🪶
「今日はありがとう」と涼太にお礼をいい、別れた。
真っ黒な夜の中、車のライトや街灯に照らされ、飲みすぎてズキズキする頭を抑えながら、家へと向かう。
すると、通りかかった近くの公園から綺麗な天使の歌声が聞こえる。ズキズキする頭の痛みを抱きしめるような優しい声。気づけば僕はその歌声を聞くことに夢中で、歌声が聞こえる場所まで足を動かしていた。
足を踏み出すにつれ聞こえる声。公園にある噴水の近くのベンチまで歩いた時、僕はやっと歌声の正体がわかった。その歌声の持ち主は、長く透き通った黒い髪に、黒いワンピース。真っ黒に身を包まれた彼女は、ベンチに小さく座っていて、まるで天使のように綺麗だったが、どこか儚さや切なさがある。街灯の灯りに照らされ、気持ちよさそうに歌う彼女に、「彼女を知りたい」と勝手に思うだけで、僕は時間を止めているような感覚だった。そう、彼女に見惚れてしまっていた。
「誰ですか?」
そんな僕に彼女は気づいたのか、歌うのをパッとやめ、落ち着いた様子で僕にそう聞いた。
「あ、すみません。道を歩いてたら、歌が聞こえたので、つい、」
「うるさかったなら、ごめんなさい」
「いや、違います!ただ、めっちゃ歌声が綺麗で、聞き惚れていました」
「…ありがとうございます…杉山龍友、さんですか?」
「え、どうして?」
「あ、いえ、有名な人ですから、名前を知っているのは当然です。」
「あまり、有名ではないんですけどね」
「あはは」と僕はぎこちない笑みを浮かべる。ヒット作をだしてない僕を知ってるなんて、よっぽどの音楽好きか、ただの怖い人か。
でも、彼女の口から僕の名前が出るなんて、嬉しくて仕方なかった。
「あ、お名前、聞いてもいいですか?」
「え…明夜レイナです、」
「明夜、、レイナさんにピッタリです!」
そう言った僕の言葉に、彼女は冷たい瞳で僕を見る。
「あ、いや、違うんです!いや、違うことはないけど、」
キモいやつと思われたくなくて、必死に挽回しようと慌ててしまう僕。
「もう帰ってもいいですか?」と彼女は僕と反対方向を向く。
「あ、ちょっと待って!」
彼女は振り返って僕を見る。
まだ彼女のことは名前ぐらいしか知れていない。その歌声について、彼女のことをまだ知りたいと僕は強く思っていた。
「どうしてそんなに歌が上手いんですか?」
「あなたには関係ないです」
そしてまた彼女は反対方向を向いて帰ろうとする。
「関係ないことはないです!レイナさんの歌声に惚れてしまいました!」
彼女はまた僕を冷たい瞳で見てくる。その冷たい瞳に目を背けそうになったが、心を強く持ち、彼女を見る。
「レイナさんの歌をプロデュースさせてくれませんか?絶対にヒットさせて見せます!レイナさんのための歌を作りたい」
そう言った後、彼女の瞳の色は暖かみがある色へと変わり、冷たい瞳を向けてこなかった。
「わかりました、いいですよ」
と彼女は小さい声で言った。
信じられない僕は
「本当ですか?」
と聞き返してしまう。
そんな僕に彼女はコクと頷くだけだった。
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