ヘルメット66J

探査機の中はマイナス10度に保温されている。外に比べると格段に快適だ。

局長さんが持ち帰ったヘルメットを調べている。


「このチップの中のデータを調べたいんだよ。」

そう言いながら持ち帰ったヘルメットのひとつを被ってみている。


「おっ!お!  これはなんだ!!」

と 局長さんが変な声を出す。


「どうしたんですか?!」

見ると局長さんがフリーズしてしいる。


「局長さん! どうしたんですか、、ねえ、局長さん!」

私が声を掛けても返事をしない・・目が宙を泳いでいる。

変だ、局長さんとのアクセスが切れている・・

ヘルメットが原因なのは間違いない・・

私は慌てて局長さんからヘルメットを剥ぎとった。剥ぎ取ると同時に局長さんとのアクセスが回復する。

「大丈夫ですか?局長さん!」


局長さんが頭を振りながら言う。

「何か別の意識が私の中に入って来たんだ・・ その意識に支配されて、何も出来なかったんだ。」

「別の意識??」

「あれはアンドロイドの意識じゃあないな。子供の時の記憶があった・・きっと人間の意識だ。ヘルメット被ったらいきなりロードが始まったんだ。どうする事も出来なかった・・」

と局長さんはぼう然としている。


「これって、アンドロイドに人間の意識をロードする装置なんですね・・私もヘルメットを被ってみます。ヤバくなったらヘルメットを剥がして下さいね!」


局長さんが、危険だから!と言うのを聞かずヘルメットを被る。すると突然自分がフリーズした。続いて誰かの意識のロードが始まる・・

・・我が国家の報復の為にタイタンに来た・・我々を滅ぼした敵国の勢力は全て抹殺しなければならない。国家に対する忠誠心を証明する為に報復を・ここ・ま・ででで・・・突然意識が遠のいた。


「サリー! 大丈夫か!」

局長さんが心配そうに私を見ている。局長さんがヘルメットを外してくれたのだ。


「私の中に入って来たのは兵士か暗殺者でした。タイタンには敵国の人間を殺しに来んです。 意識が混沌としていて・・あれはアンドロイドの意識じゃあ無いですね。 愛国心とか、復讐とか、忠誠心とか、きっと人間の意識だと思います。」

「そうだったか・・タイタンの人たちはアンドロイドに滅ぼされたのか。人類はアンドロイドを使ってとことん殺し合ったんだな。」


ヘルメットはアンドロイドに人間の意識をロードする為の装置だつたのだ。これを装着したアンドロイドは一時的に兵士になる・・いや、そうじゃあない、人間がアンドロイドになって戦えるのだ。非力な人間には便利なヘルメットだ。

局長さんの66Jのヘルメットは最終戦争の末期にタイタンから報復の為に送り込まれたのかも知れない。


「66Jのヘルメットは・・あれは、たぶん故障してたんだろうな。だから地図データしか取り出せなかったんだよ。」

「おそらくそうですね・・でも、故障してて良かったですよ。」

故障してなければ意識を乗っ取られた局長さんが私を破壊したかもしれない。


「どうするべきかな、このチップには人間のデータが入っているんだ。貴重な人類の記録と言うか、人間の記憶や意識が詰まっているんだよ。」


私は一瞬、アンドロイドが地球で戦争をする場面を想像した。アンドロイドには、人やアンドロイドを傷つけない基本ルールがある。このヘルメットはそれを無効にしてしまい、我々を殺人マシーンに変えてしまう・・


「それって、私たちに必要でしょうか、これを被ればアンドロイドが戦争好きな人間になってしまうんですよ! 私は地球は平和であって欲しいです。」

私がそう言うと。局長さんは暫く考えていたが、ため息をついてから言った。


「そうだな、地球にこのチップは必要ないな。ぜんぶ捨ててしまおうか。」


私たちはドームの中に引き返しヘルメットとチップを全て集めた。それを袋に入れると探査機でタイタンの海の上空に行った。探査機は30メートルの高さでホバリングをしている。


「これともお別れだな。」

そう言うと、局長さんは自分の66Jのヘルメットも袋の中に入れた。そしてハッチを開け、その袋を海に向かって放り投げた。


袋はくるくる回りながら暗いメタンの海に落ちた。一度沈み、一瞬浮かび上がった袋は、再びゆっくりと沈んでいった。

それを確認すると私たちは宇宙船に向かって探査機を上昇させて行くのだった。


さようならタイタン・・

さようなら人間たち・・


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