第6話
これ、1人じゃ不安だよね。と思いながら奥の人の気配を探っていると、私のお腹がぐぅと鳴った。
「……」
ウィリアムさんは「まじか、こいつ」みたいな目でこっちを見てくるけど、私何か悪いことした?
「貴方に食事は用意されません」
「ええ!?」
何故態々貴方に人間用の食事を用意しなくてはならないんだ、と呟かれ、私は胃のあたりをさする。そっか、ご飯、無いんだ――。
しっしと手を振られ、私は仕方なしに脱衣所へ歩を進めた。
「はぁ……」
結局、お風呂に人は誰もいなかった。
お風呂のお湯は丁度いい温度で、こんなに広い浴槽を独り占めって贅沢だなと思うけど、今夜のことを思うとせめてもの情けって感じがするよね。時間が止まってくれればいいのに。
でも見張ってる人が居ないってことは脱走しやすいのでは。これはチャンスだよね! 私、屋敷の中を大体覚えてるよ。大事なのは脱走経路だけど――人通りの多いところがわからない。案内してもらってる時もさっきも人の気配は全くなかったから居ないのかなと思うけど、だったらこのお湯は誰が用意するの?
なかなか計画が出来上がらなくて失敗の2文字が頭を過る。ウィリアムさん、逃げるなって言ってたな。バレて失敗したらどうなるんだろう。
お湯は温かいはずなのに急激にお腹の底が冷える。
私の選択肢は魔王様の娯楽になるか、デーヴィドくんのペットになるか、脱走するか。万が一脱走出来たとして、私は無一文。そもそも魔界にお金なんてものがあるのかどうか。宿はあるのだろうか。
デーヴィドくんのペットの飼い方もわからないし、てことは私、どれを選んでも先がわからないことは変わらない――。
それが私の心に火をつけた。吹っ切れたというか、投げやりになったというか、やらずに後悔するなって方向に心が向かった。それに従って私の行動も決まった。私、脱走する。
――とは言っても作戦、何も決まらないんだよな……。なんて考えながらさっきの服を摘むとカサっと音がした。落ちてきたのはデーヴィドくんの魔法陣。私、これ持ってきてたっけ? そのまま床に落ちた魔法陣がふわっと飛んでまた落ちた。
「風?」
見上げると小さな窓がそこそこ高いところで開いていた。高いけど、棚や籠を足場にすれば届きそうな--って見つければ、登らないわけがないよね!
ひょっと窓の外を覗いてみる。デーヴィドくんによるとここは2階らしい。だけど私の知ってる2階より高いような……?
外からは喧騒が聞こえる。もうちょっと首を伸ばしてみると、木と塀のエクステリアの向こうにチラチラとレンガ建築が見える。
行くか……? ちょっと高いけど、行くか……?
私は再び地面を見た。落ちる人を受け付けなさそうな枯れた地面を。
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