婚約破棄から始まる国家建て直し術!

🎈パンサー葉月🎈

第1話 婚約破棄から始まる国家建て直し術!

「お前との婚約は今日この場を以って破棄する!」


 見上げれば燦然と煌めくシャンデリアが万華鏡のようにキラキラと揺らめいていた。


 つい先程まで楽団が奏でていた優雅な音は水を打ったように止み、誰もが呆然と声の主に視線を向ける。

 俺は呆れたように天井を見つめながら欠伸をした。正直どうでもいいし、興味もない。


 声を荒げているのは俺の双子の兄にして、この国の第一王子――アスラン・パトリック。


 そのアスランに婚約破棄を言い渡されてしまったのは幼馴染みのリリス・ハムバート。


 ハムバート公爵家の令嬢だ。


 アスランに寄り添う形でくっついて居るのはインチキ聖女のマリアンヌ・ポンソワレー。


 どうして俺が彼女のことをインチキ聖女と呼ぶのか、そんなのは簡単だ。

 この世に聖女なんて居るはずもなければ、彼女がその力を使ったところを見た者などただの一人もいない。


 では何故、彼女が聖女と持て囃されるいのか、それはこの国に今尚くだらぬ惰性が続いているからだ。


 大昔、この国は戦乱の渦中にあった。

 その争いに終止符を打ったとされているのが初代まじない師である。


 以降、この国では何を決めるにも呪い師に頼るようになった。


 国の行く末を決める大切な政策さえも、占いに頼るという愚行を繰り返す。

 呆れて物も言えない。

 そもそも戦争なんてものが数百年も継続的に行われるわけがない。

 年月とともに資金と人手を失い、ちょっとそろそろ和解しない? と、なるのが自然な流れである。


 そんな折、たまたま初代呪い師がタイミングよく現れて、戦争は直に終結へと向かうだろ。


 なんて適当なことを言ったらたまたま当たっただけの話。

 いや、ひょっとしたら初代呪い師は本当に戦争が終わることを知っていたのかもしれない。


 しかし、そんなことはちょっと両国の財政事情なんかを調べれば簡単にはわかってしまう。

 つまり、この国はアホしか居らず、まんまと初代呪い師にハメられたということ。


 その惰性は数百年経った今でも続き、何か言わなければ立場が危うくなる呪い師が、焦った挙げ句マリアンヌを聖女だと言い張った。


 その結果、何の力も持たない男爵家の娘が聖女として持ち上げられることとなる。


 そこに、権力大好きなアスランが飛びつくのは必然だった。


 そもそもアスランがリリスとの婚約を申し出たのも、すべてはハムバート家の権力に惹かれたためだ。


 ハムバート家は公爵家であり、この国においてその発言力は絶大。


 何がなんでも即位したい強欲の塊のようなアスランが、ハムバート家の権力に惹かれないわけがなかった。


 しかし、ハムバート家よりも発言力を有する聖女様が降臨なされたとなれば、手のひらを返すのもアスランという男。


 故に、マリアンヌ・ポンソワレーが聖女様として目の前に現れたときから、俺はこうなることを予期していた。


 リリス本人もこうなることが分かっていたからこそ、婚約破棄を言い渡された直後でも平然としている。


 なぜ知っていたのかって? そんなのは俺が教えたからに決まっている。


 なので、ほら。


 俺の方を一瞥して小さく頷いている。


「わかりました。では、婚約は解消致しましょう。しかし、これはアスラン殿下と私だけの問題ではありません。正式に婚約を破棄するためには両家による話し合いが必要です。後日改めて王宮まで伺わせて頂きます。それでよろしいかしら?」


