5話 女に買われて

「っ?!」

「おや、おはよう。気分はどうだね?」

 周りを見回す。牢の中、じゃない。どこかの家の部屋か?

 自分が横になっているベッドが一つと、目の前で女が座っている椅子とテーブル。

「覚えているかどうかわからないがね。自分で壁に頭をぶつけて、気絶したんだよ。朝になって来た商人たちにここへ、運んでもらったって訳さね」

 自分で自分の頭をぶつけてだ? 何してんだ、昨日のオレは? ……ダメだ、こいつの気味悪い笑い顔の後のことがいまいち思い出せねえ。

「いやいや、大したものだったさね。気絶するほどの勢いでなんてね。医者を呼んで診ては貰ったんだけど、体の方は動けるのかい?」

 気絶したって割には、意識はしっかりしてる。体の方も、見る限り新しい傷なんてのはないな。

「大丈夫そうだね。なら、買い物と食事に出かけようかね。もう昼だ、腹の虫が鳴く頃だろう」

 食事、と聞いて腹がなく音がする。

「先に食事のほうが良さそうだね。立てるかい?」

 女が差し出してきた手を軽く払い、立ち上がる。

 小さいな、というのが側に立った印象だった。オレの胸の下までしかない背丈、小さくて痩せっぽちな只人の女だ。

 いや、オレがデカいだけなんだろう。同じ竜種の中でも子供の頃から、体はデカい方だったからな。

「大丈夫だ、自分で立てる」

「ならいいさ、行こうじゃないか」

 背を向けフード付きのマントを身につけた女を見て、どうしたものかと考える。

 今までオレを買った奴らは、その日のうちに潰してやった。殺したわけじゃない、ただ、オレを所有物にしようって考えを拳を使って潰してやっただけだ。

 今までオレを買った誰よりも細い体。枯れ枝のような弱々しい体だ。流石にこんな奴を殴る趣味はオレにはない。かと言って、こいつの言いなりになってやる気も、全く無い。

 小綺麗な服を着たどこかの金持ちのお嬢ちゃんにしか見えないんだが、昨日は、そうだ昨日オレの腕を抑えた力、ありゃどう考えても見た目とはかけ離れすぎた力だ。少なくとも、ヒトの力とは思えねえ。

 まさかオレ、かなりヤバい奴に買われたのか?

 いや、そんなことは関係ない! 今までと同じだ、人のことを買って言うこと聞かせようなんて奴はぶっ潰してやるだけだし、ヤバけりゃヤバいいで一矢報いるつもりで戦って死ぬだけだ。

 人狩りにあったあの日から、あの人とそう決めて生きて来ただろうが。

 女の背を睨みながら、オレはその後をついていった。

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