第24話
彼女に縋ってはいけない。
彼女にだってできないことくらいある。
そう思いたい自分と、それでも、どうして他のみんなも助けてくれなかったんだと彼女を恨む自分がいた。スリープはそんな自分の心の矛盾に、吐き気を催した。
「うっ、うぇっ……!」
「スリープ……!」
「……っ、触るな!」
スリープはフリーを初めて否定した。ハッとして彼女を見る。フリーは、さも彼のした行動が当たり前の行動だと言わんばかりの、納得した表情をしていた。
(どうして、そんな顔するんだよ。フリーの所為じゃないだろ……)
スリープは自分が許せなくなった。縋った上に責めた。なんて酷い男だ。自分が情けないと思った。
『――さて。我が同胞よ。これからどうするつもりだ?』
くつくつと、天竜族が笑う。
「……戻ります」
『話が早くて助かるな。さすがは我らの国の皇女よ』
(……フリーが……天竜族の、皇女?)
フリーはスリープの目の前に
「……必ず、戻る。必ず、全て取り戻して見せる。だから、それまで――」
――それまで生きて。
今にも泣き出してしまいそうな、震えた声。その声を聞いた瞬間、スリープの中で何かが弾けた。スリープはフリーの胸倉を勢いよく掴んだ。
「――っ! そう言うなら、僕の話も聞けよ……!」
「……⁉」
「僕の記憶を消してくれよ。竜ならできるんだろ? こんなの、耐えられないんだよ……!」
「……スリープ」
フリーは掴まれた胸倉からスリープの手を優しく引き離した。
そして立ち上がると目を瞑り一息吐いた。すると次の瞬間、彼女の周辺から突風が巻き起こった。スリープは思わず目を瞑ってしまった。突風が収まった頃、スリープは目を開き、そして目の前の光景に息を呑んだ。
「……フリー……なのか…………?」
スリープの目の前には、一頭の、それは美しい白銀の竜が佇んでいた。竜はスリープに視線を向けると、すっとその目を細めて、船全体に息吹をもたらした。温かい風が船全体に染み渡っていくような感覚が、スリープの心を満たしていく。
『……愚かな。幻を造りだしたところで、この人の子の傷心が癒されることはないというのに』
どこかで、天竜族の声が聞こえた気がした。満たされたことで薄れていく意識にスリープは反抗してみるも、それは杞憂となった。
『それでも、こうしなければ彼の心は壊れてしまう』
『……人の心に染まったか』
『無駄な犠牲を出さないためだわ』
バサリと白銀の竜の翼が開かれる。
雨粒が弾け飛び、晴れた雲間からの光に目が眩む。
光に反射した雨粒が煌めいて、憎いほど綺麗だったのをスリープは憶えていた。
次に彼が目を覚ました時、彼の声は完全に失われていた。
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