第11話 病院 食欲 死刑執行人
これは僕の叔父から正月の集まりで聞いた話だ。
僕の叔父は小さい頃から体が弱く村の病院でよく入院していた。そこにいた看護婦が可愛くてな、あれは絶対に叔父に惚れていた。と父が教えてくれた。
父はこの話を叔父と会うたびによくするが、叔父はこの話が出ると、そんな昔の村の事なんて今さら話すなよ。というだけだ。
そのつどに絡み酒はやめなさい。と母に怒られるまでが話のセットになっている。
ここまでが俺が聞いた話。
そんな話を何度も聞いていくうちに、その診療所が廃墟マニアの俺としては気になってしまった。
大学二年の正月、俺は酔った叔父に診療所と看護士の事を訪ねてみた。叔父は困った顔になったが、その診療所ならもう取り壊される。とだけいうと、その正月は終わった。
何となくに納得できない俺は大学で知り合ったTと春休みにちょっと撮影に行く事に。
廃墟動画としてネットに動画をあげれば少ないが小遣いも増える、旅も出来るwin=winの関係。
Y市から約5時間ほどにある元K村。
Tの乗る車でついた頃にはすでに日が落ちていた。とはいえ機材はあるし、元から夜に撮影するつもりでもある。
診療所のあったと言われる場所にいくと診療所は普通に残っていた。
カメラを片手に二人で診察所を撮影していく、小さな部屋が数個。
カレンダーは当時の物だろうボロボロになっているが年間カレンダーと言う奴で1枚の紙に1年が記されている。
その中でも昭和32年8月31日に赤丸が付いていた。
他に目立った所はなく木製のテーブルが置かれているだけ。
それに入院患者が寝泊まりする場所が離れ小屋として一つ。それをカメラに収めていって終わりだ。
本音を言えば看護婦の霊でも出れば面白い。とTと笑いながら撮影しその日は終了。
翌日になりホテルで目がさめると空腹が酷かった。バイキングで食べに食べ、それでも昼には腹がすく。
一緒にいったTも同じ状況で、俺達は無言になる。どっちもあの診療所が原因だろう。と思っても口に出して言う勇気はない。
廃墟はあっても霊なんていないから。
お互い久々の撮影でストレスだろうと、言う事で片付け、その日の夕方には解散となる。俺の方はこれから動画編集という地味な作業だ。
タイトルは決めてある。
廃精神病棟に潜入。カレンダーの赤丸とは! だ。
声は後付けでなんとでもなる。動画を編集中に俺は変な事に気が付いた。
昭和32年8月31日。そのカレンダーの赤丸の位置が移動している。
そんなはずは……とおもっても画面では3月7日になっているのだ。3月7日といえばTの誕生日。俺が先日Tを焼肉に連れて行った日でもある。
スマホがなる。
Tからだ。
俺は深呼吸してスマホを取ると心配とはよそにTの明るい声が聞こえた。
なんでもナンパに成功したらしくこれから3人で飯いかないか? という誘いだ。
俺はその話をOKし着替えて待ち合わせの場所に暫く立っていた。
Tは来なく結局Tは単独事故を起こし死んでしまった。
残された俺は偶然とはいえ気が狂いそうになる。Tの死後から数日後、遅れに遅れた動画の編集をするとカレンダーの赤丸が9月14日に変わっていたからだ。その日は俺の誕生日。
食欲はどんどんなくなり病院で検査した所、胃に腫瘍が出来たとの事。あの動画は既に消した、もう一度あの場所に行って確かめたいがその勇気も起きない。
俺は最近できた彼女に、さしずめ死刑執行人を待っている気分だよ。と、いうと、彼女は悩み事はもうすぐ終わりますよ。とはげまされた。
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