じゃあ一緒に死のう

 帰宅してすぐ、俺は麻衣にメンヘラっぽいことを送ろうとスマホを取り出した。

 LINEを開くと、恐ろしい数のメールが送られてきていた。


『ねぇ今何してるの?』『なんで返事くれないの?』『もしかして女?』『既読つかないのは何で?』『スマホ見てるんでしょ?』『通知画面で見えてるんでしょ』『浮気してるんだ』『ほんとつらいよ』『つらい、もういい、死ぬ』


 何が怖いって、これが一分ごとに送られてきていたことだ。

 仕事もあるし、そんなに早く返信できるわけがない。

 だけど、これはチャンスだ。


 俺は再びアパートを出て、自転車を漕いだ。

 麻衣の住む部屋のインターホンを鳴らすと、どたどたと聞こえた後、勢いよく扉が開いた。


「ばか! 何で返してくれないの!」

「……仕事だったからさ」

「私死ぬよ、一生恨むからね」


 手には包丁を持っていたけど、俺には本気で死のうとしているようには見えなかった。

 だから、麻衣の手を取って中に入る。


「じゃあ死のう、一緒に死のう」

「え、え……」


 俺は麻衣から包丁を奪い取った後、ベッドに押し倒した。


「どうしたの? そんな戸惑った顔をして」

「え、その、しーくん……怖いよ……?」

「怖くないよ。で、死ぬんでしょ、恨まれるのは嫌だからさ、一緒に死のうか」

「……怖い……何でそんな酷いこと……」


 麻衣は静かに泣き始めてしまった。

 怖いのはこっちの方である。一分おきにLINEなんてきたら恐怖だろ。


「泣いててもわからないよ。麻衣はどうしたい?」

「……ごめんなさい……怒らないで……」

「怒ってないから、じゃあこれはしまってくるね」


 俺は包丁を台所に持って行った。

 麻衣はベッドに寝たまま、袖で目元を擦りながら泣いていた。

 しばらくすると落ち着いてきたのか、麻衣はゆっくりと体を起こして、腫れた目で俺を見つめた。どこかよそよそしい感じで、まだ俺が怒っていると思っているらしい。


「ごめんね。俺は麻衣に死んでほしくなかったからさ」


 優しく頭を撫でると、麻衣は嬉しそうにそっと微笑んだ。

 なんかメンヘラっていうより、これDVに似たやり口なんじゃ……。

 少し疑問は残るけど、とりあえずは落ち着いてくれてよかった。

 

 

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