衛星タイタン

2027年に打ち上げられたタイタン探査ロケットは予定通り2036年にドローン探査機ドラゴンフライをタイタンの砂漠地帯に着陸させた。その調査結果を元に2056年にはタイタン開発の為のベースキャンプが作られた。そこを起点として2080年には数百人が暮らせる居住区が作られ、そして更に居住区を拡大していた2100年に地球で核戦争が起きたのだ。地球は2万発の原爆と数百発の水爆で跡形もなく破壊され放射能の惑星と化した。そしてすぐに氷河期に入ったのだった。



局長さんは豆粒ほどのガラス様の物をテーブルに置いて言った。

「これが例のチップなんだかね、接続端子は無いんだ。どういう仕組みかは解らないんだが、ただ一方向から強い磁場を当てると磁場による応答が有って、それをデジタルに変換してみたんだよ。」そう言いてチップを66Jのヘルメットに装着するとそのヘルメット被った。

「こうやって電磁波で交信するんだ・・」

「それを局長さんの中で画像化したら過去の地図データが有ったんですね。」

「まあ、そういう事なんだがね。」と言って局長さんは続けた。

「その画像以外に別のデータが大量に入っていてね、ほとんど解析不可能なんだけど少しだけ別の地図データが出てきてね。その場所はこの地球ではなくタイタンんなんだ。」

「タイタンの地図ですか?」

「タイタンの地図ではなくてタイタンにある施設の地図なんだ。」


局長さんがデジタルで画像を送ってくれる。

それを私の頭の中で画像化する・・

「これってデカくないですか?!」

「うん、施設と言うより街だね。巨大な発電所らしき物もある。」


「これって、ここに人類が生き残っているって事ですか?」

「それはどうかなあ、1万年前の地図だからね。地球からの補給物資なしで生きれるかどうか・・無理だろうな。タイタンは人類には過酷過ぎる環境だからなあ・・」


「どうなっているか、行ってみましょうよ!」

「ふふ、サリーならそっ言うと思ったよ。」

「やった〜! 行くんですね!」

「サリーも賛成すると思ってね、じつは船も手配してあるんだ。」

いつもの事ながら局長さんは手回しが良い。数日後にはタイタンに向かって出発の手筈が整っているという。


私は宇宙船に乗るのは初めてでワクワクだ。遠ざかる地球も美しくロマンチックな気分に浸る。局長さんは黙々と何かの作業をしている。窓から見える宇宙は想像より暗く銀河もはっきり見える。ネットとの通信も途絶え、今は局長さんと二人だけだ。

「ねえ!地球が綺麗だよ!一緒に見ようよ。」と言うと

「画像を送ってくれ!」と言う。

それじゃあ意味ないんだよ・・


しかし、タイタンは遠い、1億5000万キロもあるのだ。船の速度では到着まで10年もかかる。

局長さんが言う、

「エネルギー節約の為にタイタンに着くまでシステムを落とすからね。船の電源も落とすから、睡眠ポッドに入ってくれ。」

そうか、このまま行くんじゃあないんだ・・


睡眠ポッドは繭の様な形だった。その中に入ってタイマーをかけて自分をoffにするだけだ。目が覚めたら10年後か・・そう思うとつまらない・・ダメかもしれないけど聞いてみるか・・

「私も局長さんのポッドに入っていいですか?」と聞くと、局長さんは意外にも

「いいよ!」と気軽に返事をしてくれた。


そして私は局長さんの支持どうりに船の電源を切り・・

そしてポッドの中の局長さんの横に滑り込んだ・・

そして・・自分をオフにした。

そして・・長い時がたち・・

そして ・・

そして・・ 

10年後・・私たちはタイタン周回軌道上で予定通りに起動したのだ。


眼下に見えるタイタンは、薄ぼんやりとメタンの黄色い霧に覆われていた。

タイタンの背後には視界いっぱいに広がる巨大な土星と、それを取り巻く巨大なリングが、コンパスで描いたように幾何学的に広がっている。 それらの巨大な物体を背景にしたタイタンは、とても小さく頼りなく見える。


タイタンは月よりは かなり大きく 火星より少し小さい

マイナス180度の気温。地表大気圧は、1.5バール。

黒く見えるのはメタンの海だ。そしてメタンの雲・・

メタンの雨が降りメタンの河を作る・・

川は大地を削り複雑な地形を作っている。

このタイタンは メタンのハビタブルゾーンなのだ。


**(ハビタブルゾーンとは気体と液体と固体が存在出来る気圧と温度環境を言う。ちなみに地球は水のハビタブルゾーンだ)**


これから私たちは探査ドローンでこの惑星の人類居住区を目指す。そこからの発信電波は無く、おそらく廃墟だろう。何が待っているのだろうか・・私たちは期待と不安が入り混じった複雑な気持ちでタイタンを見下ろしていた。

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