第27話
キュウは、今、すべてを思い出した。
自分がどうしてここにいるのかを。
ルーナと別れたのち、キュウはルーナの意思に従い船海族の船を探しに港へ向かった。『船海族』が何隻いるのか分からなかったので、とりあえず目の前にあった一隻に目標を定め、その船に乗り込んだ。
船海族は地陸族を先の戦争の名残から憎んでいると聞いていた。自分が地陸族とバレてしまえばルーナの望みが果たせなくなってしまう。それだけは、なんとしてでも阻止しなければならない。
キュウは船に乗り込むとすぐに長い時間隠れられる場所を探した。暗く、沢山の障害となり得る木箱がある部屋へ、船海族に見つかることなく潜入することに成功した。ずっと気を張ってしまっていた所為か、キュウは隠れた場所でそのまま居眠りをしてしまった。
そこからは、この船海族と出会ってからの記憶につながる。
キュウの最大の誤算は生け簀に落ちたことにあった。色々なことが一気に重なったことで、ルーナとの約束という記憶を一時的に失ってしまったのである。
「……思い、出した……」
キュウの頬に、一筋の涙が光る。
ルーナの記憶が正しければ、彼女が探していたスリープという青年は、間違いなく『彼』のことだ。そして、この船はすでに――。
「……キュウさん? 大丈夫ですか?」
「――ルーナ……さま……!」
外はいつの間にか暗くなっており、月光が船を照らしていた。
キュウは月に向かって泣き始めた。どうしてあげればいいのか分からず、側にいたクリーンは彼女が落ち着くようにと、彼女の背を優しく撫でる。
(こんなに優しくて、温かいのに……!)
この船の真実を知るキュウにとって、今のクリーンの行動は心痛するものがあった。
「お願いします、ルーナ! 私は、あなたをこの場所へと導くことしかできない……! 見えているんでしょう? 聞こえているんでしょう? だから、出てきてよ……! ルーナ!」
キュウの叫び声に反応したように、海が荒れ始めた。雨が本格的に降り始めてきており、このままこの場所にいるのは危険だとクリーンは判断した。
「っ、キュウさん、ここにいては危険です! シェルターに行きましょう!」
キュウは『いやだ、いやだ』と首を振るばかり。クリーンは何がなんでも彼女を連れ出そうと無理矢理キュウの腕を引っ張り、力ずくで彼女を立たせると二人は生け簀をあとにした。
ガタガタと鳴り止まない雨風の当たる窓。その音にキュウは怯えていた。シェルターに先についていたスリープたちは、外の様子をただ黙って見つめていた。
『止まないな……』
「うぅ……頭いてぇ……」
「ちょっと、飲ませ過ぎなのよビリーブ!」
「アイだって勧めてただろー!」
「ケンカはやめてください~!」
「ていうかこんな時になんでオールさんはいないんだよ!」
シェルターの中は、現在の外の様子と同じように
『キュウ……? 大丈夫?』
びくり、キュウの肩が大きく震えた。何かに怯えた顔はますます強張った。スリープは首を傾げつつ彼女の隣に静かに腰を下ろした。
「だいじょうぶ、です」
『そうは見えないけど……』
スリープはキュウの怯え方が、この嵐に対しての恐怖心だと思っているようで、彼女に優しく声を掛けていたが、それは記憶を取り戻したキュウには逆効果であった。黙り込んで俯いてしまったキュウに、スリープは困った表情をした。
『……まあ、そう、だよな。怖いよな、嵐は』
窓の外を見てスリープがそう呟いた。
瞬間、大きな
キュウはいきなり立ち上がりシェルターの外へと飛び出した。
シェルター内にいた船員全員がキュウの名を叫んだ。同時に、スリープとエイドが駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます