第7話 天然イケメンは自然とハーレムを作るようです(憎)
「香雪がいるのはきっとここよ! 間違いないわ!」
「いや、間違いだらけだろ」
俺たちはれんげの鼻を頼りにしながら、向かった先。それは地下の繁華街。上の城下町とは待った違った雰囲気でがやがやしているその喧噪が心地よかった。
うん、それだけなら良かったよ。地下にこんな商店街があるのかと感心してたさ。
普通に飲み屋が立ち並ぶ賑やかな通りで、大阪梅田を思い出す雰囲気があった。ただちょっと道を逸れただけで、雰囲気が一気に変わった。
前を進むれんげについていくと妙にいかがわしい店が並ぶ通りへと連れて行かれる。真っ昼間なのに、そこは妙に暗くネオンが煌々と光っていた。
「いいえ、絶対ここよ! 香雪の臭いがするもの!」
「………………」
そうして、れんげが立ち止まり、指し示した場所はがっつり風俗店。『あなたの癒しの楽園』というドピンク看板がある。嫌な予感しかない。
「ほんとここに香雪がいるとか………はぁ………どういう経緯でこんな奥地の風俗店に来られるんだよ。いや、あいつだからこそありえるのか………」
あいつは「新宿に行く」って言ったのにシンガポールにいるようなやつ。「え? ここ新宿じゃないの?」とか言ってるやつ。
方向音痴だからこそ、香雪がここにいるのは十分にありえる。当たらないことを祈りたいけれど。
はぁ、女子と風俗店に行くとか、嫌すぎるけど…………仕方ない。あいつをさっさと回収してすぐに立ち去ろう。
深い溜息をつく俺に対し、隣のれんげはなぜか瞳を輝かせていた。
「ねぇ、柾! なんかここワクワクしない!?」
「しねぇよ」
「えー、男子のくせいに。本当は気になって仕方がないんでしょ?」
「………………」
「あ、やっぱり気になるのね」
「気にならなねぇよ」
「私は気になる。どんな筋肉持ちの
「………………全くお前はブレねぇな」
俺と姫さんが外で待って、れんげとていかに香雪の回収を任せる。本当はそうしたい。全部任せたい。だが、果たしてこいつらが目的を忘れずに香雪と一緒に戻ってこられるだろうか?
………………否、絶対無理。
さっきから鼻息荒げているていかはすでに筋肉のことで頭がいっぱい。忘れないはずがない。れんげは目的を忘れない可能性はゼロではないが、お姉さんたちに手のひらに転がらされて、暴走し始めるかもしれない。
姫さんと3人で行かせてもいいが………姫さんが2人を制御できるかと言ったら、困難に等しい。よって、俺も同行。はぁ。
別に俺は風俗で何をしているかなんて一ミリも気にしていない。安心してくれ、俺の魂は姉さんが全てだから。
「たのもー!」
れんげが店前で叫ぶと、2人の女性が現れた。
「えー! 女子のお客さんが来ちゃったよ」
「えー、バリかわじゃーん」
「あらぁ? 姫殿下までいらっしゃるわぁ。マーガレット殿下も来ることがあるのね」
どうやら女の客が来るとは思っていなかったためか、2人の女性はれんげ、ていか、姫さんを見るなり、黄色い声を上げる。
「それでそっちの坊やは私たちと仲良くしにきたの?」
「いえ。連れを探しに来たんです。香雪っていう男いますか?」
「コウセツ様? いるけど」
「そいつここに連れてきてらもらえませんか。用事がありまして」
「………………ダメ」
え、なんで?
「ダメって言われても、俺の連れで今から厄災退治に行かないといけないんです」
「それでもダメ」
「コウセツは渡さない」
女性の目つきが徐々に鋭くなっていく。なぜ俺を睨む。目的はちゃんと伝えたよな? 厄災に対処できなかったら、おたくら死ぬかもしれないのに………。
これは絶対香雪のせい。2人に何を植え付けたんだ? また無意識に口説いたのか?