 普通の令嬢ならたじろいでしまうところだが、リリスは淡々とした口調で言い張った。


 一方、アスランとマリアンヌはしたり顔を隠そうともしない。まったく以って愚かとしか言いようがない。


「ああ、構わない。お前との婚約が破棄できるなら問題ない!」


「そうですか、では私はこれで失礼致しますわ」


 恭しく頭を下げ、優雅に踵を返して歩き出すリリスを、誰もが唖然呆然と見つめている。そんな中、俺は威風堂々とリリスの元に歩み寄る。


「リリス、屋敷まで俺が送って行こう」


 声をかけるとリリスがこちらへ振り返る。

 長く伸びたプラチナブロンドからは気品溢れる薔薇の香りが漂い、優美な香りが鼻腔を満たしていく。


 先程までの無表情とは打って変わって、リリスは咲き誇るような笑顔を向けてくれる。


 そう、この世は化かし合いだ。


 俺は幼い頃からずっと彼女のことが好きだった。

 彼女も俺を好いていてくれている。


 あれは俺達がまだ5歳だった頃のこと。

 王宮内の薔薇の庭園で、俺は彼女に跪きプロポーズをした。


「リリス、俺と結婚してくれ!」


 彼女の答えはもちろんyesだ。

 あのときの頬を染めたリリスの笑顔を、俺は一日足りと忘れたことがない。


 それなのに、15歳になったアスランは権力に取り憑かれた魔物と化し、俺からリリスを奪い取ったのだ。


 俺とリリスは何度も父上達に抗議したが、それが受け入れられることはなかった。


 当然といえば当然だった。

 ハムバート家の当主であるリリスの父は、王位継承権第一位のアスランと娘が結ばれた方が何かと都合がいい。

 父上も王位継承権第一位のアスランを溺愛していた。


 そんな中、子供の俺達がどれだけ頭を下げようが聞き入れられることはない。


 政略結婚はどこの国でも当然のことだ。

 それならばと、俺は恥を忍んで兄のアスランに頭を下げた。


 お願いだから俺から彼女を奪わないでくれと。


 だが、アスランはそんな俺をみっともないと嘲笑った。


 腸が煮えくり返り、殴り飛ばしてやりたい気持ちを必死に堪え、俺は仕方がないことなのだと自分にいい聞かせた。これが俺達の運命なのだと、一度は受け入れようとした。


 彼女の幸せを一番に考えれば、それも仕方のないことだと。俺達は泣く泣く互いの幸せを祈ることしたのだ。


 しかし――


 二年前に突如マリアンヌが現れてから、アスランのリリスに対する態度が一変する。婚約者である彼女を邪魔者扱いしはじめたのだ。


 挙げ句、マリアンヌが自分の婚約者だと言わんばかりの態度を取った。


 次期国王のアスランがリリスを煙たがれば、それは学内で伝染病のように一気に広がっていく。


 彼女はこの二年間、いつも一人ぼっちだった。

 俺は何度も自分の無力さを呪った。


 学内で一人居る彼女に声をかけることさえ出来なかった。


 俺が彼女と親しくしていれば、要らぬ誤解を招き、リリスの立場が危うくなると危惧したのだ。


 ただでさえ、俺とリリスは一度将来を誓い合った仲。そんな俺が彼女と親しくしていれば、アスランはきっとそれを利用し、リリスが浮気しただのと難癖をつけて婚約を破棄してしまうだろう。


