3話 闘技場を見て
「あの戦っている彼が、一番強い、ということかい?」
ワイアームの血を浴びながら、何度も斬りつける竜種の男を見、私は後ろに立つ商人に声をかける。
「お客さんの仰るような、反抗的で精神的に強い商品は、あれくらいでしょうね」
商人がわざとらしい大きなため息をつく。
「何せ、商品として売れても、買い手を殴るわ蹴るわで怪我をせるような奴でしてね。罰を与えようにも牢番が逆に殴り倒される始末で、殺処分代わりに、こうして剣闘奴として使ってるんですよ」
おやおや、相当な問題児と言う訳だね。
「この街で扱ってる奴隷は胸に隷属印って魔術印を刻んでるんですが、あいつは効果が薄いみたいでして……正直、買ったところで何の言うことも聞きやしませんよ?」
ああ、市場の奴隷達の生気が弱いのはそのせいか。なるほど、魔術を鎖代わりにして繋いでいるってところかね。
「素晴らしいじゃないかい。魔術の鎖でも繋げないほどの精神の持ち主なんて、早々いやしないさね」
「しかしお客さん、本当にあんなので良いんですか? あれだけ出して頂けるなら、もっといい商品も紹介できますよ」
「いやいや、それくらいの気概の持ち主でなきゃ、私が困るというものさね。」
眼前では竜種の男がワイアームの息の根を止めたのだろう。剣を持った手を掲げ、雄叫びを上げている。
おやまあ、倒した魔獣に食いついて、いやあれは本当に食べるね。
周囲には歓声とも罵声ともつかない声が満ちていた。
「今夜、彼を引取りに伺いたいんだが、良いかね?」
商人は一度何かを考えた後、首を縦に振る。
ああ、夜が待ち遠しいじゃないか。こんな気持ちはいつ依頼だろうね。
「そうだ、一つ聞きたいのだけど、彼はなんと呼べば良いのかね?」
「あれの番号ですか? 確か、0536番、だったかな」
「いや私が聞いているのは名前なんだがね」
「ははっ、お客さん奴隷に名前なんてありませんよ。買ったら好きに呼んでください」
そういうものなのか? しかし、番号でというのは、私の感覚からしたらおかしなものだ。
まあいいさね、今夜直接聞けば。
ああ、夜が楽しみだね。
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