第10話 バック エレベーター メリーゴーランド

 メリーゴーランドって知ってる?

 授業終わり僕が帰ろうとすると、佐藤さんが話しかけて来た。

 思わず時計をみる。

 時刻は6時限が終わり16時に近い、部活ある人は部活に、僕のような陰キャは帰るだけだ。



「ええっと、大丈夫?」

「いや、だから知ってる? って聞いてるんだけど」

「そりゃまぁ……遊園地にある奴だよね。知ってるけど」



 確か馬の置物がグルグル回る遊具なはずだ。



「そうよね……あの家にいっていいかしら」

「え……」



 佐藤ゆかり。胸は小ぶりであるが弾む程度にはあり、愛嬌もいいし友達も多い。

 最近は休みがちで久しぶりに登校してきたと思ったらコレである。

 

 佐藤さんが僕の家に来たい。突然何を言い出すのかと思えば驚きで声が出なくなる。


 僕に惚れたのかもしれない。

 胸元からちらりと見える青い下着。その谷間が僕の家に来るのだ。



神威かむい君の家ってその……祓い――――もぎゅ」



 僕は慌てて佐藤さんのほっぺを手で抑え込んだ。

 口が潰れても可愛い顔で僕を見てくる。



「あ、なにするにょ」

「しー! 場、場所を変えよう」



 僕は佐藤さんの手を引っ張って非常階段まで登った。

 屋上に続く階段で上まで上がればあまり生徒は入って来ない、それも放課後となるとなおさらだ。



「誰から?」

「え。あの何が?」

「僕の家がその退魔師をしてるって」

「ああ、ええっと。これ……神威君の家の電話番号よね」



 佐藤さんは、僕にスマホより小さい紙を見せてくる、その紙には『妖怪・怪異・祓います。0024-24-xxxx』と番号が書いてある。



「私ほら去年の時クラス委員長だったし、神威君が休みの時に電話よくかけてたし……」



 あー……とある事情で僕は学校を休みがちだ。そのせいで部活も入っていないし、部活も入りたくないのでその事情は大変うれしく思っていたんだけど。



「一応確認。このチラシえたの?」

「うん……電話ボックスに貼ってあったけど。あ、もしかして勝手に剥がしたら不味かった?」

「おじさんが言うには、許可なんて取ってないし魅えたのならいいかな」



 佐藤さんはちんぷんかんぷんそうな顔だ。

 この『チラシ』は普通の人、それも普通の状態の人は見えない。

 日常では考えられない事が起きている人しか見えないし触れない。



「で。家行っていいの? あの私自身もなんていうか説明が難しいし、変な事言ってるのは自覚していてね……」

「ああ、いいよ。僕も変人だし、直接家にくる? 日を改めてもいいけど」

「すぐに行っていいなら……」



 僕はポケットからスマホを取り出すと、タクシーを呼ぶ。その状況に佐藤さんは目を丸くしだした。



「ちょっと! そのお金ないわよ!? このチラシに相談無料! って!」

「だ、大丈夫。と、取らないし。それよりもあんまり近いとその!」



 見えるのだ。

 佐藤さんの人気ある部分の谷間が。

 佐藤さんは僕から離れて一歩後ろにさがると……。



「すけべ」



 と小さく舌を出し始めた。

 あーもう、たぶんご飯5杯はいける。



「…………じゃなかった。からは何も取らないよ。相談無料だし、一応取れる相手を見て取ってるし……」

「神威君の家ってなんなのよ……」

「まぁそういう仕事と思ってくれれば」



 学校の裏口に止めた車。

 黒塗りのリムジンと言う奴で佐藤さんが倒れそうになっているのを、背中を押して何とか乗せた。

 リムジンの中のはじっこ、広々としたリムジンなのに猫の様に端にいる佐藤さんに声をかける。



「で……」

「う、うん。生まれて初めて乗った」

「メリーゴーランドを?」

「いや違うわよ! そ、それより学校にバレるんじゃ、いやバレてるわよね」

「あー細かい事は気にしなくていいよ。本題に入りたいし」



 学校側は僕達の仕事を知ってるし詮索もしない。

 その条約が守られる限り僕も本家も好き勝手出来る。



「そ、そう。ええっとね。私がエレベーターに乗るんだけど、乗ると小さいメリーゴーランドが置いてあるのよ」

「……意味がわからないけど」

「私だって意味がわからないわよ!!」



 怒られた。



「もっと詳しく」

「最初は小さい輪っかぐらいの小さいメリーゴーランドの玩具。小さい子の忘れ物かなって思って触ろうとするとエレベーターが停電して……気づいたらないの。

