第3話 諜報部員 (ビー玉・絶叫・名前)
俺は安酒のビンを一気に飲み干すと路地から外を見た。
灰色だな……。
視線をもどすと中央の噴水には、家を失った孤児や移民が肩を寄せ合っては生きるのに諦めた顔をしてる。
直ぐ近くでは軍服を着た男達が、孤児達を蹴っては遊ぶという悲惨な状況だ。
子供が転ぶと小さい宝石が転がりだす。
石畳みの上をころころと転がっては軍服の男が拾い上げた。
「かえして。かえして! お兄ちゃんの! お兄ちゃんからの大事なものなの!」
「なんだ。宝石かと思ったらビー玉かよ……まぁ何かの足しにならあ。貰っておくぞ」
軍服の男達が消えていくと、俺の目の前に、すなわち顔の前に白い手が現れて煙草を差し出してきた。
黙って口にくわえると、どこから出したのがマッチで火をつけてくれる。
「うめえな」
「シケモクよ……こんな場所で新品なんて手に入らないし」
「それでもうめえさ……」
「まわいいわ、仕事よ」
「そうか」
手はずは今夜。終わったら何時もの所に車を止めてるわ。と、小さくいうと俺の横にいた女はいなくなっていた。
灰色の空が月の光さえもない黒へと染まる。
ガス灯の光さえ消えかけた深夜、部屋の片隅で寝ている男の前に立つ。
悪いな。と一言いうと俺は引き金を引いた。
部屋の引き出しを開けて必要な書類を探し出す。
A国との裏帳簿というやつだ。
ふう、あった……これで戦争にまけたとしても我が国は無関係でいられる。
残った安酒を一気の飲んで続きを取りかかろうと思ったとき。ふと、引き出しにビー玉を見つけた。
俺はそのビー玉を手に取ると…………。
――
――――
――――――
仕事にとりかかってから四日後、俺は釈放された。
軍の牢屋からだされると、さっさといけ! と怒鳴られた。
街に入ると白い手が新品の煙草を目の前に差し出してきた。
顔を向けると、いつもの相棒がしかめっ面で俺を見つけると文句を言いだす。
「帰る途中に犬に見つかる? 普通」
「仕方がないだろ……情報に野犬はなかったぞ」
「でも酒に酔って軍舎に入り込んだって旨く逃げたわね……」
「おかげで、財布も取られるし、銃は捨てる羽目になるし、軍人達に裸踊りは見せなきゃならんし散々だ」
「あら、裸踊りは見たかったわね。所でお礼はないわけ?」
「ああ。助かった……あそこを爆破してくれたおかげて、遠くにいた俺がたすかったもんだってか最初からそうしてくれ」
「書類の破棄が最重要」
灰色の空が俺を迎えた。
街には相変わらず孤児がいて、難民がいる。
軍人が威張り、商人がへこへことしている。
噴水前に立つと俺は小さい女の子の前にたった。
「よう。お嬢さん。生きていればなんとかなるもんさ」
俺は小さい女の子に赤いビー玉を手渡すと、驚いている相棒をよそに歩き出す。
「お、おぢさん! あ、ありがとう。な、なまえ!」
名なんて別に名乗るほどでもないだろう。
だまって手を振ると人込みへと歩き出す。
俺の横に追いついた相棒が、俺の顔をみると黙ってニヤニヤしだした。気持ちの悪いやつだ。
「あら死神もいい所あるじゃない。あの時のビー玉よね」
「そうだな」
「あれ……でも、牢に捕まった時に書品検査ってしたのよね?」
「そうだな」
「え、じゃぁ……あのビー玉ってどこに隠していたの? 口の中とか」
「どこってそりゃ……女じゃあるまいし男にある穴っていったら一つだけだろ?」
「それっていやああああああああああああ」
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