6話 食事にしよう
「んぐっ、はむっ! んっく……ぐむっ!」
「あはは、よく食べるね。見てて気持ちいいくらいさね」
テーブルに並んだ料理を目につく順に口に掻き込み、スープで流し込む。
焼いた肉、煮込んだ魚、包み焼き。並んだ料理をどんどん胃袋へ送ってやる。まともな食事ってのは、こんなに美味いもんだったんだな。
指についた肉の脂を舐め取りながら、女の方を見る。
「食べ足りないなら、もっとお食べね」
女が店員を呼び、料理を注文していく。
呼ばれた店員や周りのやつが時々オレを見てるみたいだが、気にすることじゃねえ。どうせ、奴隷がこうやって店に連れられて飯食わせれてるのが珍しいんだろうさ。
そういやこいつ、店入る時にここの奴らに金渡してたっけか。
「これだけ食欲があって食べられるということは、それだけ体が健常であるということさね。私としても嬉しいよ」
「安くない金払って、オレのことを買ったんだもんな。当たり引いたとか思ってんだろ」
次の料理が出てくるまで、骨についた肉を奥歯で削ぎ落としなら、適当に言葉を返してやる。
「確かに当たりといえば、大当たりなのかもしれないね。私の目を見て、抵抗してくれただけでも十分なくらいさね」
女の言葉を聞いて、背筋に悪寒が走る。
ああ、そうだ。こいつの目を見た時に、嫌な感じがしたんだ。
クソっ、食事していい気分だったのが台無しだ。
「それどころか、あの後の自分で自分の気を失わせるなんて、普通はやれやしないさね。見事な偉丈夫というか、無茶をすると言うか」
クスクスと笑いをこぼす。
何だこいつ、オレのことを褒めたいのか? 馬鹿にしてんのか?
「そんな目で見ないでおくれよ。口悪く聞こえるかもしれないが、これでも褒めてるんでね。ところで」
女が体を乗り出し、オレの目を覗き込もうとする。
視線をそらし、適当な相槌を返す。
「名前を教えてはくれいないかね? あの商人、番号で呼ぶばかりで名前を知ってすらいなかったのさね」
まあ、あいつら奴隷は番号でしか呼ばねえからな。
「教える必要なんざねえだろ、どうせお嬢ちゃんも今日中にはオレを手放したくなるからな」
「その心配はないさね。一緒にいられるかもしれない相手に巡り会えたかもしれないんだ、そうそう手放すなんてしやしないさね」
どうだかな。オレに何を期待してるのか知らんが、こんなお嬢ちゃんの考える通りになるほど、オレぁお上品じゃないんだがな。
「ゴーヴァンだ。ま、短い付き合いになるんだ、番号でも構わねえよ」
「なるほどゴーヴァン、ゴーヴァンか。私はレーテ、レーテさね」
新しく運ばれた料理の湯気の向こうに笑った顔が見えた気がしたが、どうでもいい。そんなことより今は飯だ。食えるときに食っとかなきゃ、次はいつまともな食事にありつけるか分かったもんじゃないからな。
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