 そうなれば、彼女の名誉に傷がつく。

 彼女を守るためには、俺は耐えるしかなかった。

 何れ痺れを切らしたアスランが、一方的に婚約を解消すると言い出すまで……。


 リリスのせいではなく、アスランの心変わりとなれば、彼女に責任はない。


 リリスの父、ハムバート家の当主も娘に対して怒りを覚えるよりも先に、ハムバート家を辱しめたアスランに怒りの矛先が自ずと向くだろう。

 そうなれば、無力な俺にもハムバート家の後ろ楯が手に入る。


 情けないが、彼女を守るためには権力が必要なのだ。


 そして今、すべての準備は整った。


 これで俺が堂々と彼女に近づいても誰にも文句を言われることはない。


「お気持ちは嬉しいのですが、私は婚約解消を言い渡されたばかりの身、リシム様に送って頂くわけには参りません。お気持ちだけ頂いておきます」


 凛々しい視線が真っ直ぐ俺を見据える。少し寂しい気もしたが、彼女の言うことは正しい。


 キュッと痛む胸を必死に押さえ、俺は美しいカーテシーを取る彼女に優しく微笑んだ。


 去り行く彼女の後ろ姿が見えなくなるまでずっと見つめ続けていると、不意に奴の声が背中越しに聞こえた。


「リシム、そういえばお前……リリスに思いを寄せていたな。俺のお下がりで良ければお前にくれてやろう」


 癇に障る笑い声がこの場に響き渡る。

 握りしめた拳に爪が食い込む、怒りで我を忘れてしまいそうだった。


 できることなら今すぐに、眼前の男をこの場でぶん殴ってやりたい。


 だけど、俺はそんな野蛮なことはしない。彼女は二年間も必死に耐えたんだ。

 ここで俺が耐えなければ彼女に笑われてしまう。

 大丈夫、あの日の屈辱に悲しみに比べれば、この程度どうということはない。



 本当は今すぐに舞踏会場を後にして、王宮に帰りたかった。だが、第二王子の俺が身勝手な行動を取れば、多くの者に気を遣わせてしまうだろう。


 皆に取ってはせっかくの舞踏会。この日をずっと楽しみにして、ドレスを新調した者達も大勢いる。俺がぶち壊してしまうわけにはいかない。


 強くなれ――リシム・パトリック。


 先程の彼女を見習い、俺も気丈に振る舞うのだ。


 振り返り会場を見渡せば、皆が不安の色を浮かべて静まり返っている。

 今しがた公爵令嬢が公の場で婚約を破棄されてしまったのだ、皆が反応に困るのも当然だ。


 そんな彼らに俺は微笑んだ。

 精一杯の強がりだったけど、それで皆が今日という日を心置きなく楽しめるならいいと思う。


「さあ、今宵は集まった皆のための舞踏会。心から楽しみましょう」


 誰もが不安そうに顔を見合わせていたけれど、俺の言葉を聞いて皆の顔に笑顔が戻る。何事もなかったように賑わいを取り戻しつつある。


 どうやら気を遣われたのは俺の方だったようだ。情けない。



 翌日、王宮内に凄まじい怒声が響き渡る。

 声の主は今まさに、謁見の間で赤鬼と化したゼノン・ハムバート公爵。リリスの父だ。


 玉座に深く腰掛ける父上は、面倒臭そうにどこか彼方を見据えている。傍らにはアスランとマリアンヌが立っており、不謹慎にもクスクスと肩を震わせている。


 近くにはこの国で二番目に権力を有する、インチキ呪い師の姿もある。


「それで、何用かな? ハムバート公爵」


「何用ですと!? 陛下、お言葉ではございますが、これはあまりの仕打ちではございませんかっ! 何故私の娘がこのような仕打ちを受けねばならないのです!」


「うむ、婚約を解消した件だな。その件については致し方あるまい。アスランが新たに婚約者に選んだ相手はマリアンヌ・ポンソワレー。聖女なのだから、誰も文句は言えまい」


 耳をほじくりながら投げ捨てられた言葉に、我が父上ながら何という愚行かと眉を顰めてしまう。


 それが今日までこの国を支えてきたハムバート家の当主に対する言動かと、辟易してしまう。


 呆れてため息がこぼれ落ちる。


 これもすべて、国の在り方をインチキ占いに頼ったせいだ。自ら考えるということをしなくなってしまった王など、ただの飾りでしかない。もはや父上は王として機能していなかった。


 父上の侮蔑的な態度に、ハムバート家の当主の怒りは頂点に達しようとしている。

 そんな当主を宥めるように、リリスが口を開いた。


「婚約破棄の件に関しては、私も致し方ないと受け入れるつもりです」


「な、何を言っているのだリリス!」


「しかし、一方的な婚約破棄によって被った慰謝料をお支払いして頂きたいのです!」


 父の言葉を遮り、リリスが淡々と意見を述べる。本当に彼女は強くなったと、俺は少しだけ誇らしかった。


「慰謝料だと!? なんでそんなもの俺が払わねばならんのだ」


 射殺すような視線をリリスに向け、身勝手極まりないアスランが指を突きつける。笑みを浮かべていた先程までとは異なり、険しい表情で眉間にしわを刻み込んでいる。傍らのマリアンヌも不満気に口元を歪ませていた。


「これまで、私は妃になるために様々な教育を受けて参りました。そこには膨大な時間とお金が惜しみなく注ぎ込まれてきたのです。そして何より、今回の一方的な婚約破棄による精神的苦痛、これらを考慮して大金貨一千枚を要求致します!」


「「「「「―――っ!?」」」」」


 おおっ!!


