第12話 結局4人をまとめるのはシスコン主人公です
「人間にしてはやるじゃない…………さすがの私も堪えたわ………」
「………………その強がり、止めたらどうだ? みっともないぞ」
血で汚れた口を拭いながら、俺たちを睨む女。俺たちにコテンパンにされた彼女は随分と傷だらけの姿だった。
でも、こっちも全力を出したというのに、倒れないとは………なかなかタフなやつなのでは?
今までの魔物とは違う様子に、警戒を高め、次の攻撃に入ろうとしたのだが。
「あらぁ、イケメンがいるじゃなぁい。私好みだわ」
ボロボロで小鹿のように足を震わせていた女は香雪を見ながら、頬を染める。瞳も潤んでおり、どう見ても恋に落ちた目。即落ちだった。
「イケメンさん? 誰のこと言ってるんだろう………?」
あざとい発言をかます香雪。女はどうやら香雪のことはお好みだったようだ…………はぁ、なんだよ、コイツ。どこに行っても、誰にでもモテるじゃないか。
「そこのイケメンさん。なんでそのブサイクに鎖を繋がれてるの?」
「鎖………ああ、僕のこと? 鎖は僕が迷子にならないためだよ」
「なるほど…………分かったわ。2人でそういうプレイをしてるのね」
「プレイじゃねぇわ、ババァ」
俺とコイツで変態趣味をするわけないだろ。
「ハアァ? 誰がババアですって?」
「てめぇだよ」
てめぇ以外の誰がいる? 魔王さん以外のやつはみんな10代。ここでの一番年上は40代はいってそうなあの女だろう。
すると、褐色女はダンっと足踏み。地面が割れた。
「ババァなんかじゃないわよッ! 私はまだ8歳よォ――――!!」
「はぁ?」
あの熟女みたいな女が? 紫藤よりも年下の8歳だと?
「嘘つくのにもつき方があるだろ? ババァが小学生とか痛すぎな? せめて18歳ですっ!ぐらいにしてくれよ」
「なめやがって人間がァ――――ッ!!」
耳を塞ぎたくなるほど叫ぶ女。圧倒的オーラが放たれ、ドンッと衝撃に襲われる。さらに地面にひびが入り、溝が大きくなっていく。
「今のは柾が悪いよ。女性はみんな『ババァ』なんて呼ばれたら怒るに決まってるよ」
「俺だって、アイツに『ブサイク』なんて言われたわ! おあいこだろッ!」
煽ったのは俺だけど、いやあいつがブサイクなんて言うからいけないんだけどさ。
「いいわァ!! そこのイケメン以外、みんな滅ぼしてあげるッ!!」
れんげと言い合いをしている最中に、女の足元から無数に生える蛇の頭。蛇の体が四方八方に伸び、女の身長はずんずん高くなっていく。蛇の頭が触手に見え、タコのような姿だった。
イケメン以外って………お気に入り香雪は残すのか。貪欲なこと。
「ぶっ殺す――――ッ!!」
うーん。でも、これ俺倒せるか?
頭の数なんか見えるだけでも多いし、1人での対処は絶対無理だな。
最終形態に入った女への次の攻撃を考えていると、香雪が1人前に出て歩き出していた。
…………アイツ、どこに行くつもりだ?
迷いなく香雪は褐色女に向かって真っすぐ歩き出す。首輪をつけているため、歩ける距離には限界があり、鎖が伸びるギリギリのところまで進むと足を止めた。
剣は腰にしまい、何もない右手を敵に伸ばしている…………一体何をするつもりなんだ?
「ねぇ、お姉さん。君の名前なんて言うの?」
「え?」
あ、分かったぞ。
あいつ、また口説こうとしてるな。
「あなたの名前、僕は知りたいな」
「…………私の名前なんか知らなくってもいいでしょ」
「ちゃんとあなたの名前を呼びたいんだ」
香雪が爽やか笑顔で言うと、分かりやすくぽっと頬を染める女。
「わ、私の名前はメデュ。メデュ・カラヴァッジオよ…………」
「教えてくれてありがとう、メデュ。素敵な名前だね」
「っ………!!」
こ、こいつ、本当にどこでも口説くな…………ホストでもやらせれば、営業成績No.1になれるだろ。学校では俺が付いていなければ、こういうやり取りがとめどなくされる。
本人は恋愛のれの字の気もないのに、こんな口説かれ方をされれば、相手は勘違いするのは当たり前。無自覚だかこそ、質が悪い。
ま、今回はその香雪の長所を利用させてもらうが――――。
「紫藤! やっちまえっ!」
「はーい。行くよ――――」
背後で準備させていた紫藤。のほほんとした応答をした彼が構えていたのは自分の体よりも長い対物ライフル。先端がきらりと光っていた。
ドガッ――――!!
