第3話

 その時、どこからか地鳴りに似た音が彼らの耳に届いた。ここは海の上だというのに、この音はなんだか異常だった。


「――ちょっと待って」


 その音にいち早く気づいたのは、フリーだった。


「どうしたのフリー」

「なんか、いつもと海の風が違うような……。……っ、エイド危ない‼」


 急にフリーがエイドに飛び掛かる。エイドは何が何だか分からず、されるがままに押し倒された。スリープはエイドに気を取られ、に気づくのが遅れてしまった。


「――津波……?」


 大きな波が船を襲いに掛かる。波に呑まれ、気づいたときにはエイドとフリーが目の前で倒れていた。


「フリー! エイド! おい、しっかりしろ!」


 スリープは意識のない彼らの胸元に耳を当て心臓の音を確認した。とくん、と小さな音が聞こえた。

 死んではない。生きている。

 スリープは緊張から解放され、その場にへたり込んだ。少しして咳き込む声が聞こえた。


「フリー……? フリー、大丈夫か!」

「げほっ、げほ……スリープ……? 良かった、無事ね……?」

「エイドはまだ目を覚まさないけど……。無事だよ」

「そう……」


 フリーは安堵した表情をした、瞬間、何かの気配を感じ取ったのかハッとして顔を勢いよく上げた。その表情がいつもの穏やかな彼女からは想像もできないような怒気のこもったものに変わった。


「…………。そう、そういうことだったのね……。じれったいことをしていないで早く姿を現したらどうなの!」


 フリーが荒れた空に向かってそう叫んだ。空が割れ、厚い雲が二つに裂かれた。そこから見たことのないが姿を現す。


 と言うよりもそれは――


 この日を境に、彼女は消えた。エイドは何も憶えていない。スリープだけがその日のことを憶えていた。


 大きな代償を払って。

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