11話 その体は

「いやはや、代りの服がすぐに見つかってよかったよ。それにしても、ゴーヴァン程の腕でも武器は持っておきたいものなのだね」

 買ったばかりの剣を腰に下げるオレを見て、女は不思議そうに聞いてくる。

 今度はどこかへ連れて行かれないよう、オレがマントの首元を掴んで歩いている。

「当然だろ、素手と武器持ちとじゃ全然違えんだ。そんなことより」

 今までとは違う小ざっぱり年経服に着替えた女を見て、疑問を口にする。

「腹、刺されたんだよな?」

「刺されたね、この辺りを」

「なんで何ともねえんだよ。血も出ねえとか、ありえねえだろ。あれか、やっぱり魔術師か何かか?」

「いやいや、魔術の心得なんてないさね。そうだね、私の体のことを少し話しておこうかね。一度家へ戻ろうか」

 そう言うと女はオレが目を覚ました家の方へ向かって、足を進めていく。

 歩きながら特に会話はなく、時折マントのフードに手をかけ、深くかぶり直す以外に女は特別何もしていなかった。

 女の家に戻って中に入る頃は日も傾きかけて来ていたからか、布をかけられ窓が閉じられた家の中はすでに暗くなっていた。

「ちょっと待っておくれさね」

 女はテーブルの上に置かれたランプに日を灯すと、部屋に一つしか無い明り取り用の窓のそばに立つ。

 窓は分厚い布をかけられているせいで、夕暮れの明かりすら入ってこない。

「じゃあ、よく見ていて欲しい」

 女は片手の手袋を外し、わずかに窓にかかった布をずらす。

 女の手が夕日に照らされた瞬間、日に照らされた手の甲からふわりと粉のようなものが舞い、女は苦痛の表情を浮かべる。

「な、何だその粉?」

「触って、見るといいよ。別に毒ではないからね」

 恐る恐る、粉が舞い続ける女の手の甲に触れる。指先に白灰色の粉が付く。

「灰、か?」

「そのとおりさね」

 女は窓の布を元に戻す。

「私は陽の光に当たると体が灰になってしまってね。すぐに治るとは言え、体を焼かれるように辛いんだよ。まあ、マントとフードは日除けなのさね」

「はぁ? なんだそりゃ、ヤバい病とじゃねえだろうな」

 せっかく自由になれるかもしれないのに、病でポックリとか冗談じゃねえぞ。

「安心おしね。病だとしても、簡単に伝染るモノじゃないさね」

 女から距離を取る。と言っても一部屋だけの狭い家、外に出る扉の方へ体を寄せていく以外出来はしないが。

 故郷で病で死んだやつはいた。奴隷として捉えられたやつが、病で死ぬところも見た。だが少なくとも、体が灰になるなんて病を聞いたことも見たこともなけりゃ、聞いたこともない。

「まあ、あれを見れば警戒はするだろうね……吸血鬼、という伝承は聞いたことがあるかね?」

 頷く。

 以前、同じ牢に入れられた奴隷から故郷のお伽話だと聞いたことがある。

「私はその吸血鬼、でね。ゴーヴァンを買った理由は、食事の確保のため、血を飲むためなのさね」

 オレが食事、だ?

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