トリガーが引かれると、ライフルからミサイルが放たれ、メデュに落ちて爆発。衝撃が襲い、直後爆発音が響く。耳が痛くなりそうだった。
さらに追い打ちをかけるように、イブリースが魔法で地面に爆発を起こしていく。環境破壊も同然の攻撃だった。
「うわぁ、綺麗な花火が上がったね、イブリース」
「ああ、見事だ、紫藤」
「イブリースのもすごかったよ。あれでいっぱいクレーター作れそうだね」
「紫藤のライフルもクレーター作りには最良だろう。今回の攻撃は素晴らしかった」
紫藤に優雅に拍手を送る魔王さん。全力ではないところがまた怖いこいつらが味方でよかった…………。
「クソッ!! あんたたちッ!! やってくれたわねェッ!!」
しかし、魔王さんと紫藤の攻撃を受けても女は倒れず、3つの頭を焼いただけ。残りの他の頭を四方八方に伸ばし、暴れ回って地面を割っていた。
魔王さんの攻撃でも1本か。行けるか、これ。
「筋肉こそが!」
「「「我々の神!」」」
「女よ! 我々に筋肉を見せよッ――――!! オ゛リャオ゛リャ―――ッ!!」
またわけわからぬこと叫んでる筋肉バカがいる。筋肉宗教ていか御一行は狂ったことを叫んでいるわりには、紫藤と同レベの攻撃を入れていた。
次々と拳で蛇の頭をぐしゃぐしゃに…………うわぁ、グロい…………。
「あなた、メデューサね! あなたの戦法は分かってるわ! 目を潰してあげる!」
浄化が使えないと分かったれんげは次の戦法――目潰しにかかっていた。どうやらギリシャ神話に登場するあの怪物と勘違いして、見たものを石に変えられると思っているらしい。
名前も似ていることもあって、れんげは大きく誤解。目つぶしを実行した。
「ア゛アァ――――ッ!! 何をす゛る゛――――ッ!! 金髪女ァ!!」
「やった!! 氷の塊が目に当たったわ!」
でも、あいつは石に変える力はない気がする。あるんだったら、最初から使ってるだろうし…………可哀そうに、メデュ。
触手を木刀で対処しながら、俺はメデュに近づいていく。
ここで決着はつけた方がいい――――俺は直感的に判断していた。長期になればなるほど、こちらの疲労も大きくなる。対応できる気がしない。一方、メデュの回復方法も分かっていない。
「メデュ…………お前が何百年ごとに厄災を起こしてるのか?」
「ああ! そうだとも! ようやく恐れをなしたか! 小僧! 我は黒の厄災の管理者メデュだァ! 全く! 舐めたことをするんじゃないわよォ――――!! 特にそこの金髪女ァ!!」
「えっ、私っ!?」
まぁ、目つぶしは普通に嫌だもんな。
痛いし、視界も奪われるし、そこは同情するよ。
「でも、そうか………お前は誰かに不幸をバラまくのが好きなんだな」
「ああ!! そうだとも!! それが我らにとっての幸福だからな」
あんたたちはそういう感覚なのか。誰かの幸福を奪うことは………。
誰かの幸せを奪おうとする者、それは姉さんが敵だと判断する相手だ。
「ああ…………ここで俺は倒さないと――――」
倒せなければ、姉さんに会えない。
堂々と帰れない。
結婚式前になさけない弟の姿は見せられない。
俺の足は気づけば怪物メデュに向かって走り出していた。木刀を握りしめて―――。
「ハァ――――ッ!!!!!」
ただの木刀が光り出す。全身の魔力が手に集まっていく。その流れは心地よく、足も自然と軽くなっていた。
俺と一緒に走り出す香雪。珍しく全力で俺についてきていた。
「香雪! お前なんで!?」
「僕、柾についていかないとひこずられるからね!」
「あ」
そうだった。香雪の鎖を持ちっぱなしだった。
「姫さん! この鎖、よろしく!」
「は、はいっ!」
香雪の鎖を後ろに投げ、姫さんに渡す。姫さんはダッシュで走り転びそうになりながらも、鎖を掴んだ。
そして、香雪は俺の前に立ち、両手を重ねて腰を落とし、俺にジャンプをさせる態勢につく。
「最後は任せたよ、柾」
「おうっ!!」
俺は香雪の手を踏み台にして、大きくジャンプ。メデュよりも空高く飛んでいた。
「「「「やれぇ――――ッ!! 柾ィ――――ッ!!」」」
下かられんげたちの叫び声が響く。よく聴こえていた。
れんげがやらかした後に片づけをするのはいつだって俺。
ていかがマフィアと抗争を始めた時に収めるのはいつだって俺。
香雪が修羅場的状況を作り出した時に女性陣を説得するのは俺。
紫藤が石油王と仕事について計画し始めた時に回収するのは俺。
4人それぞれの親に面倒を任されてしまうのはいつだって俺。
「結局、最後にまとめるのは俺ってことなんだよなァ――――ッ!!」
保護者的立場が多い俺だが、こうして最後に終わらせるのは自分。
「「「「いけぇ――――!!」」」」
その時は4人から信頼してもらって、背中を押してもらえる。それは向こうの世界だろうと、異世界だろうとそれは変わらない。
「ハアァ――――ッ!!」
木刀を両手で構え大きく振りかぶる。落下地点にはメデュの本体。彼女の白い瞳孔に俺と月が写っていた。
頭を俺に向かって伸ばすが、魔王さんを含む4人で倒していく。みんなが道を作ってくれる。
「これでェ!! くたばれェ――――!!」
「クソガァア゛アァ――――ッ!!」
風を切り、振り下ろした木刀の先が頭に切り込む。強化しまくった木刀は綺麗に入り、メデュの体を一刀両断。血が吹き散り、剣とともに俺の体も地面へと落ちていく。
――――ああ、姉さんへ。
俺は姉さんの弟として、勇者として頑張ったよ。
今から帰って最高のケーキ作るから、楽しみにしていてくれ――――。
――――――
次回で最終回です! よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます