第4話
「———、ん…」
朝の陽ざしが、降り注いでいる。
ふかふかのベッド。
お日様の匂いを感じる布団。
微かに香る、紅茶の匂い。
夢、だろうか。
夢なら冷めないで欲しいと願った。
微睡む意識の中で私はその永遠を願った。
魔女の癖に、なんて言われても知らない。
私は何時までも人間らしく、人間よりも人間でいたいと思った。
その時、ふと扉が開いて、見慣れない少年が顔を覗かせた。
「———あ、気が付いたんだね。」
予想よりも透き通った声に少し心が救われた気がした。
『あの…アナタはは?私はどうしたの、』
いつもの癖で躊躇しないで宙に血文字を書いていた。
少女のような風体の少年は少しだけ目を丸くしたが、特に気にしなかったようで普通に話しを進めていく。
「僕はハピ・ルピ。お姉さんは、カノエ?」
ギク、と身体を強張らせた。
何故、こんな少年が自分の名前を知っているのか。
それよりもどうして、秘密だったはずの名が知られているのか。
私が答えに戸惑っていると、少年の方から口を開く。
「ライン先生の魔女なんでしょ。みんな知ってるよ。」
『—————!!』
サァ、と熱が引いていくのが分かる。
何事ともなかったかのように発せられた言葉に、ショックを受けた。
『な、何でそれを…』
「ライン先生がいつも言ってる。俺の魔女なんだって。」
沸々と、沸き起こる激しい怒り。
誰がお前の魔女だと?
今までの恋情など、一気に吹き飛んでいくのが分かる。
私は、誰のものでもない―――。
「————でも、それじゃ可哀想。」
『——え?』
予想外の言葉に、ふっと怒りが引いた。
どうして怒りが引いたのか、すぐには分からなかったけれど。
同情でもないような声色に、驚いた。
ずっと聞いていたくなるような。
いたくなるような、そんな声だった。
「実はね、ボクはライン先生の助手なんだ。」
ハピ・ルピは至極よく声で語る。
「ライン先生は、自分自身でも研究をしていてね、その度に、確実に若返っているんだよ。
でもその反面、寿命も短くなっているみたいで、最近は吐血しているみたいなんだ。」
『———!』
よく通る声の所為か、ラインの真実に呆然とした。
人体実験を、それも自分自身の身を削ってまでしていたなんて。
どれだけ私の血に狂っていたのだろうか。
―——胸が、ざわつく。
少しだけ、嬉しいなんて思ってしまった。
ハビは、そのことを見抜いたんだろう。
通る声が、少しだけ変わった。
「でも、それじゃライン先生はもう少しで逝ってしまう。そうしたら、カノエが可哀想。」
『どうして?』
少しだけ寂しそうにハビが話す
「だって―――――カノエはライン先生の事が好きだから。」
『!!』
思いもよらない言葉に、そしてそれを見抜いていたハピに驚いた。
「だけど、ライン先生はカノエの「血」が好き。だから、可哀想。」
そうして一粒の涙を零して、私の身体を抱き締める。
「———ボクじゃ、ダメかな?」
『な、何を…』
突然のハピの言葉に、戸惑いを隠せない。
そしてまた一粒、涙を流す。
「だって、あんなに好きが溢れているのに、先生はカノエの《血》ばかりに集中している。カノエが好きなのは、ボクも一緒なのに。
沢山好きって言いたいし、こうやって抱き締めたいし、カノエのことをもっとよく知りたい。ボクのことも、知ってほしい。
今は無理でも、いつかカノエがボクを好きになってくれたらいいなって思うんだ。
ボクの独りよがりなのは分かってる。でもカノエにはボクが傍に居たい。
ボクで、ごめんなさい…先生じゃなくて、ごめん。
でも、賭けで良いから、ボクを見て欲しいんだ。」
ハピの声が、段々弱くなっていくのが分かる。
愛されている、こんなにも。
軽蔑ばかりされていた自分に、実験台にしかされていなかった自分に。
こんなに素直に、率直に。
胸が熱い。焦げてしまいそうなほど。
こんなに痛いくらいの感情は初めてだ。
こんなに心を揺さぶられて、感情がグラつく。
優しさが、焦がれる。
判断が出来なくなりそうだ。
ラインとは違った感情。
戸惑いを隠せない。
鼓動がうるさい。
初めて自分を魔女とは呼ばず、一人の女として見てくれている歓喜。
ハピ、ハピ、ハピ―————。
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