あちらの世界2
雨上がりに恋人の光莉と外の空気を吸おうと散歩に出かけた。
「散歩好き」と言う彼女の笑顔の愛らしさに僕の気持ちは舞い上がって、ウキウキと水溜りにジャンプした。キラキラと陽射しが水溜りに反射した。
水が勢いよくはねて彼女は「きゃあ」と言ったのか、はたまた僕が水溜りの中に落ちていく(吸い込まれれていく)様子を見て悲鳴を上げたのか。
僕は水溜りの中に映る反転世界でドスンとそれなりの重さのある勢いで倒れた。
慌てて水溜りを覗くと向こう側で光莉が大きく目を見開いてパニックになっている。
僕もパニックになりながらも再度水の中に飛び込もうとしたり、光莉も水の中を掻き回したりしている。
落ち着かなければとゆっくり大きく息を吸い、もう一度水溜りを覗き込んだ。
光莉は大学生くらいに若返っていた。
え?
目を擦りこれは夢なのか?と疑い、リアル過ぎる世界を見渡し、再び水溜りを覗き込んだ。
光莉は高校生になっていた。
その時恐怖が襲って来た。
この世界はもしかしたら時間が逆流している。この世界にいる限り向こうは逆行しどんどん若返る。
僕はどうしたらいいんだろうと自分の手で顔覆おう。
え?
顔から手を離し自分の手を見た。
老化していた。斑点のシミが少しずつ拡がっていく現象が目の前で起きている。
やがて血管が浮き出てきた。
光莉は?
水溜りの向こうで小学生になっている。
こちらの世界も時間の流れが高速だった。
やばいやばい。
水溜りが煌めいた。
咄嗟に手を突っ込んだ。向こうの世界があった。幼稚園の光莉がてを触ってくる。
まだ煌めき続けている。
僕は手を引っこ抜き水溜りにジャンプした。
ドスンと打ち受けて向こうの世界に落下した。
戻れた。
そして光莉は赤ん坊になっていた。
僕は?水溜りに映るのは老人。
決断するまでにどれだけかかったろうか。
道端に座り込み思案したどり着いた結論。
光莉を膝に抱えながら。
陽が沈む前に。
水溜りの横に座り込み水溜りが煌めいた瞬間に光莉を投げ入れた。
光莉は向こうの世界に落ちた。痛かったか?ごめん。
水溜りの向こうで光莉は次第に歳をとっていく。元の年齢くらい(見た目の感でしかないが)になった時引き上げたかった。
まだ煌めかなかった。
彼女が焦っている。
もしかしたらもう煌めかないのじゃないと不安が一瞬過ぎる。彼女は死に確実に近づいている。
でも煌めいた。
彼女は自ら飛び込みこちらの世界に落下した。ドスンと。
40くらいの彼女と何歳だかわからない老人とが再び手を取る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます