第12話

「そういえば、私邪魔って言われてなかったかなー、なんて」

「そうですよ、貴方は邪魔です。デーヴィド様の将来の邪魔になるんです」


 攫っておいて酷い言われようだよね、私。そろそろ怒ってもいいんじゃない? 悪魔たちが怖いからしないけど。最初から私の感情なんてお構い無しだったもんね、怒って反抗でもしたら捻り潰されそう。


「貴方が居なくならなければデーヴィド様が貴方に付きっきりになって部屋から出なくなる事が考えられます」


あらら。


「奇遇ですね! それだと私も困るんです。適当にその辺にポイされて野垂れ死ぬ危険はなくなったんですけど、今度はデーヴィドくんに殺されそうなんですよね。さっきなんて胸を指さしてここの血の色は何色だとか言われちゃって」


それを聞いたウィリアムさんの耳がピクリと動いた。


「デーヴィド様と居て困るだと?」

「あんなにかわいらしいデーヴィドの手にかかるのが嫌だと?」

「あ、怒った?」


 人のことは邪魔って言っておいて私が言うのは許さないんだね!

 現実から目を逸らしていたいけど、ちょっとこれはまずいような――。私、今にも殺されそうだよ。さっきまで帰れるって話してたはずなのに……私の人生はここで終わるんだね。グッバイ私。


「ッ魔王様!」


 ウィリアムさんの声で魔王様がハッと息をのんだ。

 なっ何々? 空気が一気に張り詰めたよ。私まで緊張が伝わってきて無意識に体が固くなる。

 刹那。張り詰めた空気が爆ぜるような音が鼓膜を殴った。

 それは本当に一瞬のことで、次の瞬間には空気が何とも表現し難いものになった。


「魔王様」


 魔王様もウィリアムさんも苦虫を噛みつぶしたような、同時に嬉しそうな顔をしてる。


「デーヴィドくん……」


 今この室内にデーヴィドくんがいるってことはウィリアムさんが魔力勝負に負けちゃったってことでオッケー?


「負けたんじゃなくて、最初から負けてるんです!」


 同じだよ、ウィリアムさん。

 デーヴィドくんは破裂音と共に部屋に飛び込んできた。

 ちょっと呼吸が荒いから頑張ったんだなってことはわかる。それがどれくらい凄いことなのかわからないけど。


「ッは、優羽ちゃん――」


 無事? と聞いてくるデーヴィドくんの方が大丈夫じゃなさそうで。急にふらついたかと思ったらウィリアムさんに倒れこんだ。


「どういうことですか!? ウィリアムさんの方が格下なのでは?」


 ウィリアムさん、額に青筋を浮かべながらも答えてくれたよ。


「中に身を守る術を持たない貴方が居たから、配慮しながら防陣を破ったのでしょう。貴方が居なかったら部屋の壁を巻き込んで突破していたでしょうから」


 あ、私のせいだったんだ。


「驚いたな。まだ魔力の制御はできないはずなのに」

「恐らく、貴方の殺気を感知して慌てて突破したんでしょうね」

「貴様も同じくらい漏れ出てたじゃないか」


 気のせいかな。ウィリアムさんの口からぽろっと「もう少し遅ければ消せたのに」って聞こえた気がしたんだけど。もしかして私、あと少しで本気で人生終わってた?


「デーヴィド様は貴方のために倒れたんですよ」


 ウィリアムさんはデーヴィドくんを大切そうに抱きかかえて私を膝枕に使った。

 そうだ、忘れてたよ。ずっとベッドに座ったままだった、私。

 デーヴィドくんが私に頭を向けて寝かせられたところで、私は飛び上がった。


「あっつい! 熱出してますよ、デーヴィドくん」

「看病しなさい」


 ウィリアムさんが小さく息を切らせて離れていった。


「ウィリアム、お前も少し休め」


 魔王様、私たちのいるベッドを鼻でくいっと示してるけど、ウィリアムさんをここに寝かすつもりですか?


「当たり前だろう。どちらもお前のために力を使ったんだ。しばらくはお前が世話をしろ」


 確かに……って、デーヴィドくんは私を助けてくれたけど、ウィリアムさんは私を処理しようとしてなかった? それに、魔王様がデーヴィドくんの相手をしていたらウィリアムさんは平気だったのでは。

 ウィリアムさんがのそっとベッドに上がってきた。相当体が重たいようで、動きが小さい。


「確かに消すことを考えもしたが、ウィリアムはお前のことも考えていたんだぞ」

「え?」


 見るとウィリアムさんはもう動けないといった感じでくたっとしていた。


「では」


 もう来ない、と言って魔王様は出て行ったけど、もう来ないの? 私、結局帰れないの?

 そんなことを考えていると、ウィリアムさんが呻くように細く声を出した。


「デーヴィド様の将来に、貴方はまだ必要かもしれません」


 だからまだここにいてください。

 そんなこと言われたって――。

 文句を言おうとしたけど、静かな寝息が二つになってしまって、私の声を拾ってくれる人は誰もいなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る