 私も受験疲れかと思って、でも次の日学校に行くのに乗るとまたあるの。サイズは少しだけ大きくなって……」

「いい睡眠薬紹介しましょうか?」

「…………怒るわよ」



 リムジンの冷蔵庫からワイン……はまずいか。レモンスカッシュの缶を佐藤さんに渡した。

 佐藤さんは一度考えてからその缶を開け一口飲む。

 後で空き缶は貰っておこう、わんちゃん間接キスができるかもしれない。



「で……そのメリーゴーランドが段々大きくなって、もちろん病院にも行ったし薬も貰った。でも効かなくて……もうわけわかんないわよね。お母さんに心配はさせたくないし……その時、そのチラシを見かけたのよ」

「なるほど」



 佐藤さんの話が終わると僕の家へとついた。

 リムジンタクシーから降りて別宅へと行く、この時間は叔父さんがいるはずだ。



「ってか……不味い」

「え?」



 後ろにいる佐藤さんが小さい声をあげると、縁側に叔父さんが旅支度をしているのが見えたからだ。



「ちょ、叔父さん! お客、それとどこに行くの!?」

「ああ。総本山に呼ばれてな……悪いが仕事は無しだ」

「え! ちょっと神威君! どういう事よ!」

「なんだ、壮介そうすけ彼女か? ゴムは一番薄いのは棚の上にある、玩具は二番目だ」

「なっなっなっ! 神威君!!!!」



 佐藤さんの回し蹴りが僕のはらにきまる。

 僕は意識を保つのが精いっぱいでゆっくりと倒れた。

 佐藤さんのスカートが覗ける位置で。



 目が覚めると天井がみえる。

 佐藤さんが困った顔でおしぼりを僕のおでこに交換してくれている。



「き、気づいた!」

「そりゃまぁ……あれ、叔父さんは?」

「いっちゃった。あのほんっとうにごめん。冗談って言われるのが遅くて……相談した手前なのに……」

「ああ、いいよ。それよりもちゃんと相談出来た?」



 叔父さんの事だから話は聞いてあるに違いない。



「うん。バックを持って行けって」

「あーやっぱりか……まぁわかった。じゃぁ早速行こうか」

「え? も、もう!? それだけ?」



 それだけっても、それだけだ。

 僕は棚の引き出しをあけて玩具の奥にあるショルダーバックを手にする。



「さ、用意は出来た」

「冗談よね? あのお札とか、私のお祓いとか……」

「してもいいけど、別にこの場合は効果ないんじゃないかなぁ……」

「そうなの!?」

「たぶん」



 スマホからリムジンタクシーを呼んで移動する事にする。

 場所は佐藤さんが住んでいるマンションだ。

 エレベーターは誰か一緒の時は何もなく、一人の時にあるというのだ。

 最近は階段で11階まで往復しているらしく涙なしでは語られない。



「神威君。何か馬鹿にしてるでしょ?」

「ぜんぜん。それよりも」

「う。うん」



 時刻は20時すぎ、帰宅する人が多い時間にもかかわらず周りには人が誰もいなかった。

 佐藤さんがエレベーターのボタンを押すと、機械音が寂しくなる。


 扉が開くと、物理法則を無視したようにエレベーターの中にメリーゴーランドが回っていた。



「み、みえるよね!? 私嘘言ってないよね!?」

「見えるよ」



 さて……。



「何の呪いかは、とりあえず置いておいて」



 バックから僕はなたを出す。



「神威君!?」

「えっとどっちも動かないでね」



 エレベーターの中のメリーゴーランドがグルグル回りだすと世界がゆがんでくる。

 怪異の世界に巻き込む気だろう。



「でもまぁ。頂きます」



 僕は馬のメリーゴーランドの馬の部分を鉈で切る。黒目の馬が僕を見てくるが関係ない、端から順番に食べていった。

 全部食べきり、鉈をショルダーバックへと戻して腕時計を見ると、20時のままだ。



「終わったよ?」

「…………え。あの……ばけ……ご、ごめん!」

「あー別に言われ馴れてるし。ただ風潮すると総本山から狙われるかもだから人に言わない方がいいよ」



 僕は佐藤さんに手を降ってマンションから遠ざかった。

 これで僕の学校生活陰キャ生活は一段と上がったらしい。




 佐藤さんは結局数日休んだ後に学校へ来た。

 僕を見るとおびえたような目で避けていく、まぁそんなもんでしょ。

 授業の音がおわると、声がかかってくる。



「ねぇ……神威くん。メリーゴーランドのチケットあるんだけど……一緒にいかない? お礼も込めて」

「まじで!?」

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