第11話
あれだけ手枷を外したくないって暴走したはずがデーヴィドくんの気分で破壊されちゃって、今度はどうなったかと言うとデーヴィドくんの腕の中です。それはさっき抱っこされたからでしょ、じゃなくて、これからはデーヴィドくん自身が枷の役割をするとかなんとか……。
「最初からこうすればよかったんだ!」
さっきのデーヴィドくんはどこへやら、きゃっきゃとはしゃいで私に頬擦りしてくる。
ふわふわな髪がほっぺに当たってくすぐったいな、なんて思ってたらピタッと動きを止めて。
「どうしたの?」
デーヴィドくんの顔が離れて、うつむいたまま涙目に。私、何もしてないよね? こんな可愛い子の涙目なんて、傍から見たら私がいじめた人でしょ。
するとドアからバリトンボイスが聞こえた。
「開けろ」
うわっ。デーヴィドくんは魔王様の弟だよ。つまり王族だよ! そんなデーヴィドくんに命令口調だなんてと驚いていると、そっとベッドの上に降ろされた。
「待ってて」
額にキスを貰って暫く。デーヴィドくんが戻ってくる気配はなかった。
「デーヴィドくんと居ると大変だけど、一人だと暇になるんだな……」
ベッドに寝転んで未だに完全復活していない腕を眺めているとふいにドアが開いた。
「デー――」
デーヴィドくんって呼ぼうとしたのに、そこに居るのは見知らぬ人。いや、見知らぬ悪魔?
緩やかに波打った漆黒の髪は肩まであって、女性的な美しさを持った容貌をしているのに、空気を震わせたのはさっきのバリトンボイス。
「お前が優羽か」
今までの悪魔とは明らかに格が違うと伝わってくる威厳に、私は完全に体を起こすタイミングを失っちゃったよ。ど、どうしよう。絶対魔王様だよね。失礼だよね!
思考に追いつかない体を動かすより魔王様が私の許に来る方が早かった。
「ウィリアムから聞いたか?」
「へ?」
うぃりあむさん?
「お前の余命は一年とかなんとか」
ああ、聞いたよ。って、それを貴方が言うんですね。
「あれはなくなった」
「え」
びっくりしすぎて動けなくなっちゃったよ! なんで!? っていうか、一人称は余じゃないんだね……。
「あの祭りは俺が全てを伝えて絶望させてからの苦痛を味わわせるまでが醍醐味だというのに、デーヴィドときたらお前に全てを伝えたというではないか」
なるほど。私じゃ楽しめないってことね。
「それで、どうしたい?」
「どうしたいとは」
魔王様の真っ黒な瞳が柔くたわむ。
「帰りたいのなら、ウィリアムにでも殴ってもらって全てを忘れたうえでデーヴィドにも手を出させずに帰してやる」
ああ、帰してもらえるんだ――いや、なんか物騒な単語が聞こえたような。
「なんでそんなことをしてくれるんですか」
魔王様が困ったように眉尻を下げた。
「デーヴィドの溺愛具合が酷いものだからだ」
貴方の方が酷いけどね。
「別の言い方をすると、貴方が邪魔ってことですよ」
入口からウィリアムさんが入ってきて言った。……ウィリアムさん、どうしたの? 額を汗が一筋伝ってるし、前髪も張り付いていて面食いじゃなくても卒倒しそうな色気を醸し出してるよ。
「中に入ろうとするデーヴィド様を魔法で押さえているのですよ。デーヴィド様は王族特有の絶大な魔力を持っているというのに、そこの鬼畜にこれを押し付けられまして」
なるほど。それなら上級悪魔と言えど王族ではないウィリアムさんより、魔王様がやった方が容易いもんね。それは鬼畜だわ……。
「だって、デーヴィドに嫌われたくないんだもん」
それにウィリアムさんが声を荒げる。
「だから、彼女を人間界に返せばどっちみち嫌われるんですって! 遅いか早いかの違いだけです!」
「じゃあ人間界に帰らないでくれ」
「魔王様!」
えっ、私に言ってる? 私に人間界に帰るなって?
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