🪶

「今は流唯がどんなふうに過ごしてるのかはわかんないけど、レイナさんを見て、久しぶりに流唯に会った気がする」


「そんな話、僕は聞いてないぞ」


「だって話してなかったんだもん」


「その、流唯さんの連絡先とかはありますか?」


「持ってるは持ってるけど、なかなか繋がらないんだ」


「そうなんですね、」


レイナさんは悲しげな表情を浮かべていた。そんな雰囲気を変えようと、僕は涼太に話さなければいけない内容を口に出す。


「あのさ涼太。今度レイナさんの単独LIVEをしようと思う。野外フェスみたいな」


「え、マジかよ。いついつ?」


「今月の30日。ハロウィンの日だよ」


「えーもうすぐじゃん!レイナさん頑張ってね」


「ありがとうございます」


レイナさんは涼太にお礼をする。


「そのLIVEの話しで涼太にお願いがあって」


「え、なになに?二人のことだからなんでもするよー?」


「ありがとう。そのLIVEの宣伝を、涼太にお願いしたいんだ」


「それさ、俺がしていいの?逆に聞くけど」


「もちろん。涼太だからお願いしたい」


「マジかよ!龍友、ありがとう!俺頑張る!!」


涼太は嬉しそうな顔を浮かべ、僕とレイナさんに深くお礼をした。

3人で23時を回るまで、ずっと話続けていた。「明日も仕事がある」と慌てて店を出た僕たちは別れを告げ、涼太と別れる。

レイナさんと街灯と月の光だけが照らす路地を歩いていると、僕たちが出会った公園が見えてくる。


「あ、この公園」


レイナさんは立ち止まり、公園の中に入っていく。その後を追うように僕も公園へと入る。

2人が出会ったベンチの前まで行くと、レイナさんは立ち止まった。


「私、龍友さんに出会えてよかったです。龍友さんと会ってから、生きることの楽しさを知りました。前までは、生きることも、死ぬこともどうでもよかったから、本当に感謝してます」


レイナさんは、僕に背を向けたまま、か細い声で話す。


「急にどうしたの?僕はレイナさんに何もしてあげてないよ。僕の夢を叶えるために手伝ってもらってるだけだよ。逆に感謝してる」


「そうかもしれないですけど、気づけば、龍友さんの夢を叶えることが、私の夢になってました。これが私の初めての夢なんです。龍友さんには感謝しかないです」


と、さっきよりも大きな声で、僕の目を見て、レイナさんは話した。


「…正直ね、レイナさんに出会うまでは、夢を叶えることに不安と恐怖でいっぱいだった。本当に夢を叶えられるのかなって。もう後戻りは出来ないし、この夢に人生をかけてるからこそ怖かった。」


あの時の気持ちを思い出して、僕は涙を流す。


「だけど、レイナさんがこのベンチで歌ってる歌声を聴いて、不安も恐怖もすぐなくなった。この人なら、僕の夢を叶えられる気がしたんだ。僕の夢を叶えるために協力してくれてありがとう。本当にありがとう」


「龍友さん、、私、初めて人に感謝されました。初めて人に必要とされたんです。龍友さんと過ごす日々は初めてのことばかりで、初めて生きていてほしいと思いました。こちらこそありがとうございます」


レイナさんは出会った頃のように涙を流す。その姿は儚く切なそうで、どこかに消えてしまいそうだった。


「レイナさん、伝えたいことがあります。今だから言える言葉です」


「何ですか?」


「…好きです。レイナさんのことが。レイナさんの声だけじゃなくて、人として本当に好きです」


「え!私をですか?」


「はい。わかってます。レイナさんが僕のことを好きじゃないことぐらい、」


「…ごめんなさい…私と龍友さんは、恋に落ちてはいけません。」


そう言ったレイナさんはまた新たな涙を流す。


「どういうことですか、?なんでレイナさん泣いてるんですか?」


「…龍友さんのその感情は、私には勿体ないです、」


その状況を悲しむように、空は大粒の涙を流した。ぽたぽたと僕の肩に降り注ぐ涙に紛れ、僕の目から雫が垂れる。レイナさんも同様に、涙に打たれていた。

すると、レイナさんは慌てて木下に隠れようとしたが、バサッと背中から大きな黒い羽が生えた。一瞬のことで、自分の目を疑ったが、真っ黒い羽は生えたままだ。


「レイナさん、?それって、」


レイナさんは黙ったままで、そのまま崩れるように座り、


「見ないで」


と僕に伝えた。また空の涙が僕らに降り注ぐ。

僕は咄嗟に羽を隠すように、薄手の羽織をレイナさんにかけ、雨を凌ぐため、僕の家へと行った。

家へ着くとまだ羽は生えていたが、体は濡れていたので風呂をすすめたが、頑なに拒むため、タオルを貸した。レイナさんは一言も喋らないので、気まづい雰囲気だけがながれる。

でもどうしても羽の正体が知りたい僕は、その気まづい雰囲気を変えてしまうような一言を口にした。


「…その羽は、何ですか?」


その一言にしばらくレイナさんは沈黙をし、やっと口を開く。


「それは…」


「それは彼女が死神だからです」


とレイナさんの喋りの途中に、とある男が口を割ってきた。その男は、突然姿を現した。ガッチリとした体型に、ピチッと決めたスーツを着ている。スラと伸びた細い足に、不気味な笑みを浮かべた美形な顔で、不気味だった。


