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龍友さんは優しい人だと改めて何度も思う。死神だとバレてしまった時も、優しく抱きしめてくれたり、夢を見つけるために、たくさん協力してくれたりと、たくさんの龍友さんの優しさに触れている。
今日も龍友さんに会いに、龍友さんの家を伺っている。あの日の夜色々とあったが、晴れて龍友さんとお付き合いをすることができた。龍友さんから「付き合ったんだから、敬語はやめてほしい」と言われたが、なかなかやめることができず、敬語のままでよく怒られている。龍友さんと過ごす日々は、笑いが絶えず、とても楽しく幸せな日々だ。
「レイナさん!聞いて聞いて!」
と龍友さんは私のところへ走ってきた。
「涼太が編集長になることができたって!そして、LIVEの記事も雑誌に載せてくれるって」
「本当ですか?よかったです!これでたくさんの人に見にきてもらえるといいですね」
「うん、あとLIVEの日程が決まったよ」
「…いつになりましたか?」
「10月31日だよ。僕とレイナさんが出会って、丁度3ヶ月の日」
龍友は何もないような笑顔で話す。
「それまでにヒット曲出してみるから見ててね」
明るく笑っている龍友さんの顔は、どこか無理しているようで、悲しくなった。
「やっぱり嫌です。私が責任を持って死にます」
「それは逆。僕があの世で死ぬことが決まったんだから、僕が責任を持つ
「龍友さん…」
「レイナさんには笑っていてほしいからさ。最近それが僕の夢でもあるしね」
私の目を真っ直ぐ見つめながら話す龍友さんに、何も言うことができなかった。
本当は「死なないで、そばにいて」と言いたかったが、それを言えば、生きることも死ぬことも辛くなるだろうから、言うことが出来なかった。
「龍友さん。私、作曲してみてもいいですか?」
「え?」
突然の私の言葉に、龍友さんは驚いている。
「私、龍友さんのおかげで、ギターがだいぶ上手くなったんです。だからそれを生かしたくて」
「お、いいじゃん!応援するし、楽しみにしてる!一番に聴かせてね」
「はい!約束です」
と私は龍友さんに微笑んだ。
龍友さんの家を出て、いつもの屋上へと足を運んだ。
龍友さんと出会った時のような、澄んだ青色の空を見て、命の尊さを実感した。いつか人間は死んでいく。どれほど大事な人だろうが、生きていてほしいと、たくさんの人が思っていようが、簡単に死んでいく。あんなに明るく笑っているけれど、龍友さんも本当は生きたいと強く思っているだろう。夢を叶えて、さらに新たな夢を見つけて…どうやったら、そんな人生を変えてあげられるだろうか、そんな答えのない自問自答を繰り返せば繰り返すほど、涙が出てくるだけだった。
「そんなに龍友さんが好きですか?」
後ろから声が聞こえ、振り返ると、後藤さんがいた。だが、いつものように不気味な笑みは浮かべておらず、悲しさを感じるような表情を浮かべていた。
「後藤さん…急にどうしたんですか?」
涙を拭きながら私は答えた。
「涙を流してしまうほど、龍友さんが好きなんですか?」
「見てたんですか?」
「もちろんです。死神のことは全て把握してるので」
「そうですか…」
「せっかく龍友さんが自ら死ぬと言ってくれたんですから、レイナさんも楽でしょう?」
「普通はそう言うでしょうね、」
「龍友さんが無事に死なない運命でも考えてたんですか?それとも、また夢の叶え方とかですか?」
興味があるのか、明るい口調で私に問う。
「別に後藤さんには関係ないですよ」
「そうですか…教えてくれませんか、」
後藤さんはガッカリして、少し悲しそうだった。
「どうしてそんなに知りたいんですか?そもそも、後藤さんは一体何者なんですか?」
「私ですか?私はあの世で働いている者ですよ」
「そうじゃなくて、人として、あなたは何者なんですか?」
後藤さんは教えるかどうか少し考えてから、私の目を見て、口を開いた。
「私は、元はあなたと一緒の死神でした」
「え?死神って…」
衝撃的な事実に私は言葉を失うほど、驚いた。
「まぁ、私が死神からあの世で働くようになったのは、死神の仕事を全うせずに、私情を仕事に挟んだからです」
淡々と話す後藤さんの言葉に、私は理解するだけで精一杯だった。
「…かつて、私も人間を殺すことに躊躇ったことは一度だけあります。今までふれあってきた人間の中で、唯一生きることに希望を感じていた。夢を叶える事は楽しいと、明るい笑顔で言っていた…俺は、そんな人がなぜ死ななくてはいけないのか、全くわからなかった」
口調や声色が変わっていく後藤さんをみて、少しずつ彼の奥底の感情に触れている気がした。
「そいつが少しずつ夢を叶える度に、俺に笑顔で報告してくる。それが俺も嬉しくなって、気づけば、そいつの夢が、俺たちの夢に変わってきて…毎日毎日、どうやって殺さないでおこうかって考える日々だった…」
「もしかしてその人って…」
「あぁ、斉藤涼太だよ」
「やっぱり、涼太さんだったんだ」
「俺は…涼太を殺せなかった…殺したくなかった…!俺には、出来なかったんだ!だから…余計にレイナさんたちを見ると、あの頃の俺や涼太と過ごした日々を思い出して、泣きそうになる」
涙を流しながら、私の目を真っ直ぐ見る後藤さんの姿は、長年一緒にいたが、初めて見る姿だった。
「結局、後藤さんは涼太さんを殺せなかったんでしょう?そして、自分の存在も打ち明けなかった」
「あぁ…そうですよ」
「なら、どうして後藤さんは生きているんですか?ターゲットの人間を殺してないのなら、死んでいるはずです」
「…それを今からお話するために、レイナさんに会いに来ました」
気づけば真っ青だった空も黒くなり、屋上でひとりぼっちの私を大粒の雨が濡らす。
後藤さんが言ったことをもう一度思い出す。涙が私の頬を濡らした。あまりにも悲しすぎて、でも嬉しいような…そんな気持ちだった。
それから雨も上がると同時に、私の気持ちも落ち着いた。龍友さんと過ごした日々を思い出しながら、感謝の気持ちを伝えながら、ギターを鳴らした。
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