最終話 俺たちは異世界行っても変わらない!

「よっしゃ――――!!」


 蛇女を倒すと、魔物を生み出していた黒い渦もさーと消えていった。禍々しかった空も晴れ、東の空から朝日が顔を出していた。


 その気持ち景色の変化とともに、俺は叫んでいた。


「よォ――シャァ――――ッ!! これで姉さんに会えるッ!!」


 姉さんの元に帰れると思うと、幸せがこみあげてくる。ああ、今すぐに姉さんに会いたい。


「柾はどこまでいっても柾ね……でも、これで妖精さんたちを救えた! 柾、きっしょいシスコンだけど、やっぱり勇者だわ! おめでとっ!」

「柾は筋肉の王だ! みな称えよ!!」

「「ははぁ――――!!」」


 俺をディスりながらも褒めて拍手してくれるれんげ。

 勝手に俺を筋肉王に仕立て上げるていか。

 彼女に促され、土下座する半裸の男ども。


 ウザいけど、でも、嬉しさを感じた。いつも俺は尻拭いみたいなことをしていたしな。主人公みたいに戦えてよかったぜ。


「勝ったね、イブリース」

「当然だろう、我とシトウがいるのだから」

「それもそうだね。ありがとう、イブリース」

「こちらこそ」


 熱い友情を見せてくる魔王さんと紫藤。2人は俺たちとは違って和やかに話していた。


 一番危険そうな2人が一番ほっこりするのはなぜだろう…………不思議だな。


「マサキ様! お疲れ様です!」


 気づけば、姫さんがオレンジ色の髪を揺らしながら俺の所まで走ってきていた。彼女の顔に不安は消え去り、何もかも晴れたような笑顔があった。きっと一安心したのだろう。


「マサキ様、本当にありがとうございました………本当に………」


 しきりに感謝を述べる姫さんは俺の手をぎゅっと握りしめる。震える両手にポツリポツリと涙が落ちていた。


「………………」

「本当にありがとうございました………」


 そうだよな…………とっても不安だったんだろうな。


「よかったな、姫さん。これで何百年は安泰だな」

「はいっ……それもこれもマサキ様のおかげです」

「俺が全部じゃないだろ。あんたが引き留めなかったら、俺はとっくに元の世界に戻っていたぞ」

「それもそうですねっ………自分にも感謝しなくっちゃ………」


 また厄災が来た時には俺たちはいない。もし来られても正直れんげたちの相手でていいっぱいだから、2回目とかもうコリゴリだ。


 フラグになりそうなので、口にはしないが………本当に何にも起きないでほしい。平和な異世界でいてほしいよ。


 そうして、厄災退治を無事終えた俺たちは城へと戻った。約束通り、姫さんは俺たちが元の世界に戻れるように準備をしていた。召喚されたあの部屋には1つのドア。あのドアが元の世界に帰還できるゲートだという。


「皆様、こちらにはまたいらしてください。いつでも歓迎いたします」

「ああ、意外と面白い食材があったし、また来るよ」


 魔王さんの城で料理をさせてもらったが、持って帰りたくなるような食材が山ほどあった。見た目は禍々しくとも甘い味を持つ野菜、一見普通のお肉だが味付けをせずともスパイシーさを感じる巨大蝶の肉。


 食材をまとめるだけでも百科事典並みの厚さになりそうなぐらい、面白い食材で溢れていた。また来る時があれば、お菓子だけじゃなくって他の料理も作ってみたい。


「あー! バイバイぃ! 妖精ちゃんたち~! 絶対に会いに行くからね~! 1週間後ぐらいには行くよぉ~!」


 れんげは名残惜しそうに、でも元気に妖精たちに手を振る。かなり慕っていた妖精たちは目元をハンカチで拭きながら、手を振ってくれていた。小っちゃい手で一生懸命振っていて、なんか可愛い。