と推測を巡らせていると、店の奥からまた1人の女が現れた。彼女は他の2人とは異なり、パンツスーツ姿。上司とかだろうか。
「なんだか騒がしいが、どうした」
「それが香雪を渡せってこの男が言って来て………」
パンツスーツ女は俺たちを見る。眼光は鋭く刺すように痛い。しかし、その視線はさっーと俺を通りすぎ、横にいた姫さんを捕えていた。
「姫殿下、なぜあなたがここに?」
「用事がありまして。コウセツ様を引き渡していただけませんか? 彼に協力を要請したいのです」
「………申し訳ございません。姫殿下がいらっしゃったとしても、コウセツ様は引き渡せません。お許しください」
「ふざけんなっ! 香雪を返せよ! あいつはなんだかんだ必要になるんだよ! たぶん!」
「そうよ! 香雪がいないと、柾が死んじゃうわ! たぶん!」
「黙れ! 男! 何を言おうとコウセツ様は渡さん! 捨てたくせに、未練がましい!」
「捨てる? 俺、香雪を捨てた覚えないだが!」
「呼び捨てにするな! 失せろ!」
うーん。これ以上何を言っても香雪は出してくれなさそうだな………仕方ない。あの手段を使うしかない。
「よし、ていか! お前の出番だ! あの奥にはモリモリ筋肉マッチョな女がいるぞ! いけ!」
「うぉ――――!! 筋肉!!」
目を光らせ、ていかは障害となっていた3人の女を吹き飛ばし、店の中へ猛ダッシュ。俺たちも追いかけ、店に侵入。
「なんだ、これ………」
幸いにも待合室に男の客はいなかった。
その代わり、プライベートゾーンが見えるか見えないかのギリギリを攻めるセクシーな服装のお姉さんがたくさんいた。10人以上はいる。その真ん中には探していたやつがいた。
「あ、柾~。柾も来てくれたんだね」
「…………香雪、説明してくれ。なんで風俗店にいる?」
この店は風俗店といってもキャバクラとかではない。女どもの服を見ての通り、ソープランドの部類。
香雪はこの店について全然分かっていないんだろうな………認識があってもキャバクラレベル。そういうことをする場所とは思っていないだろう。
「なぜか来ていたんだよね~」
「『来ていたんだよね~』……じゃねえわッ! お前はまだ未成年だろっ!」
「お酒は飲んでないよ?」
「………はぁ、俺は酒のことを言ってるわけじゃなねぇんだよ………」
ここは酒以上に危険なもの……人がいるんだよ。ホストみたいなお前みたいなやつが食い物にされちまう女たちがよ………。
香雪にすり寄る女どもはきぃと睨み、遠くにいた女は前に立って香雪を守るように構える。
「なに、あんた。コウセツ様を連れて行くつもり?」
「香雪様を傷つけるだけ傷つけて、捨てたくせに?」
「さっきから言ってるけど、それどういう意味だよ」
傷つけるとか捨てるとか意味分からなん。傷つけられるのなら、俺だぞ。
「自分の性欲を満たすために、コウセツ様も洗脳して傷つけて、飽きたから捨てたんでしょ?」
「………………」
「あんたの性欲を満たすために、コウセツ様はいるんじゃないの。消えて」
「コウセツ様は男! あんたのドールじゃない!」
火がついたのか俺に文句言ってくる女ども。話を聞いてる限り、俺が欲求を満たすために香雪を抱いたが、飽きたから彼を捨てたと思われているのだろう。
………………ちょい待て。
なんで俺が攻め前提なんだ。いや、俺が受けになんぞにはなりたくないし、男を抱く趣味はないけれど………なぜそんな思考になる?
