第四章 2人の夢

雨が降ってきそうな曇りの日。

俺は仕事の昼休みに、龍友に呼び出されたカフェへと向かった。龍友に呼び出されるなんてそうそう無いので、少しウキウキしながら向かう。

カフェへと入ると、「こっち!こっち!」と手を振っている龍友の姿が見え、俺はその席に座った。


「急に呼び出してどうしたの?」


「いや、涼太にはちゃんと話しておこうと思った話があって」


「え、なになに?」


深刻そうな顔をする龍友を見て、只事ではないことはわかった。


「あのさ、涼太が死神の話してたじゃん。その死神というか、その話で」


中々話の内容を言わない龍友に、俺はイライラが募っていく。


「その死神がどうしたの?早く言って」


龍友は深呼吸をして


「レイナさんが死神だったんだ」


と言った。俺は信じられないような言葉に、言葉を見失う。死神がいることに確信はしていたが、いざいるとなると戸惑ってしまう。


「え、は、え?マジ?」


「本当だよ。涼太にはこのことを伝えておこうと思って」


「あのレイナさんが?」


「うん、そうなんだ。僕も最初はびっくりしたけど、色々聞くとさ、」


龍友はレイナさんと起こったことを隅々まで教えてくれた。


「俺の知らない間に、レイナさんとそんなことがあったのか」


「結構な重たい話でごめん」


「いいよ!話してくれてありがとう!」


「こちらこそだよ」


「また何かあったらいつでも言えよ?何でも聞くからさ」


「ありがとう。あ、雑誌の記事は出来たか?」


「出来たよ。今編集長に記事を出してきたとこ」


「もうそこまで、本当にありがとう」


「いいっていいって!俺と龍友の仲だろ?」


仕事の話や今後の将来の話で盛り上がってしまい、予定より少し遅くなった。龍友と話していると、前向きな気持ちになり、小さな悩みなんてどうでもよくなる。

龍友と初めて出会った高校の時から、2人で夢を語り合い、意気投合して、今もずっと一緒にいる。

龍友と別れた俺は、たくさんの人とすれ違いながら、ガラス張りのビル、仕事場へ向かう。

オフィスへ帰ると、上司や部下が一生懸命に記事を書いている。それを見ながら俺は席へと着いた。

新たな記事をまとめようとした時、編集長から声がかかり、編集長の机へと向かった。

編集長は文字のまとめ方や伝え方がうまく、俺の尊敬する人だ。この編集長に憧れて、今の俺がいる。


「編集長、何かありましたか?」


「午前中に見せられた記事を読んだよ」


「あ、どうでしたか?」


「気に入ったよ。この記事を次の雑誌にだすよ」


「え、本当ですか?ありがとうございます!」


「それともう一つ。この会社に子会社があることは知ってるよね?」


「それはもちろん。知っています」


「涼太を、その子会社が出す新たな雑誌の編集長に推薦しようと思う」


「え、それは本当ですか?」


夢に思っていた言葉を言われて、俺は言葉が出ずに固まってしまう。


「涼太が書く記事には、読者を惹きつける力がある。是非とも編集長になってほしい」


尊敬する人から言われる夢に見た言葉に、俺は嬉し泣きをしてしまう。


「俺にやらさせてください!編集長の期待に応えられるように頑張りますから!」


「ありがとう。早速連絡しておくね」


「ありがとうございます。それでは失礼します」


目標達成という事実に喜びしかなかった。これを誰かに伝えたくて、俺は仕事のビルの休憩スペースへと言った。

今休み時間でも何でもないため、従業員は誰もいない。


「やった!やっとこれで目標達成だ!!まずは龍友に報告」


とスマホを手に握った時、後ろに人の気配を感じた。


「誰?」


後ろを振り返ったが、誰もいなかった。

だが、その人の気配になぜか懐かしさを覚えた。久しぶりに、あの名前を口にしてみる。


「もしかして、流唯か?」


誰の反応もない。それはそうだな、今は誰もいないはずなんだからと思ったが、どうしてもそこに流唯がいるように感じがして仕方がない。出会った頃から、流唯は独特の雰囲気を持っていた。間違うはずがないと確信した俺は何度も名前を読んだ。


「流唯、そこの壁の後ろにいるんだろ?今から行くぞ。いいのか?」


と俺が足を踏み出した時


「こっちに来るな」


と震えた声で流唯が言った。


「やっぱり流唯なんだろ?俺ずっと会いたかったんだ。お願いだから、顔を見せてくれよ」


「無理だ」


流唯は俺の言葉を冷たく突き返した。

すぐ壁の後ろに流唯がいるはずなのに、流唯の震えた声と冷たい雰囲気が怖くて、前へ進めなかった。


「…流唯は一体何者なんだ?」


「知らない方がいい」


「死神なんだろう?」


「…なんで、」


「仕事で死神についてたくさん調べたり、友達から話を聞いていくうちに、もしかして流唯も死神なんじゃないかって思ったんだ」


流唯は何も話さない。


「俺が、ターゲットの人間だったんだろう?流唯がどれほど辛い思いをしたか考えてあげられなくて、ごめんなさい」


すると流唯から、鼻を啜るような音が聞こえてくる。その音に、俺も涙が自然と流れてきた。


「涼太、編集長に昇格、おめでとう!」


久しぶりに流唯から名前を呼ばれ、「おめでとう」と声をかけてもらった優しさに、涙がまたこぼれてしまった。


「涼太が編集長なんて、2人の夢が叶ったな!出会った頃の涼太が嘘みたいだ!」


明るい笑いながら話すの流唯の言葉に、嬉しくて、切なくて、色々な感情の涙を流す。


「涼太、またどこかで会おうな」


そう言い残して、流唯の気配は消えていった。


「流唯?」と呼んでみたが、返事はない。久しぶりに流唯にあった喜びと、少ししか話せなかった悲しさで複雑な気持ちだった。

だが、「またどこかで会おうな」という流唯の言葉を信じて、仕事場のオフィスまで向かった。

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