 リリスの奴は随分と吹っ掛けたものだ。大金貨一千枚と言えば孫の代まで遊んで暮らしてもお釣りが返ってくるほどだ。

 馬鹿馬鹿し過ぎる金額に、俺は思わず吹いてしまう。


 この場に居合わせた者も皆、目を見開いて驚愕している。


「いいい、一千枚だとっ!? 頭おかしいんじゃないのか! そんな大金払えるわけないだろ!」


「なら、いくらならお支払い頂けるというのですか?」


 リリスの毅然とした態度に動揺を隠せないアスラン。ゼノン公爵は娘の要求を聞いて目の色を変えた。

 どうやら娘の意見に乗っかるつもりのようだ。


「お言葉を返すようですがアスラン殿下。一方的に婚約を破棄された場合、世間一般には慰謝料を払うのが道理と言うものでございましょう? 王族ならば何をしても許されると? それでは暴君ではありませんか! 陛下はどのようにお考えなのですか? 陛下のお言葉でお答え頂きたい!」


 さすがゼノン公爵。側に控える呪い師の言葉ではなく、頭の悪い我が父上の言葉で述べるように進言なさるとはお見事。


 自分で考えることのできない父上は、まるで森の中で迷子になってしまった幼子のように、首を右往左往振っている。

 間抜け過ぎて失笑ものだな。これが我が父上だというのだから頭が痛い。


「んー、見えます。見えますぞ! ハムバート公爵、今すぐに慰謝料の請求を撤回しなければ、近い未来災いが降りかかるでしょう!」


「ぷっ」


 あかん、思わず笑ってしまった。

 情けない父上を見かねたインチキ呪い師が突拍子もないことを言うものだから、たまらず吹いてしまった。


 まるで旅芸人のくだらんコントを見せられているようだ。


「おお、それは一大事だな! ハムバート公爵、今回の件はお互い水に流した方が良さそうではないか?」


「いいえ、構いません」


「は……今なんと?」


「我がハムバート家に災いが降りかかっても構わないと言ったのです!」


「私もお父様同様、構いません!」


 まさかの反応に父上はポカーンと間抜け面を晒している。


 というか当然だ。


 皆決して口にすることはないが、呪い師の言うことなど誰も信じていない。

 これまで呪い師の言うことを信じている振りをしてきたのは、単に体裁を繕うためなのだ。


 信じていないなど公に言ってしまえば、格好の攻撃の的になってしまう。

 それでなくとも、貴族間による権力争いは醜い。


 呪い師の言葉を信じているのは、当の本人とアホな我が一族だけだ、バカタレ!


「一体いくらならお支払い頂けるのですか!」


「そ、それは……」


 リリスがここぞとばかりに攻めの姿勢を取る。少女にあたふたする王など、この国以外にはいないだろう。


 呪い師に助けを求めるように視線を向ける父上だが、見てわかる通り呪い師も父上同様焦っている。


 これまで呪い師の言葉に逆らう者など居なかった。そんな中、初めて占いの結果などどうでもいいと言われれば、そりゃ焦るに決まっている。


「……」


 さて、そろそろ愚かな王と兄には退席していただこうか。

 俺はゆっくりリリスの傍らに移動し、父上とアスランに視線を向けた。


「父上、兄上、それとそこの呪い師にマリアンヌ。あなた方を国家転覆の罪で国外追放致します!」


「は、はぁああああああああああああああっ!? リシム貴様何を意味不明なことを言っているのだ! 貴様にそのような権限があるわけないだろ! 貴様の父上に対する暴言は決して許されん! 断罪だ! 今すぐこの者を引っ捕らえよ!!」


 アスランは控えていた騎士達に俺を捕まえるように命令しているが、誰も一歩もその場を動こうとしない。


 そのことに、アスランと父上は狼狽の色を隠せない。何が起こっているのかと目が点になっている。


「ななな、何をしている! 俺の命令が聞けないのかッ!」


「お言葉を返すようですがアスラン殿下。あなたは今しがた国家転覆罪に問われた犯罪者です。そのようなご命令を受けるわけにはいきません」


 断固とした姿勢で意見を述べるのは、騎士団長である。


 ――アスランよ、残念ながら彼らは俺の味方だ。


 父上もアスランも、この国の未来を考えてこなかった。彼らはとっくの昔に愛想を尽かしているのだ。


 国のすべてをインチキ占いに頼り、国が傾いている現在も何一つとして手を打つことなく、呑気に構えている怠惰な王に従う臣下などいない。


 だからこそ、俺は死にもの狂いで勉学に打ち込んだ。


 あの日、お前に嘲笑われたときからずっと、愛する者を取り返すため、俺はこの国の未来を考えてきた。


 そして、この日を待ち続けたのだ。


 お前が慢心している時も、俺は臣下達に頭を下げてまわっていた。どうか力を貸してくれと、奔走していたのだ。


 はじめは誰も俺の言葉に耳を傾けてはくれなかったが、国をよくするための政策を寝ずに考え、何度も何度も彼らを説得して回った。独自に調べたこの国の財政などの資料も添えてな。


 その結果――

 臣下たちは皆驚いていたよ。


 彼らはこの国が、ここまでひどい赤字国家だと知らなかったという。


 それもそのはずだ。


 呪い師は自身の立場を利用して、不正に多額の国家予算を懐に納めていた。

 文官達は父上に何度もことの重大性を進言したが、インチキ呪い師の操り人形と化した父上は、国を思う文官達の言葉に耳を傾けなかった。


 それどころか、父上はインチキ呪い師の指示に従うようにと文官達を諌めていたのだ。


 であるならばと、文官達は次期国王であるアスランに助力を願い出た――が、父上に聞けの一点張り。


 そんな折り、俺は彼らと話し合った。

 新たな政策を打ち出そうと提案すれば、彼らは喜んで俺に協力してくれたよ。


 皆、みすみす生まれ故郷を破滅へといざないたくはなかったのだ。


 俺は側に控えていた大臣に目で合図を送った。


 すると、大臣は父上達の前に紙束を叩きつけた。


 それを拾い上げて目にした瞬間、父上達の顔色は途端に青ざめる。


 大臣が叩きつけた書面は、我が国の有力貴族達による署名だったのだ。


 俺をこの国の王に据えなければ国を去る、そのように大袈裟に書かれたものだった。


 有力貴族達が一同に国を去れば、この国はすぐに破滅する。


 もう終わりなんだよ。

 アスラン、父上、それにインチキコンビ。


 震える四人に俺は諭すように言葉を投げかけた。


「腐っても親子であり兄弟だ。恩情をあたえて死罪だけは勘弁してやる。但し、父上達には即刻この国を去ってもらう。それとマリアンヌ、君には呪い師と共謀した虚偽罪が課せられる。君にも国外追放を言い渡す。もちろん、呪い師にもだ!」


 泣き喚くマリアンヌとは異なり、未だ状況を飲み込めないアスランと父上は呆然と固まっていた。


 俺は彼らを城外へとつまみ出すように騎士団に指示を出し、ゆっくりとリリスに向かい合う。


 ゼノン公爵はまさかの事態に理解が追いつかず、口を開けたまま硬直していた。


「リリス、そういうことで申し訳ないが、慰謝料は払えそうにないんだ」


 言うと、リリスは優しく微笑んだ。

 何も言わず、ただ何度も頷いて、幼き日のように薔薇色に頬を染めていた。



 その後どうなったかって?

 それはまだわからない。俺がリリスと結ばれる未来もあるかも知れないけど、それより先に国を建て直さなければならない。

 愛する者を本当の意味で守るためには、この国を立派にしなければいけないからな。


 そのために、俺はこの人生のすべてを国に捧げる覚悟だ。

 隣にはリリスが居る。今はまだ恋人ではないが、一緒にこの国のことを考えてくれるという。



 それだけで、俺は幸福に包まれているよ。




――――――

あとがき。


現在連載中の「ループ101回目の悪役王子」こちらも是非よろしくお願い致します。

m(_ _)m


https://kakuyomu.jp/works/16816927859865690707

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