第11話 ごきげんよう、厄災さん
魔王城でトレーニングを開始した俺たちは、魔王さんの指導の元特訓に励んだ。俺は剣術と魔法の基礎訓練をしつつ、魔王さんと実践試合。その合間で姉さんのウェディングケーキ試作。
一方、れんげは婦人会並みにペチャクチャしゃべる妖精に教えてもらいながら、聖女の魔法の練習。ていかは雄叫びを上げながら連れてきた騎士のたまごとともに筋トレ、そして弓の練習。香雪は魔王の部下(女)と短剣の訓練。
そして、紫藤は俺の試合に付き合ってくれた。
「うぉおぃ!! 今、ガチで首やろうとしただろ!」
「あはは! このくらい避けて貰わないとね~」
まぁ、魔王さんとは違って、可愛いショタ顔で本気で俺を殺しにかかる。あいつの笑顔、何かと怖いんだよな…………小学生のくせに。
残った姫さんはというと、最初こそ魔王城の滞在にうんざりしていた。が、俺が合間に作ったウェディングケーキの試作品を食べると「次の作品、とっても楽しみにしております」とか「早く特訓を終わらせてください。ケーキが食べたいです」とか言い始めていた。勝手すぎる。
それもまぁ姫さんがリラックスしつつあるのだろうと思う。
これまでに彼女があんまりわがままを言うことはなかったので、驚きはしたものの作ったものを食べてくれるのは普通に嬉しい、感想は参考になる。
姫さん、ずっと我慢でもいていたんだろうな…………お疲れさん。
俺が作る度に毎回食べていたので、少し太ったような気がしたが、そこは黙っておくことにした。最高のケーキができるまで食べていてほしいし。
――――そうして、それぞれトレーニングをすること3週間後。
王国の南の森で厄災は出現した。
禍々しい紫の竜巻。そこから、あふれ出てくる魔物たち。
話には聞いていたが、結構迫力あるな…………。
俺、れんげ、ていか、香雪、紫藤、姫さん、魔王さん、その他多数の兵士とていかの部下たちで、厄災を目の前に準備していた。
「あの竜巻の中央から魔物たちが出現しております。それらがおさまるまで、戦っていただきます」
「どのくらい時間がかかりそう?」
「短ければ1日長ければ1週間ほど」
「1週間って…………俺らが先に死にそ」
「そこは交代でお願いします」
ま、そうだよな。
木刀の俺はアタッカーで、魔法をメインとするれんげはサポーター。自前のメリケンサックのていかも俺と同じくアタッカー。
紫藤はアタッカーにもなれるが、他のメンツ的にサポーターに回った方がいいだろう。香雪はれんげが持っていた戦隊ものの短剣×2。もちろん、魔法付与あり。ていかは遠距離の攻撃もしたいということで、追加でガチもんのアーチェリーを使うことになっている。
アタッカーを分けたいから………前半は俺とれんげでやって、後半は残りの3人。そのサイクルを回すのが理想的だろう。正直に言えば三交代制がいいが、誰かは1人になってしまう。それはさすがにできない。
そう言った計画はあるものの、今回は短期決戦で決めれるか、それとも1週間の戦になるか見極めるためにとりあえず全員で戦う。
「それで厄災の原因ってなに? 原因が分かれば、俺たちはそこを潰しに行くけど」
1分1秒でも無駄にしたくない。俺の時間は姉さんのために使いたい。だからこそ、厄災退治を早く終わらせたい。できれば、厄災が起きる原因を知りたかったのだが………。
「原因は不明なんです………ただあの渦から魔物が現れ、時に私たちでは対応できない魔族の者が現れるんです」
「つまりこれまでにやってきた厄災退治は厄災を凌いでいただけ?」
「はい………記録に残っているものは少なくとも………」
姫さんの瞳に映る厄災の渦。その目は不安で溢れていた。
「ま、大丈夫だ。姫さん」
ポンと俺が彼女の肩に手を置くと、顔を向ける姫さん。瞳はハイライトを取り戻し、緊張で上がっていた肩は徐々に落ちていった。
俺は厄災に勝って、国を守る。そんでもって、姉さんに褒めてもらう!
「魔王さん、あの魔物はおたくのと同じ感じ?」
「いや、全くの別物だ。あれをこの世界に生き物と捉えるべきではないだろう」
「ふーん」
普段は余裕そうにしていた魔王さんの顔がいつになく真剣。彼の背中から圧倒的なオーラを感じる。これが魔王というものなのか。
「ま、倒せばいいんだもんな――――れんげ!」
「はいはーい! ついにアタシの出番なのね!」
れんげは待ってましたと言わんばかりに、魔法ステッキを振って答える。
「魔物が現れた時は、大聖女のアタシが全部浄化しちゃえばいいのよねッ! プルガーティオ――――ッ!!」
渦巻きを周辺を光り始め、ドンドンっと光の柱が空へと伸びていく。浄化の光にやられた魔物たちは天国に召していくように、風に乗って空へと消えていった。
「よしっ!」
「すげぇな、お前」
「でしょっ!」
得意げに笑うれんげ。
………ああ、何年ぶりだろう。
コイツを凄いと思ってしまった。
これで全部魔物は消えた。別に俺たちいなくてもよかったな………れんげだけでよかったかも。ま、無事に、かつ最短で終わるのならそれでよし。
そうして、そのまま王城に戻り元の世界へと帰ろうとしたのだが…………。
「あれ、渦は消えていませんね」
「ん? ほんとだな………」
「えー? 何で? アタシ、あの渦消すつもりでやったのにー」
魔物たちは綺麗さっぱり消えたが、あの紫の渦巻きだけが残っていた。勢いは先ほど変わらず強風を巻き起こしながら、闇の渦を作っていた。
れんげの浄化でも消えないってなったら、どうやって消せばいいんだ?
風でぶっ飛ばす? それとも渦の中央にあるかもしれない原因を取り除く?
どうしようか悩んでいると。
「――――は?」
渦の中央からだった。にょきっと腕が伸びた。黒い肌の腕が伸び、這い上がるように渦の名から女が現れた。
「話と違うわねぇ」
竜巻の中から現れた1人の女。褐色肌の彼女は不満げに溜息とともにこぼす。周囲をキョロキョロと見渡し、俺らを見つけるとにたぁと笑った。白目が黒い、逆に瞳孔は白く丸が何個も書かれている不思議な紋様……奇妙な瞳だった。
人間が出てくるって聞いていないのだが…………でも、これって…………。
「れんげ、これ、いつものパターンだよな」
「いつものぱたーん?」
「ああ、ゲームとかラノベとかでよくある展開だ」
敵を全部倒したかと思ったら、真のラスボスが現れる的なパターン。
「れんげ、これ俺たちが全ての敵を排除したと思ったから、フラグが立っちまったんだ。お決まりのパターンだよ」
「お決まりパターン……なるほど! あの女がラスボスってわけね!」
「ああ」
こういう時の理解が早いのはいいところだよな。いつもこんなふうにいてほしいんだが。
あの女がラスボスと決まれば、全力で倒すのみ。
「よぉし! フラグはすでに立った! 総員、全力でかかれ!」
「え? あ、待って。アタシまだ何にも言ってな――――」
「俺たちはァ――――ッ!! 定時で帰るんだァ――――ッ!」
「「「「オォ――――!!」」」」
そうして、俺たちはラスボス女の声をガン無視スルーして、一斉に攻撃を始めた。
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