12話 失言と誘惑

 ああ、やっぱり睨まれた。

 食事だなんて言われたら、あれが正しい反応の一つだろうね。

「ハッ、オレを殺して食おうってのか?」

 抜かれた剣の切っ先が私の喉元に向く。

「殺しはしないさ、ただ何日かに一度、血を飲ませてくれれば良いだけさね」

「食い物にされるために買われたって知って、はいわかりました、とでも言うと思ってんのか」

 食い物か、やはりそう感じるものなんだね。血を飲むだけで、肉や骨を食べるわけじゃないんだが。

 言葉で返す代りに首を横に振る。

「昔は狩るようにヒトの血を吸っていたことはあるさね。けどね、ここ十数年でそれほど血が必要ないことも、血の飲み方を変えれば大丈夫なことも学ん」

「ヒトの血ぃ飲みたがるなんざ気狂いか化け物じゃねえか! オレの目を見たときのあれも、化け物の術か何かか!」

 ゴーヴァンが距離を取りながら扉の方へ時折視線を送る。

 いや、そんな本気で逃げようとしないでおくれよ。

「ゴーヴァンが私の視線を避けようとするのは、私と視線を合わせると意識を支配できるからだね。さっき路地裏で一人動けなくしただろう、ああ言うことさね」

 ゴーヴァンの視線はずっと私の目とは違う場所を睨んでいる。

「普通なら視線を合わせるだけでああなるんだがね、時折ゴーヴァンのように強い精神を持っていると、効果がなかったり薄かったりするのさね」

「そりゃ良かった。もしテメェの目にやられてたら、今頃干からびて死んでたわけか」

「いや、そんなに飲みはしないし、血を全部抜いても死にはしても干からびはしないさね」

 おっと失言だね。牙まで剥かれてしまった。

「安心しておくれ。私はゴーヴァンを殺そうだなんて、欠片も思ってないさね」

 ゴーヴァンに近づく。

 距離を取るように後ずさるが、腰が引けるどころか私を斬り伏せんばかりの気迫を感じさせている。

 うんうん、やっぱり当たりだ。

「何より、日の出てる間は死なないと言うだけで、見た目通りの小娘の力とこの目しか無いからね。昨日のあの力は、夜だけさね」

「なら今テメェを動けないようにしてやりゃあ、オレは大丈夫ってことだな」

「それで、どうするんだね? 胸の奴隷印があっては都合の悪いこともあると思うんだがね」

 剣を持っていない手が胸を撫でる。

「それに私は言ったろう、それを消す手助けをするってね。それは本当さね」

 笑いかける。一瞬、ゴーヴァンの顔が引きつったような気がする。

「本当に自由になりたくはないのかね? それが出来るかもしれないのに」

「信用ができると思ってんのか?」

「出来るか出来ないか、じゃないさね。してもらうしか無いだろう。それとも」

 考えを巡らせる。

「何か願いを叶えると言えば、信じてくれるかね?」

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