第二章 黒い羽が奏でる歌
僕はレイナさんと連絡を交換し、次の日、僕の家にある、ちょっとしたスタジオで会うことに成功した。マイクとか編集器具とかしかないちっぽけなスタジオだが、歌を一曲完成できるぐらいの機材はあるので、仕事が終わった後、僕は遊び感覚で使っていた。
「レイナさん、じゃあこの前流行った「君の歌」を歌ってもらえますか?」
「わかりました」
そう言って歌い出したレイナさんの声は、相変わらず天使の歌声で、ぎゅっと優しく包み込まれるような感覚だった。
高音を綺麗に歌いあげるレイナさんの姿は、天使そのものだった。
「ありがとうございます!少し編集するから、そこで待っててくれる?」
彼女をソファーに座らせた僕は、歌の編集に入る。
僕が編集に夢中になっていた時、彼女は声をかけてきた。
「人生楽しいですか?」
突然すぎて不思議な言葉に、僕は驚きを隠せない。
「急にどうして?」と聞き返してみると、彼女はスタジオに貼ってあったボードに貼ってある写真を指差す。
「この写真を見てるだけで、あなたの楽しさが伝わってくるから」
「あーそれか。まぁ、この写真に写っている思い出は、幸せすぎて、今でも覚えてるよ」
「幸せ?…本当にそう思うの?」
「え?うん、幸せだよ」
「あなたの人生も幸せ?楽しい?生きててよかったとか思う?」
「え?レイナさんどうしたの?一回落ち着こう」
「あ、ごめんなさい」
「いいよ、一個ずつ答えるね。僕は幸せだよ。すっごく楽しい。まぁ楽しいことだらけではなかったけどね」
僕は今までの苦労を思い出して、笑ってしまう。
「なら、生きててよかったなんて、思わないでしょ?」
彼女が淡々と話すその言葉には、どこか重みがあり、切なく、氷のように冷たかった。
「生きててよかったなんて、今までたくさん思ったよ。辛いことも、苦しいこともたくさんあったけど、いつかはその分、楽しいことも嬉しいこともたくさんある。そんな時に、あー生きててよかったってめっちゃ思うね」
「…そうかもしれないけど、辛かったり、苦しかったりした時に、死にたいなんて思いませんか?人間、誰だって思うでしょ?」
「あるよ、何回も死にたいって、消えたいって思った。けどね、死ねないんだ。怖いとかじゃない。死ねないぐらい、叶えたい夢がある。届きそうで届かない大きな夢。」
「その夢って?」
「ヒット作をだしたい。僕の人生の宝物になるぐらいの結果をだして、たくさんの人に僕の曲を聴いてもらいたい。生きにくいと思ってる人の支えとなる、そんな曲。その夢を叶えるためならなんでもするぐらい、僕はこの夢に人生をかけてる」
熱い気持ちを語ってしまった後、すぐに我に帰り、自分の言った言葉を思い出し恥ずかしくなる。どんな顔で僕を見てるんだ?もしかして笑ってないか?と不安を抱えながら、恐る恐る彼女の方を見ると、予想の斜め上をいった。
彼女は、僕の顔を見ながら泣いていた。
「え?すみません。気持ち悪かったですよね?だから泣いてるんですよね?本当にごめんなさい」
「違います!…龍友さんは、生きるべきです!絶対死なないで、、夢を叶えて欲しい。こんな大きな素敵な夢を持った人間、初めて出会いました、」
「それは違うよ。この世の中にはたくさんの人間が夢を持っている。みんなその夢に向かって、必死に努力してるんだ。レイナさんも、夢があるでしょ?」
「ないですよ、夢なんて。考えたこともないです。いつか死ぬなら、夢なんて持たない方が自由に生きれるから」
「そうかもしれないね。けどね、夢を持った方が、人生楽しくなるよ。生きがいとなる」
「なんで、そう思うんですか?楽しくしようと、どうして考えるんですか?」
「それこそ、いつか死ぬなら、楽しい方がいいでしょ?」
彼女はまた涙を流す。僕は戸惑ってしまって、どうしたらいいかわからなくなってしまう。
「レイナさんも、夢を、持ちませんか?」
「…持ってもいいんですか?でも、夢の見つけ方なんて、わかりません」
「あ、なら!」と、僕はレイナさんにヘッドホンをつけ、編集していた歌を聴かせる。
「この歌って、」
「そうだよ。さっきレイナさんが歌った歌をノイズを消したりして、少し編集した曲です。綺麗でしょ?」
「本当に、私かってぐらい、綺麗です」
「でしょ?だからさ、レイナさんが夢を見つける当分の間、僕と一緒に、一緒の夢を追いかけませんか?」
「お願いします!」
その時彼女は初めて僕の前で笑った。その笑顔は太陽のように明るく、月のように綺麗だった。
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