔術ばかりだ。

強ければ強いほど消費MPが高く、自分の仲間に当たる可能性、自分まで巻き込む可能性、地形を変化させてしまう可能性、色々な問題が出てくる。

ラノベみたいにバンバン強い魔法とかをぶっ放すなんてことはできないのだ。


「はぁ問題点が多いが自分に当たる可能性とかも考えなきゃいけないなんて…めんどくさいなぁ」

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