第20話
「……私はその時、エイドさんたちを助けに行くことはできませんでした。あとからアイさんに聞いた話では、フリーさんはその日を境に消えてしまい、スリープさんも声を失ってしまったと。エイドさんは一人だけ無傷で嵐を生還した……。このことについて当時、エイドさんは他の船員たちから沢山、責められたそうです」
「責めるだなんて……嵐なんて自然現象なんだから、誰も責められないはずなのに……」
「それでもエイドさんは今日まで、ずっと罰を受けることを望んでいるんです」
「……そんな……」
「スリープさんもフリーさんも、そんなことは望んでいないはずなのに」
沈黙が倉庫内を巡る。エイドの、自責の念がスリープへのものだと知って、キュウはなんだかやるせない気持ちになる。
以前にスリープから聞いた話と、今回クリーンから聞いた話を結びつけると、見えてくるのはエイドの心の苦しみだった。ズキリとキュウの心も引きずられていく。
ただ彼は、二人と星を見たかっただけなのに。
ただ彼女は、このまま静かに過ごしたかっただけなのに。
ズキンズキンと頭痛がする。あと少しで何かを思い出せそうな気がする。けれど、これは果たして思い出してもいいことなのか? キュウの中で葛藤が渦巻く。ふと、浮かんだ言葉が口からさらりと零れ流れるようにして出た。
「フリーさんは、何をしたかったんだろう……?」
彼女の呟きはクリーンの耳にも届いたらしく、「そういえば」と記憶を辿り始める。
「以前に少しだけ聞いたことがあるのですが、なんでも叶えたい夢があるのだとか……」
「夢……――痛っ⁉」
先ほどまでの比ではない激しい痛みがキュウの頭を襲った。平衡感覚を失ったキュウはその場に立膝をつき、苦しそうに蹲った。クリーンが何かを言っているような気がしたが、今の彼女には聞こえない。痛みと動悸、そして荒波の立つ音のみが耳鳴りとなって彼女の周りを包囲した。
意識が朦朧とする中で、何かの気配を感じ目の前を力を振り絞って見る。そこには誰かが立っていた。キュウが恐る恐るその人物を確認しようと見上げると、瞬間、先ほどまでの耳鳴りは消え去った。
「…………っ……」
――見つけた。
『彼女』はただ一言、そう言うと、目の前から泡となって消えていった。
何を見つけたのか。そもそもあなたは誰なのか。
キュウは聞こうとしたが言葉は音を持つことはなかった。ただ目の前が真っ暗となる。何かを叫ぶクリーンの声が、酷くこもったように聞こえた気がした。
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