🪶

俺は上京への期待を胸に、心を躍らせていた。夢だった雑誌編集長にはまだ程遠いが、仕事を心から楽しんでいた。


「あの、すみません」


と雑誌の記事の資料集めに山の中へ行っていた時、同級生ぐらいの1人の青年が声をかけてきた。


「はい、なんですか?」


「何をそんな調べてるんですか?」


目をクリクリさせて聞いてきた彼は、ガッチリとした体型にすらっと伸ばした足で、スタイル抜群だった。


「今度とある雑誌で取り上げる記事の内容です。来月ここに流星群がふるということを聞いたので、綺麗に見える場所を少し調べておこうと思って」


「あーそうだったんですね!熱心に調べているので、何かあるのかなーと思って」


と彼は笑った。


「来月の流星群がふる場所ならここじゃなくて、あっちのほうが綺麗に見えますよ」


「そうなんですか!ありがとうございます」


俺は彼に案内されながら、山の中へと登っていった。

着いたところは山の山頂で、町を見渡せてとても綺麗だった。


「こんなところに、こんな綺麗な場所が、」


「驚いたでしょ?ここは穴場スポットなんです。あまり利用者も少ないし、この辺で1番高いから、きっと流星群も綺麗に見えると思いますよ」


「わざわざありがとうございます!これはいい記事が書けますよ!編集長にも認めてもらえます」


「いえいえ、あなたが熱心に調べられていたので」


「本当に助かりました!」


「まだ見習いなんですか?」


「あ、はい。まだ全然認めてもらえてないので、すごく下っ端なんですけどね」


俺はその場を明るくするように「あはは」と笑う。それと同時に彼は真剣な顔つきになっていった。


「…人に認めてもらえないで、ずっと下っ端なままで、人生楽しいですか?」


「え?急にどうしたんですか?」


「あ、すみません。気になってしまったので、」


「全然いいですよ。あ、さっきの質問の答えは俺の人生は楽しいですね!」


「楽しい、ですか?下っ端なのに?」


「はい、だって夢を叶えている真っ最中なので!楽しいに決まってるじゃないですか?」


俺は夢を追いかける楽しさを思い出し、彼の前で熱く語ってしまう。


「一度は、死のうと考えたことありますよね?」


「それはもちろん。生きてるんですから。誰だって死のうなんて考えたことありますよ!」


「人間は、夢を叶えるためなら生きていけるんですか?」


「全員がそうとは限らないけど、俺はそう思いますよ!」


俺は彼に明るくVサインを見せ、ニヒヒと笑ってみる。すると、それが面白かったのか、彼も笑っていた。


「初めてあなたのような方に出会えました。感動です」


「感動って、いいすぎですよー。あ、お名前聞いてもいいですか?不思議な質問ばかりするので、気になりました」


「え、僕の名前は後藤流唯です。」


「後藤流唯、、いい名前ですね。あ、俺の名前は斉藤涼太です。よろしく!」


彼によろしくの握手をするつもりで手を出した。流唯さんは俺の手を握り返してくれて


「涼太さんは普通の人間とは違いますね」


と不思議な言葉をかけてきた。

彼が突然消えるまでの3ヶ月間、一人の友達として過ごした。「涼太」と呼ぶ彼の姿は、所々に切なさや儚さがあったが、明るく綺麗だった。

彼と出会って3ヶ月ぐらい経った頃、俺に「今までありがとう。夢に向かって頑張って」と書いた手紙を残して、俺の前から姿を消した。

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