「お前たちッ! 私がいなくとも筋肉への祈りを忘れないのよッ!」

「「「ハッ、承知いたしましたッ! テイカ様ッ!!」」」


 筋肉女王ていかさんはというと、騎士たちに筋肉祈りを命じていた。男たちは軍隊のように敬礼。よほど彼女のことを敬愛していたのか、彼らの瞳には涙があった。


 筋肉の祈り…………気になるけど、熱弁されそうだから、あえて聞かないでおこう。


「コウセツ様、行かれるのですか?」

「いつでも帰れるのですよね? もう少し滞在いたしませんか?」


 もちろん香雪はお姉様方に囲まれていた。さすがに城に来ていることもあって、お姉様方はセクシー過ぎる服は着ていないが、それでも妖艶さは隠せない。ちゃんとした服を着れば、モデルとか女優とかと思われそうだな………。

 

 まぁ、あんなに清楚で可愛いドレスなのはそれもこれも香雪を魅了するためなんだろうけど………。


 残念ながら、香雪は女性にモテすぎるあまり女性に対する興味が薄い。むしろ男子と仲良くなりたがっているところもあるが………学校ではお察しの通り少しだけ距離を置かれている。


 全員彼女を取られまいとしている男が多いこと多いこと。でも、彼らが警戒する理由は分からなくはない………何度も修羅場を見た俺なら分かる。


「コウセツ様! ここにいてくださいよ!」

「お願いです!」


 お姉様方は香雪を引き留めようと、彼に詰め寄り異世界への滞在に誘う。一方、香雪は彼女たちに圧倒され、少し後ずさり。でも、必死に彼女たちの気持ちを受け止めようとしていた。優しい男だ。


「私たち、いくらでもコウセツ様のためなら歓迎いたしますわ。美味しい食べ物も快適に暮らせる住まいもご用意いたします」

「それは申し訳ないよ」

「いいえ。そのぐらいしたいのです。コウセツ様にはたくさんのものをいただきましたから」

「…………やっぱりいてほしい?」

「「「はい」」」


 香雪の問いに、声を揃えて返事をする女子たち。香雪に向ける瞳はそれはもう恋する乙女のごとく輝いていた。こうしてみると、もう洗脳のようなものを感じる。

 

 さすが花王姉弟。誰かを魅了する力は2人揃ってあるわけだ。


 面倒くさそうなので黙って様子を見ていると、服の袖をくいっくいっと引かれる。隣を見れば、香雪が服を引っ張っていた。


「ねぇ、柾。もう少しここにいない? みんないてほしいそうだし……」

「そうは行っても、俺たち学校があるんだぞ? 姉さんの結婚式もあるんだお前1人で残れと言いたいところだが………」


 お前1人にしたら、れんげ同様どうなるか分からない。魔法がある世界に入れば、本当に世界の果て……いや宇宙の果てまで行くかもしれない。


 そうなったら、俺は花王家ママになんと説明したらいいか分からない。というか説明したところで冗談だと思われるのがオチだ。


「ともかく帰るぞ。あの子たちには『また来る』とか言っておけばいいだろ」

「そっか……また来れるんだもんね。別に永遠の別れじゃないもんね」


 1人納得すると、香雪は女たちと向き直し、頭を下げた。


「ごめん、僕向こうの世界での生活があるから、帰らないといけないんだ」

「………………」

「ああ、そんな悲しそうな顔をしないで。永遠に会えないわけではないから。絶対に来るから」


 女たちは大泣きしていたが、「コウセツ様がお帰りになる日をお待ちしております!!」「コウセツ様が永遠にここで暮らせるようにお金を稼いできますね!」と叫んでいた。


 筋肉オタクていかとは違ったガチオタを見た気がする………。


「イブリース、次僕が帰ってきたら、一緒に大陸制覇しようね」

「うむ。万全の準備をしておこう。待っているぞ」

「ありがとう!」


 魔王さんと紫藤の2人は相変わらず穏やかな雰囲気でトンデモ約束をしていた。世界征服の前に大陸制覇とは……紫藤はそういうところはちゃっかりしてやがる。


「今までありがとうございました、マサキ様」


 そして、最後に俺はドアの近くで待っていた姫さんに向き合う。戦い直後のような涙はなく、穏やかな微笑みがあった。一国の姫らしい威厳さも感じる。これが本来の彼女なのだろう。


