第4話

 かつてこの世界は、天竜族てんりゅうぞく陸竜族りくりゅうぞく海竜族かいりゅうぞくという、三種族の竜に支配されていた。

 世界は、争いの絶えない時代が数百年に及び続いた。

 陸と海は常に敵対し、天は傍観者としてその争いを見ていた。

 いつしか彼らの争いも落ち着いたころ、竜たちはのちに世界に生まれる人間との交わりを持つようになった。

 そうして生まれたのが現在の三種族である。

 陸竜族の子孫は地陸族ちりくぞくと呼ばれ、海竜族の子孫は船海族せんかいぞくと呼ばれ、天竜族は人間に興味を抱かなかったためか、唯一人間との交わりを持たなかったとされている。

 地陸族は陸に国を作った。富を生み、豊かに暮らしていた。

 船海族は名前の通り、船を国とし、海上を世界として暮らしていた。彼らは月に一度陸に上がり、海では調達の出来ないものを購入しに船を降りることがあるが、基本は海上で暮らす種族なので地陸族と出会うことは滅多になかった。

 天竜族に関しては、そういった記述が残っていない。地陸族も船海族も、天竜族について知る者は少ないのだ。

 しかしその中でも残っている文献もある。

 その文献には以下のように、


『船海族の歌声に誘われ、その歌声を生気とし、奪う。』

『奪われた者が生き抜くには、奪った天竜の血肉を喰らうこと。』

しくは、自身の歌声を天竜族から取り戻すこと。』


 と、記述されていた。

 分かっている文献だけでも実態が知れないことが伺えた。

 それほど天竜族は、希少価値の高い生物であった。


 また、船海族についても補足があり、八年前の嵐により、彼ら船海族は絶滅した模様。


 ――なお、これは船海族のである、『オール』なる人物の手記による記述より抜粋された記事である。

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