第11話 怪異への案内人
「はぁ……」
そして重いため息を吐く。
「一体何のつもりだ龍太っ! 突然こんなっ、麗しき乙女をこのような場所に閉じ込めてっ……監禁か!? これが俗に言う監禁プレイなのか~~~~っ!?」
「何言ってんの、お前」
狼狽しつつも、どこか嬉しそうな燕の額を軽く小突く。
「あうっ」
「はあ……まさか学校にまで来られるとは思わなかったよ……」
外では昼休みの終了ベルが響いている。午後の授業は休むしかなさそうだ。
「それで」
燕と向かい合うように、龍太も積んであるマットに腰をかける。
「また例の仕事の話ならお断りだぞ。帰ってくれ」
「むう……」
燕が不服そうに頬を膨らませ
「……やだ」
「はあ?」
「りゅ、龍太がここの学校に通っているのを知って、いずれはスカウトに行こうと思っていたのは本当だが……っ、今日ではないっ!」
やはり直接乗り込んでくるつもりだったのか……。学校のこともどうやって知ったのか、学生服から調べたのか、もしくはまた妖怪か幽霊で……いや駄目だ、また余計なことを考えるところだったと、龍太は一度考えを遮断させる。
「それじゃあ、今日はなんでうちの学校に来たんだ?」
「む? なんだ龍太、ここの生徒でありながら噂を知らないのか?」
「噂……」
龍太はふと、つい先程舎弟達としていた話を思い出す。
「まさか……トイレの花子さん……」
「そうだ! なんだ、知っているではないか!」
「なら話は早い!」そう言って燕は龍太の方へ顔を近づけ
「協力してくれ龍太!!」
「断る」
その額に、再び龍太は軽くデコピンした。
燕が「はうんっ」と声を上げ仰け反る。
「むうう、酷いぞ龍太ぁ……ちょっとくらい協力しても……」
「絶対に嫌だ。ろくなことじゃないに決まってる」
「お願いだ龍太! ちょっとだけ! ほんのちょっとだけでいいからああ!」
「ええい離せ! 何度言っても無駄だ! 俺はお前達の仕事に関わるつもりはない!」
必死にしがみついて懇願する燕を振り払おうとするが、龍太の学生服を両手足でがっちりと掴んでいるからか、なかなか離れない。
「ああ、もう……」
腹部にコアラ……ではなく、燕を付けたまま、龍太は大きくため息を吐いた。
「協力って……何をして欲しいんだよ……?」
「龍太ぁ!」その言葉に、燕はぱあっと明るい顔を見せる。
「言っとくが、まだ協力するとは言ってないぞ!」
龍太は燕の後ろ襟を掴み、持ち上げてから床に着地させた。
「わ、わかった……!」
仕方ない、と燕はコホンと軽く咳払いする。
「一週間前、この学校にトイレの花子さんが現れたという情報を貰ってな……全国に妖怪を派遣している我が社としては、ぜひうちの社員として登録しておきたいのだ!」
「……つまり、スカウトに来たわけだな」
「そういうこと!」
龍太同様、妖怪の社員もこうして一人一人燕がスカウトをしているのだろうか?
そもそも燕の派遣会社が一体全国で何をしているのかもよくわからない。昨日渡された契約書に何か書いてあったような気もするが……。
「そのスカウトに、どうして俺が必要なんだ?」
「む……必要というか、この学校にいることは間違いないのだが、どうも正確な居場所がわからないのだ……なので龍太に校内を案内して貰いたい!」
「案内、か……」
そう聞いて、龍太は安堵した。
てっきり「トイレの花子さんと戦ってくれ!」とでも言われると思っていたからだ。
花子さんが出るのは、確か特進科四号館の三階。そこまで燕を連れて行くだけなら、大丈夫だろう。龍太自身が花子さんと遭遇することもないはずだ。
「わかった……出るって場所の近くまで、連れて行ってやるよ」
「おお! ありがとう龍太あ~!」
両手を広げて抱きついてくる燕をひょいっと躱し
「ただし!」燕の眼前で人差し指を突き立てる。
「案内するのは放課後だ! 俺も授業があるし、もし誰かに見られたらかなりまずいからな!」
「何を見られたらまずいんだ?」
「お前だよ! お ま え ! 生徒じゃない奴がウロウロしてたら目立つだろ!」
「むう、では龍太の愛人ということにすれば!」
「なんでだよッ!」
それを一番避けたいというのに。
「とにかく、夕方の五時にまたここに来てくれ……わかったか?」
「……わかった!」
そう言って燕は揚々と敬礼すると「では、またあとでな! 龍太!」屈託のない笑顔を見せ、倉庫から飛び出していった。
一人残された龍太は、なんて約束をしてしまったのだと自責の念に駆られながらその場に座り込み、しばらく落胆していた。
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