「また何かあった時にはお呼びするかもしれません」

「いや、もう呼ぶな。どうか他の人を呼んでくれ」

「そうもいきません。マサキ様は今回の厄災退治で実績を残されましたので、国民の皆様がマサキ様をご希望すると思いますよ」


 確かに厄災退治の帰りはパレード状態で、完全に名前を覚えられたしな。


「………じゃあ、その時は姉さんも一緒に呼んでくれ。そうすれば、全力出すよ」

「では次回はそうさせていただきますね」


 俺たちが帰る手段として転移魔法がかけられたドアを用意されているが、どうやら元の世界にも……というか俺の部屋にこのドアが用意されているらしい。いつでも来れるようにと準備してくれたようだ。


 こんなに軽い足取りで行けるのはそれはそれで心配だが、通りに抜けれるのは俺とれんげ、ていか、香雪、紫藤だけ。その他の人間が通ってもただドアを通り抜けるだけらしい。全くよくできた代物だ。


「まぁ、姫さんも頑張りすぎんなよ」


 これまで見てて思ったこと。それは姫さんが必死に頑張っていたこと。魔王城ではぐーたらな生活を送っていたが、それまでの調整は彼女がしてくれた。俺たちが動きやすいように、過ごしやすいように。


 でも、これで問題も消えたことだし、のびのびとしてほしい。


「はい……これから好きなことに没頭しようと思います!」

「ああ、それがいいな!」


 姫さんと握手を交わし、俺はドアへと向かう。ドアの向こうは宇宙の光のような奇妙な光景。でも不思議と温かさを感じた。


「では皆様お元気で!」

「ああ、あんたらもな!」

「みんな、じゃあね――!!」

「筋肉ゥ――――!!」

「次は世界征服しようね、イブリース」

「お姉さんたちまた遊ぼうね~」


 俺たちは見送ってくれる人たちに手を振りながら、ドアに入り光に包まれ歩いていくと、また違うドアが見えてきた。そこを開くと広がっていたのは俺の部屋。転移した時と何にも変わらないまま。


 そうして、俺たちは元の世界に戻り、俺の部屋で座り込んで一息ついていた。


「うーん、こうして思うと夢を見てたみたいだったな………」

「うぅ……妖精さん………会いたいよ………」

「筋肉ゥ……ああ、ジムに行けばいいのか………」

「夢みたいだったけど、現実だったんだねぇ~」

「うん。たまに異世界に行くのはありだね」


 夢のような出来事に一時呆然としていたが………。


「ま、柾………」

「あ、母さん」

「柾ママ、お邪魔してまーす」

「あら、れんげちゃんたちまで………」


 1ヶ月近く家に居なかった俺たちのことを親はさすがに心配しており、物音がした俺の部屋にドドッと入ってきた。どうやら行方不明届も出していたらしい。


 どうしようかと悩んだ俺たちは、『香雪を探しに出かけたけど、ていかがマフィアと1人抗争し始めて、事をなんとか収めていた』と説明。親たちには「またか~」といつも通りの反応が返ってきた。


 ………そう。俺たちの親は子どもがやらかしすぎて、色々とバグっている。おかげで今回は異世界のことを話さずに済んだ。


 そこから、俺は姉さんへのウェディングケーキを作った。以前よりも技術が上がり、手際よく美しい仕上がりで、時間にも間に合った。


「姉さん、俺から姉さんを奪った男の人、結婚おめでとう」

「ありがとう、柾」

「あ、ありがとう、柾くん………」


 結婚式で自分の身長以上もある愛のこもったウェディングケーキを渡すと、姉さんはこれまでにない笑顔を見せて喜んでくれた。ああ、天使、女神………俺、これで百万年は長生きできるよ………。


