ドローン探査機


探査機に乗り込んだ私たちは宇宙船から探査機を分離した。そして逆噴射をかけて減速する。速度を失った探査機は重力に引かれて徐々にタイタンの大気圏に落ちてく。 


タイタンの大気は地球より濃く、大気圏に突入すると大気との摩擦熱で探査機の耐熱シールドはは3000度にもなる。その後探査機の減速でシールドの温度は徐々に下がる。探査機は濃い大気を利用して益々減速をかけ、最後は耐熱シールドを切り離す。

すべてタイミングが大切だ。局長さんは経験があるので平然と操作を続けている。


十分に減速し地表に近づくと、ドローンのプロペラを展開して水平飛行に移る。居住区の座標が有るのでドローンは自動操縦で飛んでいく。高度は500メートルだ。


高い山脈は無く、風に吹き寄せられたような茶色の砂丘があちこちに見える。空は薄いオレンジ色に霞でんでいる。太陽は遥かに遠くタイタンは薄暗い世界だ。

私の想像とはかなり違う・・


海に近づくにつれて景色が変わってくる。液化メタンの湿地帯に続いて深く削られた渓谷が現れて来る。切り立った崖は茶色に汚れた氷のようだ。


ドローンは海の縁に沿って北に飛んでいる。

眼下の液化メタンの海は風に煽られて、波となって岸に打ちつけている。薄暗いせいか、海は黒くて不気味だ。ぼんやりと霞んだ空には土星の白いリングが空に線を引いている。


タイタンの大気は窒素が97%を占める。後の残りは2.7%のメタンと僅かなエタンだ。マイナス176度だとメタンは雨となって降ってくる。


海を離れて暫く平坦な陸地を飛ぶ。しばらくすると眼下に壊れた風車が現れた。

「風力発電をしていたようですね。」

「うん、かなり昔い装置のようだね。」


風車は倒れ、プロペラ部分が壊れて巨大な羽根が外れている。その上を通り過ぎると、前方に巨大なドームが見えてきた。そこが目的地の居住区のようだ。


ドームに近づくと入り口付近に破損した作業車があり、運転席にアンドロイドが座っているのが見える。私たちはその作業車の近くに砂煙を上げてドローンを着地させた。


砂は茶色の粒で軽い物質で出来ている。私は砂を手に取って分析装置にセットする。アセトニトリルに不純物が混じった混合物だ。

「この砂はプラスチックで出来てますよ。だから軽いのですね。」


作業車に近づいてみると予想どうりアンドロイドは壊れていた。劣化が激しく触たら崩れてしまいそうだ。


見るとアンドロイドがヘルメットを被っている。局長さんのと同じタイプのヘルメットのようだ。局長さんが運転席に上がってヘルメットを外している。

「これは私のヘルメットと同じだ。チップもセットされているぞ!」

と言う。


「どう言う事なんでしょうね。なんでタイタンで使われていたヘルメットが地球の遺跡から出て来たのでしょうか?」

「解らないなあ・・ ともかくドームに入ってみようか。」



ドームの入り口のドアは砂で覆われて動かない。 二人の力でガタガタと揺すると、少しだけ動いて、なんとか通れるほど開ける事ができた。


中はとても広く数十の部屋が有るようだが、人の遺体も骨も見当たらず、壊れたアンドロイドが10数体ほど転がっているだけだった。ドームの中の物は何もかもが酷く劣化している。ドームは透明な物質で造られているのだが砂で汚れていて中は暗く、ヘッドライトが必要だ。


ドームの中央には大き火力発電設備があり発電と暖房を兼ねていたようだ。

「やっぱり人間の生存には向かなかったのでしょうか。」

「そうだろうか、この発電システムが有れば生存は可能だと思うんだけどね。燃料はメタンからいくらでも作れそうだし・・ 何が原因でこんな事になったんだろね。」

「人間が死んだのなら骨は何処に有るんでしょうか?」

「うん、人間の方が先に死滅したのかもね。アンドロイドが始末したのかもしれないな。その後でアンドロイドが壊れたのかもな・・」


中央の発電システムの横に倉庫があり、ドアが空いている。私が中に入ってみると壁の棚に沢山のヘルメットが収納されている。全て局長さんのヘルメットと同じ形状の物だ。中を見るとどれも例のチップがセットされている。

「局長さん、これを見て下さいよ。ヘルメットがたくさんありますよ!」


局長さんを呼ぶと、局長さんがそれを見て驚いている。

「何だよ、私のヘルメットと同じ物じゃあないか・・やはりここから来たのか。」


私たちは、調査の為にその中の2個を持って探査機に引き返した。ヘルメットのデータを解析すれば何か分かるかもしれない。

過去にタイタンで何があったのか・・

どうして人々が生き残れなかったのか・・


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