「おい、香雪。お前、俺のことどう答えた」
「え? そりゃあ、『大切な人』だよ」
満面のイケメンスマイルで答える香雪。後ろで何人か倒れた音が聞こえたが、そんなことはどうでもいい。ほーんとどうでもいい。
「バカ香雪ッ! その回答は! 誤解を! 招くでしょうがッ!」
「えー? そうー? 柾は親友だし、『大切な人』には間違いないでしょ?」
「そうだけどよ!」
はぁ、コイツのペースに飲まれると疲れる………。
もういいや、とっと香雪に事情を説明してしまおう。
「香雪、行くぞ。俺たちは厄災を倒さなければならん。倒さないと家に帰れない」
「そうなの? 白菜ではなくー?」
「ああ、白菜は倒さなくていいんだ。俺たちが倒すのは厄災。はい、こっちに来て」
「はーい」
「ああ、香雪様………」
香雪は女を引き離し、言う通り俺の元に来てくれた。
「じゃ、迷子にならないようにこれをつけてもらうぞ」
そして、香雪に首輪をつける。別に香雪にそういう趣味があるわけではない。俺にもない。ただコイツが1人歩いて迷子にならないようにするためにつけた。
もちろん、その首輪についた鎖は俺が持つ。他のやつに持たせたらどうなるか分からない。2人一緒に迷子になられたら、元も子もない。
「貴様! コウセツ様に何を!」
「………なんだよ。首輪をつけただけじゃんか」
「なぜ首輪をつける必要がある!? 貴様、コウセツ様を自分の奴隷だと主張したいのか!」
「そんなわけねぇだろ」
誰がこんな面倒くさい奴隷を貰うか。すぐに迷子になって何にも役に立たないぞ。正直こっちは保護者気分なんだよ。
「マサキ様、マサキ様」
「ん、なんだ。姫さん」
「その首輪はマズいです。夫婦でもないのに首輪をつけるなんて………コウセツ様がマサキ様の奴隷だと誤解されてしまいます」
「え、そうなの」
女どもも言ってたけど、あれは比喩的表現ではなかったのか。
………………ま、そうか。ここ異世界だもんな。奴隷は存在しそうだもんな。
「はい。人間の首輪は奴隷の象徴なのです………奴隷制度はこの国ではかなり前に無くなりましたが、認識は完全に変わったわけではないのです」
「『夫婦でもないのに』って言ってたけど、じゃあ逆に夫婦で付けた場合はどう思われる?」
「そういうプレイだと思われます」
「………………」
なんだこの世界。元の世界もSMプレイだと女王様だとあるから、文句は言えないけれど、こっちの世界も大概だな。
「とりあえず
じゃないと、GPSがない今どこに行くか分からん。下手すれば南極大陸に上陸しちまう。
そうして、無事香雪を回収した俺たちは出口へと向かって歩き出す。ちらりと後ろを見ると、残された女たちは涙目で香雪を見つめる。香雪も気づいたのか、振り返った。
「みんな、じゃあね」
「こ、コウセツ様………」
「じゃあ、行くぞ」
「うん」
俺は彼女たちを無視し、即座に出口を目指す。
………なんだか嫌な予感がするだよ。一刻も早くこの場を去りたい。
「コウセツ様は私たちが守るべき人だ」
「ここで諦めちゃダメ…………」
「よし! あの男からコウセツ様を引き離せ!」
「コウセツ様を返せェ――――ッ!」
嫌な予感は当たるもの。案の定、暴徒化した風俗お姉さんたちが一斉に走り出し、俺たちを追いかけてきた。振り返れば、一部には武器を持っている奴が見えた。野蛮すぎないか?
「はぁ、やっぱか………走れ! あいつら香雪を奪いに来るぞ! ていか! 帰るぞ! 王城にはわんさかいい筋肉人間が待ってるぞ!」
「ほ、ほんとうか!」
複数の筋肉女に魅了されていたていかを呼び出し、店の外へと全力ダッシュ。
廊下を走っている途中、ていかにやられて気絶していたはずの管理者っぽいパンツスーツ女は起きたのか、すれ違った。
気づかないでいてくれたが、れんげが「じゃあね。カッコイイスーツのお姉さん!」と話しかけたせいでこちらの存在に気づかれた。全く、れんげはいらないことをしてくれる。
「き、貴様! コウセツ様を返せ! 彼がいないと彼女たちは仕事をしてくれないんだ!」
「やだぁよ――――!! 従業員ぐらい俺の親友なしでどうにかしてくれ!」
香雪はおたくらのホストじゃねぇんだわ!
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