「え、死神って?」


「人を殺す者です。この世界にいる人間が死ぬタイミングを作っております」


「…なら…レイナさんが、死神ってことですか?」


「はい」


と謎の男は不気味な笑顔を浮かべる。


「レイナさんが…」


僕は彼女を見たが、彼女は僕から目線をそらした。


「今、彼女が担当しているターゲットは…」


「後藤さん!!」


男の淡々と喋る上から、レイナさんは言葉を被せる。


「それ以上は私から話します」


「そうですか。嘘偽りなく、本当のことを彼に話してください。私はここから見ております」


男はそう言い残し、姿を消した。


「レイナさんさっきの男は…いやそれより、レイナさんが死神ってどういうこと?」


「…さっきの人が話してた通り私は死神で、ターゲットになっている人間に余命宣告をして、このノートで人を殺しているんです。わかりましたか?」


とレイナさんはどこから出したのかはわからないが、僕に真っ黒なノートを見せる。


「よくわかんないけど、そこまではわかったよ。その羽を見た状態で、疑うことはできないしね。それに、死神の話は涼太から聞いてるんだ。水が弱いみたいな、ある程度な話はね」


「涼太さんから?なら話は早いですね。今回私が担当するターゲットの人間は、龍友さん、あなたです」


「え、それって…」


「そうです。私はあなたを殺しに来ました」


簡単に話すレイナさんを見て、恐怖など何も感じなかった。さっきまで涙を浮かべてた彼女の姿を思い出すたびに、今のレイナさんは嘘で作られたような感じがしたからだ。


「なら、今まで僕を殺すために近づいてたんですか?」


「そうです」


「なぜ、僕をすぐに殺さなかったんですか?殺すために近づいたなら、もう、殺してるはずです」


そう言うと、レイナさんは僕から目を逸らし、さっきよりも小さい声で話し始めた。


「なぜ殺さなかったのかって…龍友さんが、大事な人だからです」


「え?」


「…ずっと、あなたのこと殺すつもりでした。だけど…殺せなかった。最初は生きる希望を、持った人だからと思ったけど…気づけば、もう」


レイナさんは涙を流す。


「龍友さんのこと…好きになってました…」


衝撃的な一言に僕は会いた口が塞がらない。


「私にとって、龍友さんは遠くの人だから、私にとって勿体ない人だった。だけど、公園での龍友さんの言葉を聞いて、嬉しくてたまらなかった。けど、私は死神で、あなたを殺す運命です。そんな私が好きになるなんて、誰が許しますか?誰が、認めてくれますか?」


大粒の涙を流しているレイナさんを抱きしめることしか、僕には出来なかった。


「僕が許します。僕が、認めます」


彼女を襲う辛い気持ちから解放してあげたくて、僕は強く、強く、抱きしめるしかできないかった。


「そんなに簡単に行くと思いますか?」


その言葉を言いながら、謎の男はまた姿を現した。


「あなたは一体誰なんですか?」


と僕は強く言い返す。


「お、申し遅れました。私は、レイナさんのような死神に、ターゲットの人間の情報や、地球上の命の管理を“あの世”でしております。後藤と申します」


彼は僕に丁寧に挨拶をする。

不気味な笑顔を浮かべる彼に、僕は恐怖を覚えた。


「どうして僕の前に現れたんですか?」


「それは、レイナさんが中々あなたのことを殺さないからです。本当のことを話してあげたくて」


「本当のことって?」


「それを教えるためには先ほどの話に戻りますね。龍友さんが認めるだけで、レイナさんのためになると思いますか?」


「…それってどういうことですか?」


「あなたを殺さなければ、レイナさんは死ぬんです。死神の仕事を全うしなかったことになりますからね」


「え、?」


僕はレイナさんの方を見たが、レイナさんは涙を浮かべるだけで、僕の方を見てくれない。


「あなたが死ねば、レイナさんは生きられるんです。逆にあなたが生きることを選べば、あなたと出会ってからの3ヶ月以内にレイナさんは死にます。しっかりと、考えてくださいね。他の死神が呼んでいるので、私はこれで」


と後藤と名乗る男は姿をスッと消した。


「…龍友さん。今まで本当のこと言わなくて、ごめんなさい、」


「…ううん。レイナさんの現状を、知ってあげれなかった僕にも責任があると思うから…たださ、僕が死なないと、レイナさんが死ぬってことは本当?」


「…はい。でも、龍友さんを殺すつもりなんてないから!」


「それはダメだよ。レイナさんにやっと夢が見つかったんだ。僕はレイナさんに生きてて欲しい」


「だけど、龍友さんが死ねば、私の夢はどうなるんですか?龍友さんの夢を叶えることが私の夢なんです。私が死んでも、龍友さんは夢を叶えることができます」


「レイナさんのその夢は、素敵な夢だと思うよ。けどね、レイナさん自身の夢を持って欲しいんだ。だから、レイナさんには生きていて欲しい」


「そうかもしれないけど、私は、龍友さんが好きなんです。生きていて欲しいんです」


「それは僕も一緒だよ。レイナさんのことが好きです」


涙を流すレイナさんを、僕は優しく包み込む。


「僕はレイナさんに夢を見つけて欲しいんだ」


「…ありがとうございます」


レイナさんは僕の腕の中で声を出しながら涙を流した。その涙に釣られて僕も涙を流す。星がキラキラと輝く夜に、僕らは自分らの人生の辛さを憎むことしかできなかった。

あんなことを言ったけど、本当は僕だって生きたいと思う。だけどレイナさんを想うと、自分の命なんてどうでもよくなった。ただ、レイナさんが幸せに、笑って生きることができるなら、僕はこの命に変えてみせるよ。

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