第2話 月籠りの巫女 (月・鱗・友達)

 なぁ、肝試しをしようぜ。

 誰かかそう言うと、それもいいな、と声が聞こえた。


 俺はスマホを手探りで探して時間を確認する、午前2時を少し過ぎた所だった。

 正月の帰省で実家に帰って来て、部屋で飲んでいて寝ていたらしい。


 俺は起き上がると部屋の中を見る。

 友人三人が俺を見ては静かにあーだ、こうだとどこに行くかを話していた。



 だったらお月さんにいこうぜ。



 友人の一人が月見をしようと言ってきた。七不思議じゃなかったのかよ。

 あれ、お前しらないのか。旧校舎のお月さん、高校の七不思議だよ。と友人が言うので思わず「知らねーよ」と、返事する。



 それだけ言うと友人は俺を指さして笑い出す。

 癪に障る笑いであるが、友人というので我慢する。



「誰か運転するんだよ」



 友人三人が俺を指さすので、仕方が無くため息をだす。

 そうだよな、俺の実家だから俺しかいないか。


 一応親にコンビニに行ってくると言って車のキーをくるくると手の平で回した。

 俺が運転する車に友人3人が乗り、旧校舎へと車を走らせる。

 この辺は田舎でコンビニも少ない。

 数少ない街灯がさらに少なくなると木造の旧校舎が見えて来た。


 薄汚れた窓ガラスに俺の車のライトが反射する。

 適当な場所に車を止めて車内を見回した。



「で? ここからどうするのよ」



 友人達は何も考えてねえわ。と笑うので俺もつられて笑った。

 タバコに火をつけようか口にくわえ、灰皿に戻す。



「そういえば……いや…………」



 いやな事を思い出した。

 旧校舎のホームレス。

 俺が在学していた頃、旧校舎にホームレスが住み着いたと騒ぎになった事がある。

 当時俺と友人達は、夜中に忍び込みホームレスを見に行った。


 そのホームレスはホームレスじゃなかった。

 ただの家出した女の子だった。可愛い子で俺達を見てはおびえた顔をしていたのを思い出した。


 何で忘れていたんだろう。

 車の窓から夜空を見ると月が綺麗に光っていた。


 確かあの時もこんな月だったようなきがする。



 それであの女の子はどうなったっけ? 車の中に友人の一人が小さく喋った。



「家に帰ったんじゃねえの」



 俺は無理やりに口を開く……いや違う。俺達四人は女の子を追い込んだ。

 白い肌の手を引っ張り、無理やりに押し倒した。

 事が済むと、女の子は動かなくなっていたので俺も含め全員が無言になる。


 翌日に隣町の神社の娘が行方不明だ。という事で俺の所にも警察が来たのを思い出した。運が良かったのか直ぐに大きな震災が来てその話が無くなった事が救いだった。



「なぁ……見に行こうぜ。掘り返されてないよな」



 俺は車を出ると重たい足を引きずりながら旧校舎の裏手に回る。

 使われていない池があり、俺は動かなくなった女の子をそこに投げ捨て土をかぶせた。

 

 当時と変わらず使われてない貯水池がそこにあり生臭い匂いが鼻についた。

 水面は怪しげに光っていて今にも何かが出そうな雰囲気だった。



 待ってた。



 ふいに女の子の声が聞こえ振り返る。

 見た事ある服で女の子が立っていた。


 馬鹿な…………あの時と違い女の子は笑っている。

 月の光が彼女をてらし、俺は反射的に後ろに下がっていく。


 視界が急に濁った。

 手足の自由が聞かなくなり無造作につかむものを探す、ぬるりとした感触が俺の手に触ると何かをひっかく。


 掴んだのは鱗だ……。


 馬鹿な、あの時は魚なんていなかったはずだ。


 助けて。


 助けてくれ! そうだ、一緒にいた友人がっ!


 …………。


 ……………………。


 溺れるというのに俺の頭は冷静になっていく。

 友人? どうして実家で飲んでいたのに・・・・・・・・・友人なんて出てくるんだ? そもそもあの時も・・・・俺一人だったはずだ。


 それに、友人の顔が一人も思い出せない……。


 俺は水中に引っ張られながら水面の向こうに映る月を見ながら目をつぶった。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る