電話しよう!

 今日、明日と二日間お休みを貰っている俺は、麻衣に通話を提案した。

 夜の八時くらいから通話を始めた。


石川いしかわさんっていう子がいてさ、めちゃくちゃぶりっ子なんだよね」

「え、好きなの……?」

「いやいや、俺には麻衣がいるでしょ。で、その石川さんが上目遣いで、ペンギン歩きで、もう男に対して凄いんだよ」

「それってしーくんにも?」

「そうなんだよ。まぁ、石川さんは俺に彼女いること知らないからな」


 なんて会話を四時間くらい続けた。

 気がつけば夜中の十二時を回っていた。

 俺は知っている。麻衣が明日大学に行くことを。朝早くに行って、生徒ですぐ埋まってしまう図書館で席を取りたいことも。というか麻衣が昨日言っていた。


「しーくん……」


 スマホ越しに欠伸が聞える。

 俺は俺で四時間喋りっぱなしなので、喉が炎症を起こしそうだし、もうそろそろ話すネタがなくなってきてピンチなのだ。


「眠くなってきちゃったよぉ」

「まだ時間あるでしょ。でさ……」


 脳内の引き出しからネタを探すためフル回転させているからか、眠気が全く襲ってこなかった。


「しーくん、明日にしよう? 明日だったら時間あるから」

「今話したいんだよ」

「でもぉ」


 意外にもあまり強く拒否してくることはなかった。

 麻衣は押しに弱いのだろうか。

 俺がずっと喋り続けていると、麻衣の反応が少しずつ薄れていくのがわかった。

 最初は受け答えもしてくれていたのだが、今では「うん……」と返事をする度に眠たそうな欠伸が聞える。


 それから五分くらい経ったか、麻衣からの返事が途絶えた。

 微かな寝息が聞こえ始める。

 一緒に寝た時によく聞く、静かで大人しい寝息だ。


「麻衣?」

「…………」


 反応が返ってこない。ぐっすり眠っているみたいだ。

 俺はそっと通話を切って、ベッドに潜り込んで麻衣と同じように眠った。


 枕元に置いていたスマホがバイブレーションを起こし、俺の頭部を叩いてきたものだから、強制的に目が覚めた。

 スマホを見ると、時刻は朝の八時。そして、麻衣からのLINEが何百件もきていた。


『ごめんなさい』『眠たくて、しーくんが嫌いとかじゃないの』『お願い嫌いにならないで』『しーくん返事して』『つらいよ、返事して』『しーくんの声が聞きたいよ』などなど。


 今もなおLINEがきている。

 既読をつけたことで『見てるでしょ』『しーくん怒ってない?』というLINEがきた。


「大学はどうしたよ……」


 数秒ごとにくるLINE。

 図書館で勉強をしているか、授業を受けているか。どちらにしろこの連投ではまともに勉強なんてしてないだろう。

 まさかここまで支障をきたすとは……。


『怒ってないよ』

『ほんとに?』

『ほんとだって。じゃあ今日は食べに行こう』

『うん! 楽しみにしてる!』


 それからは鬼のような連投が止まった。

 ちょくちょくと『今何してるの?』とLINEはくるものの、頻度は明らかに減ってくれた。

 

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