第10話(ヤンデレ噛み癖注意)
再び瞼を上げるとカーテンは開かれ、部屋には光が満ちていた。
部屋の中央に位置するベッドで膝を抱えて呆然と座り込む天使の様な悪魔を見とめて、つい口元が綻んだ。
「私、寝ちゃってた?」
デーヴィドくんは私に焦点を合わせるとくしゃりと顔を歪ませた。
「おはよう、デーヴィドくん」
昨日泣いてからずっと水を通していない喉がカサカサと声を紡ぐ。
デーヴィドくんを見て、私は昨日のことにできるだけ触れないことに決めた。だって凄くすごく後悔している顔で、昨日の面影が微塵もない迷子の子供みたいだったから。
「待ってて。水を持ってくるから」
そうしてコップを持ってきてくれたデーヴィドくんの頬に涙の痕があった。
「あ――手、使えないね」
デーヴィドくんが困ったように微笑む。そのままコップの水を口に含むと私の顔の前まで来たけど、何しようとしてるんですかね?
「ちょ、ちょっと待って、デーヴィドくん。それなら手枷を外した方が効率がよくないかな?」
「外す?」
やってしまった。デーヴィドくんの瞳孔がじりじりと開くのがはっきりと見える。
「それ外してどうしたいの? 自由になりたいの? そんなに僕と居るのが嫌なんだ。ここには僕しかいないのにせっかく全てから遠ざけたのに僕を見てくれないんだ。ああ、そういえばウィリアムが昨日ここに来たみたいだね。あいつのせいなのかな。昨日も別の男についていこうとしてたしこの世から全ての男を消し去れば僕を見てくれる……?」
デーヴィドくんの唇が噛みつくように私の口を覆った。流し込まれた少量の水を飲みこむ隙も与えられず、予期せぬ場所が痛み出す。
「いっ」
「それでもだめなら、今度は優羽ちゃんを傷つけちゃうかも……」
肩に、鎖骨に、胸元に、深い歯型がついていく。
デーヴィドくんの少し尖った黒い爪が鎖骨を通り過ぎ、布を隔てて心臓の真上で止まる。
「ここの血はどんな色をしているんだろうね」
「――ッ」
一際強く歯を立てられて痛みに肩が跳ねる。動きが伝わり音を立てた手枷に視線が向けられた。その口から自嘲するような息が漏れる。
「僕、だめみたいだ。優羽ちゃんにずっと触れてた手枷にさえ嫉妬しちゃう」
次の瞬間、私の腕は自由になっていた。
寝ている間寝返りを打てなかったからかずっと手枷に押し付けられていたらしい手首は濃い青紫になっていて、これが凄く痛い。
「優羽ちゃんを傷つけるなんて、枷の分際で……」
デーヴィドくんが手に持った手枷をメキョっと潰してたけど、それを付けたの貴方だよ。
それから私を丁寧に抱き上げると嬉しそうに歯型をなぞっていく。
「これで僕のだってわかるでしょ?」
私――逃げようとしたはずが、もっと身動き取れなくなってない?
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