第13話
「いででででででっ」
看病しろと後を任されたわけだけど、ウィリアムさんの汗を拭こうと腰を上げると、膝に居るデーヴィドくんの腕がいつの間にか腰をぐるっと回ってぎりぎりと締め付けてくるんだよね。デーヴィドくん、本当は起きてない?
手持ち無沙汰でデーヴィドくんの髪を撫でる。ふわふわしている金髪が指の間を絡めるように過ぎていく。こうしてるとなんだか落ち着くんだよね……そういえば私、前もデーヴィドくんに安心感を抱いていた気がする。優しいおばあちゃんの家にいるみたいな。未だにおばあちゃんのこと含めいろいろ思い出せてないけど。
それから何度かデーヴィドくんとの戦いを繰り返し、筋肉の限界を迎えた私はパタリとデーヴィドくんの上に倒れ込んだ。疲れた……。
『優羽はあの子と喧嘩ばっかするのねぇ』
私の左手に温かい手が重ねられる。
『だって、わたしがつくったツミキをこわしたり、おともだちとあそんでたら、かってにはいってくるんだもん』
『それじゃあ、どうしてそんなことをするのか聞いてみたらどうかね。相手のことをきちんと見てあげないといけないよ』
『あいてをみるってなに?』
『それは--』
まるで水の中に入っているみたいに、声がぼやけていく。もっと、もっと、耳を澄まさないと……この人の小さな声は心地よくて、ずっとずっと聴いていたいから。亡くさないように、零さないように。
「『優羽』」
冷たいノイズが混じって、優しい声が掠れていく。
急に寂しくなって、確かなものが欲しくて、握り締めた物は--
「優羽」
ウィリアムさんのおててだったようです。
「夢かー……」
「私が必死に呼びかけているというのに、呑気に夢を見ていたんですね」
いやぁしまった。しまってしまいました。ウィリアムさんが怒ってる……。
窓の外はすっかり暗くなって、ついでに部屋も暗い。蝋燭着けてよ、誰か。人が看病してるんだからさ。ほとんど寝てたけど。
「私と駆け落ちしましょうか」
「は?」
部屋に沈黙が降りたよ。そりゃ当たり前だよね。
「それとも夜逃げがいいですか? 愛の逃避行……?」
とにかく、ウィリアムさんは逃げたいらしい。逃って字があったらなんでもいいって訳じゃないんだからね。
「安心しました。ウィリアムさんが私に惚れたのかと」
「誰が貴方なんかを。 いいですか、デーヴィド様が動けない隙に私の屋敷に居を移すのです」
どうして急に。
「先程のことを考えて、確かに貴方はデーヴィド様にいい影響を与えています。しかしデーヴィド様は既に魔力のコントロールの仕方を覚えました。これ以上貴方に依存されると今後も貴方がいないとデーヴィド様を制御出来なくなる。かと言って完全に離して人間界に帰してしまうとデーヴィド様も魔界には残らない。だから程よく離したい」
ごくりと喉が鳴った。ウィリアムさん、寝ている最中にそんなことを考えられるんだ!
「と、夢の中で神が仰っていました」
「……」
ツッコミどころ満載では?
「とにかく、逃げましょう。貴方には目くらましならぬ気配くらましの魔法を絶妙な力で掛けておきます。その僅かな気配を辿れるほどデーヴィド様が成長される時までにはデーヴィド様を説得して貴方を人間界に帰すと誓います」
うーん、なんか荒い計画。人の心は簡単には操れないから、正確に計画を立てることは難しいのかもしれないけど。
現実性のないそれに断ろうと口を開くと、ウィリアムさんの次の言葉で私の首がひんやりとした。
「貴方に拒否権があるとお思いで?」
はい、行かせて頂きます。
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