2話 闘技場の竜
身を守るものなど何一つ着けることなく、両刃の剣を一本持たされ闘技場の入り口に立たされる。
格子の向こうからは、熱を帯びた声が、罵声が響いてくる。
オレに槍を向ける連中の怯えた目と、わずかに震える槍の先を見てため息が出る。安心しろ、お前らを相手にする気なんざねえ。
周りの連中を見る。竜種はオレだけで、どいつもこいつもオレより小さく見えるやつしかいねえ。
格子が開くと同時に、槍の穂先がオレに早く行けと言うように近づく。
分かってる。急かすんじゃねえ。
剣を持っていない方の手で、鱗が元に戻らなくなった腕の傷を一度撫で、胸に刻まれた奴隷の印を一瞥し前へ進む。体の傷はこれだけじゃないが、感傷に浸るのはこれくらいなもんだ。
大丈夫だ、今日も生き足掻いてやる。
前へと踏み出す。
日の当たる場所へ出ると、頭が割れそうなほどの声が響く。
右手に握った剣を一度振るい、まっすぐに闘技場の中心へと進む。
「オオオオォォォっ‼‼」
獣が吠えるように咆哮し、自分を鼓舞する。
オレの正面の扉が開き、中にいた奴が飛び出してくる。
ワイアーム。肉食のデカい芋虫、初めてやる相手じゃあない。
オレめがけて突進してくる奴を横に飛び、避けざまに一撃を入れる。
「せあっ!」
着地ざまに剣を振り返し、更に一撃。
「シャオオオオオオオ」
短い間に二度切りつけられ、ワイアームの口から悲鳴とも怒りとも取れない声が上がる。
「シャアアアアア」
牙の生え揃った口を開け、オレを飲み込もうと鎌首をもたげる。
向こうがオレに食いかかるより早く、柔らかい相手の腹に切っ先を突き刺し、力尽くで横に薙ぐ。
ワイアームの口がオレに届くよりも先に動き、一度間合いを取る。
ああ、大したことはねえ。あの人から教わったとおりに、あの人がやったように切り、動き、狩る。それだけじゃねえか、なあオレ。
観衆の声が頭に響く。
ああ、ああ。オレがこいつに食い殺されるところが見てえんだろうが、悪いな。
「今日もオレが生き残るんだっ!」
血を撒き散らし、吼えながら長い尾の一撃が横薙ぎにオレを狙う。
ぶつかる直前、オレの尾をぶつけ勢いを殺し、力のかかる方向へ飛び退る。
着地したオレに一つ覚えのようにただ噛みつこうとしてくるだけの攻撃を躱し、首元に剣を突き立て、剣を両手で持ち、一気に切り裂く。
ワイアームの血を浴びながら、緩めることなく次の一撃を叩き込む。
「ウオオォォっ!」
剣を振りかぶる。
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