 でも、なぜか姉さんの結婚相手は青い顔をしていた。緊張でどうにかしているのだろうか。ああ、分かるよ。姉さんの隣に立つと緊張するだろうよ………俺はしないけど。


 姉さんの女神のような美しい姿に涙が収まらなくなり、冷静になろうと外へ出る。すると、そこには………。


「真弓さん、めちゃくちゃ喜んでたね! グッジョブ柾!」

「シスコン卒業おめでとう……ぱちぱち」

「おめでとう? パチパチ~」

「これでやっと真弓さんから離れられるじゃん。大人になったよ、柾は」


 といつものウザ幼馴染がいた。でも、今日に限っては。


「みんな、ありがとう。これで姉さんから卒業できる………できたはずだ……たぶん………」

「たぶんって」


 どこか安心できた。ああ、これまでに4人にほっとすることなんてあっただろうか………毎日思えるようにしたいな………。


 ふと顔を上げると窓から見えた姉さんの笑顔。それは誰よりも愛らしく輝いていた。


「………ああ、俺まだ卒業できないな………」

「「「「えっ」」」」


 うん………………やっぱりできない。

 姉さんのことを忘れられない。

 姉さんと離れる? いや、無理無理無理無理。


 無理だよ、そんなの。


「姉さんから離れたくない………」

「「「うわぁ………」」」


 絶句する3人と微笑む香雪。みんなの反応など、もうどうでもよかった。


 異世界ものの小説の主人公の多くが、異世界に行った途端信じられないように成長し始める。別人のように人が変わる。それは己を見つめ直す環境に変化したからであり、新たな刺激を得たからであり、成長していった結果だ。


 彼らはどんな形であれ成長していく。チートを得た者はさらに上を目指し、己の夢を叶える。


 だが、俺たちはそうじゃない。チートらしいチートは………れんげにはあったが、他の人間にはなかった。というか異世界への渇望などなかった。


 転移先の世界が滅びかけようが、どうなろうがありのままを突き通すそれが俺たち。

 成長? いやいや、それはしたい人がすればいいさ。今回は強制的に特訓せざるを得なかったが、それもこれも――――――姉さんのため。姉さん以外に俺を動かす権利はない。


 れんげたちも同様自分たちの欲望のために異世界を満喫していた。

 結局俺たちは元の世界と何ら変わらなかった。


「姉さんを諦め切れないのなら………ああ、俺は姉さんの旦那さんも愛そう! その子どももひ孫も! よぉ―――しッ!!」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って、それはさすがにマズいわっ! さすがの私も止めちゃうわっ!」

「柾、ホント色々痛い………」

「あははっ、次は柾が暴走しちゃったね」

「結局、ボクが一番大人ってことかな」

「うぉ――――!! さっきは酷いこと言ってごめん! 姉さんの旦那さん! いや、兄さん!」


 これからもきっと天然幼馴染のせいで海外に行くことになろうが、アホ幼馴染のせいで異世界に行くことになろうが、俺たちはどこに行っても己を突き通す!


「俺、2人の家政婦になるよ――――!!」


 ――――――そう。

 俺たちは!! 異世界に行っても変わらないんだッ!!






          おわり





 ――――――



 「俺たちは異世界行っても変わらない!」を最後までお読みいただきありがとうございました!


 この作品、半分ノリで書いたもので、自分は久しぶりにかっこいいバトルなしで楽しく書かせていただきました!


 久しぶりの男子主人公ということもあり、果たして面白く仕上がるかどうかと思っていたのですが、杞憂だったようです!


 正直全然流行りに全く持って乗っかっていない作品ですが、読者の皆様が「ぷぷぷ」と少しでも笑っていただけたのであれば嬉しい限りです(*^▽^*)


 個人的に今回の推しはていかちゃんでしょうか? 

 猪突猛進筋肉キャラ、最高ですねっ!


 最後に…………。

 この作品を見つけて、尚且つ読んでくださりありがとうございました! 

 また、ちょくちょくギャグものも書いていきますので、今後ともよろしくお願いいたしますっ!


 ではっ! またどこかでお会いいたしましょうっ! ごきげんよう~!(^^)/

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【完結済み】 俺たちは異世界行っても変わらない! せんぽー @senpo

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