第7話
「待って待って待って待って、無理だって!!」
私ったら重力をなめてたよ。なんならこの屋敷のこともなめてたかも!
脱衣所の窓から出ることには成功したんだけど、足場が全然ない状態なんだよ。素晴らしいほどつま先を差し込む隙間がない。あるのは今私がぶらさがっている二階の窓の下、一階の窓にちょっとだけ足場がある。それもそこそこ下の方にあって――。
「優羽ちゃん、何してるの?」
危ないよ、おいで。声の主は今朝私を起こしてくれた天使だった。
下をそろそろと見るとデーヴィドくんが窓から上半身を出して腕を広げている。
悲報、早速見つかりました。
でも見つかってよかったのかも。丁度身の危険を感じていたことだし……いや、このまま助けられても危険か。なんて迷っていると下から再び声が。
「優羽ちゃんから来ないなら、僕から行くけど」
デーヴィドくんがうんしょ、と窓から更に出てこようとしている。
「あ、危ないよ! 待って、今行くから」
危ないのは私のはずなのにデーヴィドくんを心配している余裕はあるのか。私には足場が窓しかない。飛ぶしかないんですけど……。大丈夫? ほんとに? と目でデーヴィドくんと会話していると、頭上から声が聞こえた。
「さっさと下りないなら、こちらから落として差し上げましょうか」
うわっウィリアムさんまで居る! 私が居る窓を覗いてる!
もしくは引き上げて差し上げましょうかと言われるけど、すぐ下から不穏な気配を感じる。優羽ちゃんはウィリアムを選ぶの? とかなんとか。どす黒いオーラが見えるようだよ。なんだこれは。ヤンデレか?
「ちゃ、ちゃんと受け止めてね!」
落ちるのは一瞬だけど、痛みはずっとだからね! 特に骨折は治っても湿気の凄い日は嫌な痛みが続くんだから!
手を放した次の瞬間、私は柔らかい布に体を預けていた。
「おかえり、優羽ちゃん」
「っは」
胸が叫ぶようにうるさくて息が苦しい。
ふっと周りを見回すと、私はデーヴィドくんの腕の中に居たんだけど――助けてもらっておいてなんだけど、デーヴィドくん、結局窓から出てるじゃん。羽だして空中に浮いてるよ。
でも、安心感がとてつもなく大きい。昨夜一緒に寝たからかな。なんて誰かが聞いたら誤解されそうなことを思いながら顔を上げると、デーヴィドくんが頬を摺り寄せてきた。
「どうしてこんなところに居たの。もしかしてウィリアムが何かした? やっぱり、ウィリアムなんかに任せておくべきじゃなかった」
デーヴィドくん、またさっきの不穏な空気を醸し出さないで。
「ウィリアムさんのせいじゃないの。ただちょっと――外の喧騒が気になって」
嘘は吐いてない、嘘は。
「そう? でもやっぱ優羽ちゃんがウィリアムと居るのがヤダ。僕だったらあんな危険なことになる前に捕まえているのに」
つ、捕まえ……?
「そ、そんなことよりあれ、お祭りかな? い、行ってみたいな、なんて」
昨日言ってたしね。とっておきの楽しい席を用意するってね。……別の意味かもなんて考えないよ。とにかく私はここから離れたいんだ。
頭上から声が降ってくる。
「あなたにそんな時間はありませんよ。さっさと魔王様の一年の糧となってください」
魔王様、一年に一回のそんな酷いことを糧として生きてるんだ。
「そんなことないよ、優羽ちゃん。僕が連れてってあげる」
「デーヴィド様!」
ウィリアムさんの叫びが背中から聞こえる。私はデーヴィドくんに抱えられたまま街へと向かっていく。デーヴィドくんの肩口にウィリアムさんに目を向けると、ため息を吐いて窓から引っ込んだ。
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